【第二章】「終わらない声、閉ざされた空間で」
「目のマークというから、てっきり怪物が見ているという意味だと思っておりましたが…まさか鏡のこととは予想外でしたわ」
マーレアと月鈴は、沢山の光が反射し、交差する鏡の間に訪れた。
深海の色を思わせるような、青白い鏡が世界を映し合う。
「これ…出るのは大変そうね。全ての壁が鏡になっているから、無理に前に進もうとするとぶつかってしまうわ」
「細い光を当ててみる、というのはどうでしょうか?鏡のところだけが反射するはずですから、壁と道が見分けられるはずですわ」
そう言って月鈴は小さな発光石を取り出す。
「…っ!」
発光石を照らすと——鏡に文字が浮き上がった。
「これ、見たことがあるわ。確か魔境と言って、鏡の表面に、裏側の模様を映し出すために微妙な凹凸をわざと作ることで引き起こされる現象だと」
そこには——こう書かれていた。
“なにがあっても、後ろを振り向いてはならない”
『——あなたは家族を見捨てた』
唐突に、そんな言葉がマーレアの耳にこだました。
「っ…?」
「…どうしました?急に顔をしかめて」
「今、何か聞こえなかったかしら…?」
「いいえ。わたくしには、何も?」
「…そう」
マーレアは、再び歩き出す。
『お前は忌み子だ。人間と海底人のハーフなんて、気味が悪い』
「そんなこと…っ」
「どうなさいました?さっきから様子がよろしくないですわ」
月鈴が慌ててマーレアの顔を覗き込む。
『悍ましい。よくもそんな顔ができたものだ』
『人間のふりもできない』
『くせに立派な人魚にもなれない』
『いつも短気でつまらない』
『お前なんかいない方がマシだ』
『消えてしまえばいい』
『いなくなってしまえ』
『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』
『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』
『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』
『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』
『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』『消えろ』
「——もうやめて!!」
世界が、色が、音が、鈍って、狂って、壊れて、死んで、なくなって、消えて、消えて、消えて——
マーレアは鏡に飲み込まれてしまった。
第二章八話を読んでいただきありがとうございます!
今回は少しホラーテイストに書いてみました!
次話からマーレアの過去が明かされる…!?
次回もお楽しみに!




