【第二章】「神殿に響く絶望——巨大鯨、襲来」
冷たい感覚が、私を貶める。
硬く、氷のような床。
私は、気だるげな体を持ち上げて——起き上がる。
「あれ…ここ、どこ…?」
そこは、まるで神殿のような場所だった。
全体が海を思わせるような青で装飾されていて、天井は深海のようにぼやけている。
私は冷たい床をペタペタと歩く。
なにもわからない、なにも感じない。ただ、夢の中にいるような——それでいて懐かしい空間。
やがて光の差すほうへ進み、大きな聖堂に辿り着いた。
——でも、それは一瞬で崩れ去った。
「……っ!」
轟音とともに、巨大な影が現れる。
それは、人の何倍もある大きな鯨だった。
「っ、とにかくここから出ないと…!」
走り出そうとしたその瞬間、柱が崩れ落ち、行く手を塞がれる。
——もう、無理だ。
私には戦う力もない。ただの水魔法しか使えない、街娘なのだから。
目を瞑ろうとした、その時——
「——はあああっ!!」
雷のような光が空を裂き、炎の蝶が鯨を貫く。
鯨は絶叫しながら、星のように砕け、消えていった。
「アンタ、大丈夫?」
現れたのは、紫紺のフードの少女と、軍服を纏った女性だった。
「っ、はあああ……死ぬかと思った…!!」
「大丈夫ですわ、あなたは生きていますもの」
軍服の女性が優しく手を差し出す。
「——わたくし、月の鈴と書いてユエリンと言いますわ。こちらのお方は——」
「マーレア。……なにか言いたいことでもあるわけ?」
「あっ、えっと……助けてくれてありがとうございます!それで、その……ここって、どこですか?」
マーレアは溜息を吐く。
「ここは海底都市と海街を結ぶ堺門よ。じゃ、私はこの後スプリニスとの会談があるから——月鈴、行くわよ」
「…あのっ!」
「……まだ何かあるわけ? 私はアンタみたいに暇じゃ——」
「——私はミローザ様の使者、レクアと言います。以後、お見知り置きを」
私はスカートの裾を摘み、礼をした。
(やった……決まった!)
私は心の中でガッツポーズを決めた。
「っ、レクア!!」
神殿を抜けて、海底都市へ戻ってきた。その時——
クロトが駆け込んでくる。
「怪我はないか!?頭とか打ってないか!?お前はただでさえマイナススタートなんだから、これ以上頭が悪くなったら取り返しが——」
「……クロトくん? 言葉には気をつけた方がいいよ?」
にっこりと笑みを浮かべながら、私は震える拳を構える。
「はいはい、もうその辺でどうですか?」
ミローザが穏やかに間に入り、雰囲気を和らげた。
“感動の再会”を演出しようと思ったのに、なんでこうなるの……。
「——それでは、会談に行きましょう。相手を待たせてはいけませんから」
アレンがきっちりと締めくくる。
——私たちは、再び共に歩き出す。
水中都市、ミリュー・サマーレへと——。
第二章第三話を読んでいただきありがとうございます!
今回は展開が一気に動き、新キャラも続々と登場する回となっております!
次回は、いよいよサマーレと同盟を組む事に
なるのか——!?
ぜひお楽しみに〜!




