『壊れた世界と、不協和音』
「その…まだつかないんですか…?」
そう不安げな声色で尋ねると彼は優しく微笑む。
「そんな心配しなくても大丈夫だ。俺の任務は国民を守ることだからな。お前が窮地に達しても俺がなんとかしてやるよ…って、ちょっと急に泣き出すなよ!?」
私はほっとため息をついた瞬間、滝のように涙が出てきた。まるで、氷塊を一気に焦がしたように溶けて涙はとどまることを知らないようだった。
「そういえば、名前聞いても——」
その瞬間、馬車の中に暴風が吹き乱れた。
「きゃあ——っ!?」
「危ない!!」
彼は私の上に覆い被さって虚空を睨みつける。
「——バレてしまったのなら、仕方がないですね。早めに片付けておきたかったのですが…」
そう言って、煙の中から人影が見えた。
——絶句した。
なぜなら——その人影には、数年前に失踪したはずの、王女が立っていたからだった。
「——今すぐこの場をお引き取り願います。もし、命が惜しいのでしたら」
「ミローザ陛下こそ、こんな荒れ果てた大地にいるのは相応しくないのでは?貴方には、慎ましく金の玉座で”お座り”しているのがお似合いかと」
「ちょっと…!?流石にその発言はやばいよ…!あの、えっと…」
「クロトだ」
「…クロトくん!!」
彼は王女に対して嘲笑を続けるが、私は羞恥心と緊張で胸が張り裂けそうだった。
「それは——挑発と受け取ってよろしいですか?」
ミローザは、バラバラに折れた木の板をギイと踏みつけ、一歩ずつ私たちの方へ迫ってきた。
「逆ギレって怖いな…女子ってこんなもんなのか?もっと気楽に行こうぜ〜」
そういいながら——彼は鋭い大鎌をどこからともなく取り出した。
私にはもう、どうすることもできなかった。
刹那。
——ピー…ピー…ピー
不快な高音がかすかに、されど確かに鳴り響いた。
「——きてしまいましたね」
ミローザが不敵に呟くと、空が——薔薇のように真っ赤に光る。
——オ…ア、ヴヴ…
不気味な声が、耳元で聞こえた瞬間——
「レクアッ!!!」
彼が私の後ろにいたナニカを、切り倒した。
そのナニカが、たくさん、ナニカが、ナニカが…
どうして⬛︎んな目に⬛︎⬛︎なきゃいけ、な、⬛︎⬛︎⬛︎…
レクアは、無彩色の世界に閉じ込められてしまった。
そして——誰かの囁きが聞こえた気がした。
『……また、同じ結末にするの?』
第二話を読んでいただきありがとうございます!
次はいよいよ王女の過去編が——!?
お楽しみに!