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終
あのとき百里朮を刺したのは、船に積まれた木箱のなかでじっと機会を窺っていた胡珀の片割れだった。
船舶が停泊すると隆子君は一時的に拘束されたものの、胡珀の証言により無実がわかるとすぐに開放された。
対して後日、百里家の屋敷から密造された煙幕と火器が大量に見つかったことで、彼らこそが一連の騒ぎの犯人だと露見する。
百里一族は元宵の酒宴にて、国主を陥れる計略を企てた罪で捕縛された。
かくして、故事に残る黙龍と盲虎は皇帝の暗殺を未然に食い止めたのである。
――と、いうことになっている。
何も書物に綴られた内容だけが真実であるとは限らぬ。
彼らは互いを認め合ったわけではないし、助け合ったわけでもない。
しかし結果として目的は果たされ、故事として後世に残されるのならそれもまた天命。
時代を超えて語り継がれていく彼らの物語の一興であろう。