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序
【黙龍盲虎。瑕あればこそ、同舟相救う】
太古の昔から中原の地に伝わる故事成語のひとつである。
物言えぬ龍と明を失った虎。
欠けたところがある者同士だからこそ、ともに助け合うことで難局を乗り切ることができる。
転じて、欠点のある二者がそれを補い合えば、かえって長所が引き立つということの喩えである。
その由来は、かつて皇帝の暗殺を企む輩を退けたふたりの才人の故事にあるという。
一方は、江湖一の武術家として名のあった隆子君。
もう一方は、放浪を好む神出鬼没な殺し屋であった胡珀。
凄腕の武侠、孤高の刺客として名を馳せた両者だが、世間を騒がせたのはその巧みな技からではなかった。
黙龍と盲虎、それはそのまま彼らを表す比喩であって。
なんと、隆子君は聾唖で胡珀は盲目だったという。