【第二章】「交差する運命——海底の王女と未知の世界」
「わあ…!すっごく綺麗…」
城内に入ると、淡い虹色の世界が広がる。
装飾品はすべて貝殻でできており、至るところに真珠が散りばめられていた。
「——一個くらい盗ってもばれなさそうだよね」
「警察の前で堂々とやれる度胸があればな。手錠はここにあるぞ?」
そう言ってクロトが、にっこりと笑いながら銀の手錠をちらつかせた。
完全にイタズラな少年だと思っていたが、彼は国家警察なのだった。
「着きましたね」
そこには、純白と黄金で彩られた貝殻の門が佇んでいた。
まるで夢の中にでもいるような幻想的な輝きを放っている。
私たちは、重くそびえる門を開ける。
⸻
「——失礼します」
王接間。ミローザたちは、サマーレとの会談に臨んでいた。
「姫が直々に来るなんて、随分とお騒がせなことね。これでくだらない話だったら、出禁にするわよ?」
気の強い少女——マーレアが、鋭い視線でミローザたちを見据える。
「まあまあ、遥々いらしたのですから、そう固くならずともよろしいかと」
月鈴が、優雅に微笑みながら場を和ませる。
「——今日ここへ参りましたのは、同盟を組みたいと考えているからです」
ミローザは、静かに一枚の紙を差し出した。
「世界が数年後に崩壊する?……スプリニスも落ちたものね。こんなでまかせの紙切れで同盟とは、冗談もいい加減に——」
「……待ってくださいまし、マーレア様!」
月鈴が息を呑む。
「この紙、ただの紙ではありません……裏に改変不能な術式が刻まれていて……これは——ウィンタリーズの雪鳳の印!?」
「なんで、スプリニスにウィンタリーズの術式が!?」
私はただ、ポカンとしていた。
「これは古文書に見せかけた……脅迫状、ですか?」
「……ウィンタリーズは数年前、王族を含めて虐殺されました。奇跡的に生き残った王子が、齢12で王に即位し、その後すぐに鎖国。……今も存在しているのかどうかさえ、確証はないのです」
ただただ、私は呆然とするしかなかった。
⸻
「……もし本当に同盟を結びたいのなら、条件があるわ」
マーレアは真剣な眼差しで口を開く。
「条件……?」
「”デゼルト・ウェイ”で起きている連続殺人事件の調査と、”ピラミッドの透壁”の突破。フォールジアへ抜けるには透壁を越えるしかないの」
マーレアは地図を広げる。
「事件はこの辺りで起きているの。でも、透壁が邪魔で私たちは手出しできない。まずはそこをなんとかしてもらうしかないのよ」
「連続殺人事件……」
言葉の響きだけで、息が詰まりそうだった。
けれど——クロトの表情は、さらに苦悶に満ちていた。
「……デゼルト・ウェイは、俺の故郷だ。……そこには、妹がまだ住んでいて……なんでこんな運が悪いんだよ…!」
クロトは、苦虫を噛み潰したように表情を曇らせる。
「……私も一国の姫として、見過ごすわけにはいきません。条件、飲みましょう」
「なら、ここに記名して。出発は明朝よ。今日は近くの宿で休んでおきなさい」
会談は、それで幕を下ろした。
「……大丈夫?」
私はそっとクロトに声をかけた。
「……悪い」
それだけ言い残し、クロトは部屋を出て行った。
バタン、とドアが閉まる音が、冷たく響いた。
その場に残されたのは、重く沈黙した空気だけだった——。
翌日、私たちは新しい大地——“ピラミッドの透壁”へと、足を踏み入れるのだった。
第二章第五話を読んでいただきありがとうございます!
次はピラミッドの中に入っていきます!
あっと驚く展開もこの先あるため、どうぞお見逃しなく!!