第3話 仲裁
さて、今日から授業だ。
国語算数理科社会っと。いや、算数じゃないね。しかし、朝に用意するとはダメな人だね。まったく。私は鞄を自転車のカゴに入れて、出発した。まあ、すぐに着くのだけど。
校門に入ろうとすると、近くに同じクラスの西園 香と藤林 奈央がいた。入学式で見たときは友達同士っぽかったのだが、なんだか二人の間に不穏な空気がかもし出されていた。西園はポニーテールで黒髪、そして髪の結び目に赤いリボンをしていた。藤林はショートカットで黒髪にちょっと茶色が入った感じだった。
まあ、なんかよくわからないし、とりあえずほっておこう。私は自転車を降りて、スタスタと教室へ向かった。
教室へ入ると、宇月 美輝はすでに席に着いていた。頭のほう、というか髪を見たら月の髪飾りは6つのままだった。どんどん減っていってしまっても困っちゃうもんね。私は安心した。小さいなぁ、私は。
そうこうしているうちに授業が始まった。最初は先生の自己紹介的なものもあって、あんまり頭を使わずにすんだ。
ぼけっとしていたら、もうお昼の時間である。っと同時に私の星の髪飾りがふわっと浮いて、西園 香と藤林 奈央の周りとぐるぐるッと回って、また私の髪に戻ってきた。
今日はこの二人かぁ。
私は一緒にお弁当を食べようと、西園を誘った。
「うん? いいけど」
次に藤林を誘った。
「え? まあいいけど」
藤林は西園のほうをチラッと見て、ちょっと嫌そうだったけど、了承してくれた。ちょっとぎこちなかったけど、とりあえず三人で食べることになった。
みんな席が離れていたので、教室の真ん中のほうに机を合わせて座った。
普通の、初日は机の近いものどうしで食べたりするよね。机を長距離移動させて、周りにちょっとはた迷惑気味になってしまった。
っで、お弁当箱を広げていて、食べながら話そうとするのだけど、とにかく話しづらい。頑張ってみて、私と西園、私と藤林との会話ができるのだけど、西園と藤林の組み合わせでの会話はない。そうこうしているうちにお弁当も食べ終わってしまって、結局何も情報を得ることもなく、食事が終わってしまった。
まだお昼休みは残っているのだけど、机の位置を戻して、どうしようかな~って思っていると、誰かが後ろから話しかけてきた。
振り向くと、黒髪でセミロングといった髪の長さの女子がいた。仲解 繋美であった。仲解は西園、藤林と同じ中学校らしく、よく知っているらしい。話を聞くと、昨日、映画を観るのに、待ち合わせの約束をしたらしいのだけど、藤林が時間通りに来なくて、結局、映画が観られなかったらしい。それで一方的に西園が怒り、藤林もふてくされてしまったようだ。
待ち合わせに時間通りに来なかったのなら、しょうがないね。しかし、どうやって解決しよう。
まずはどうして待ち合わせに時刻に遅れてしまったかだ。しかし、藤林に直接聞くのはちょっと嫌かな。正直に答えてくれそうにないし、なんか怒りそうな感じだし。
「キーンコーンカーンコーン」
午後の授業が始まり、解決策を考えているうちに、下校時刻になってしまった。もちろん、策はまだ何も考えついていない。
自転車に乗り、校門を出ようとすると、一人の短髪の男の子が歩いてきた。小学生中学年ぐらいだろうか。うちの高校に向かっている感じがするが、なんのようだろう。そう思ってみていると、男の子のポケットから何かが落ちた。透明なビニール袋だった。中には布かなにかが入っている感じだった。
私はひょいっと自転車を降り、その透明なビニール袋を男の子に渡した。
「これ、落としたみたいだよ」
「ありがとう。これ、大事なものだったんだ」
私、良いことしたじゃん、と変に高揚感が高ぶった。いや、今はそんなことはどうでもいい。
男の子に話を聞いてみると、街で走っているときに転んでしまって、足に怪我をしてしまったらしく、この学校の制服を着た学生にハンカチ等で、治療してもらったらしい。
「あっ、あの人だ。お姉さんと一緒いる!」
私は目線を、男の子の指の先の対象に向けると、不機嫌そうにしている西園と藤林だった。それにしても、喧嘩しているのに、一緒に下校するとは。仲がいいのか悪いのか。
しかし、この男の子が西園の弟だったとは。たぶん、男の子の治療をしていたので、藤林は待ち合わせの時間に間に合わなかったのであろう。
まあ、でも今は喧嘩をしていてタイミングが悪いと、男の子に言い聞かせ、ちょっと離れたところから二人を見ていることにした。
西園と藤林は無言で歩いていた。めっちゃ気まずいだろうななんて思いつつ、校門を出ていくその後ろ姿を私たちは見ていた。
後を追う感じで、少し後ろから男の子と一緒に二人を見ていると、いきなり西園がこけた。石ころにつまずいたようだ。
そのまま見ていると、藤林が無言のままポケットからハンカチを取り出して、西園の脚に巻いていた。
「その巻き方、下手だなぁ」
西園がそう言った。
火に油を注ぐ発言に、私は困惑してしまった。これはとてもヤバい。
そう思っていると、西園は続けてこう言った。
「昨日、弟がその巻き方のハンカチを付けて、帰って来たよ。治療してくれたのは、藤林だったのか。ごめんな。知らなかったよ」
よし。このタイミングだ。男の子よ。今、この時、お礼を言いに行くのだ。そう思って、男の子の肩を叩いた。
「お姉さん。昨日はありがとう」
男の子は走りながら言い寄った。
三人を見ていると、どうやら二人とも仲直りしているような感じだった。
その瞬間、私の髪飾りの星がふわっと浮き上がり、二人のほうへ向かっていき、西園と藤林の周りをぐるぐるっと回った。
グッジョブ、私。と思っていたけど、よく考えたら、私はほとんど何もしてなかった。
そして、星の髪飾りは天へ向かって消えていった。どうせなら、二人分だから、二つ飛んでいけばよかったのに。なんて思ったが、もちろんそんなことはなかった。
これで私の星の髪飾りは6つになった。
宇月の月の髪飾りはいくつになったのだろう。
そんなことを考えながら、私は帰路へ着いた。