第2話 感謝される私
「どうしたの?」
女の子はこちらを見て、こう言った。
「ぬいぐるみを無くしちゃったの」
これもなんだかテンプレっぽかったが、まあそれは置いておこう。とりあえず、今現在、ぬいぐるみは無いのだから、一緒に探すしかないね。
話を聞くと、先ほどまでコンビニにいたらしい。そうそう、女の子の名前は来谷 有津子と言うらしい。見た感じ、小学生低学年っぽい。
私は女の子と一緒に、コンビニまで行った。骨なしのチキンみたいなやつや、チキンナゲットみたいなやつの香りがしてきた。おっと、そんなことはどうでもいい。いや、本当はどうでもよくないが。
コンビニの店員に尋ねてみると、ぬいぐるみを拾ったとの報告はないらしい。女の子と一緒に店内を探したが、それらしい物はなかった。
ほかにどこへ行ったのかを聞いてみると、どうやら駅前の噴水の近くにいたらしい。
と言うわけで、噴水のところまで来てみた。大きな噴水で勢いよく水が飛び出ている。そういえば、水が躍るって表現を聞いたことあるな。まさにそんな感じだった。しかし、女の子の心情を理解してほしい。こちらはそんな気分じゃないのよ。もっと落ち込んでくださいよ。噴水さん。って、それはやはり無理か。
さっそく、噴水の周りなどを調べてみたが、それらしい物はなかった。よく見ると水面に何か浮いていた。近くまで行って調べてみたが、ただのゴミのようだった。誰だ、こんなところに捨てたのは。
しかし、ここに浮いてなくって良かったのかもしれない。水を吸い込んで重くなったぬいぐるみをそのあま女の子に渡せるはずもないし。
「ないの~?」
女の子が泣きそうだ。早く探さないと。
他に寄ったところはないかと聞くと、バス停の標識の時刻表を読んでいたという。利用するつもりはなかったが、見るのが好きらしい。
バス停のほうへ向かっていった。自転車があるのだから、乗せていけば早く移動できると思ったが、二人乗りは危ないので、やめた。
女の子と一緒にバス停へ向かった。次第にバスの標識が見えてきた。まあ、この距離からぬいぐるみが見えないと、まず無いよね。一応、周りを探してみたが、もちろんなかった。
「そういえば、公園でシーソーに乗っていた」
女の子がそう言った。
公園はスーパーの近くだ。また引き返さないと……
しかし、長い一日だなぁと思いながら、自転車を押していると、まもなく公園へ着いた。
シーソーの周りを調べてみたが、特に何もなかった。しかし、シーソーっていつぐらいから自分は乗らなくなったのかな。再び、乗ってみたい気分になったが、周りの目が気になって乗らなかった。まあ、私と女の子以外は誰もいないのだけど。
ちょっと疲れてきたので、ベンチに座っていると、私に付いている髪飾りの一つが離れて、ふわっと足元のほうへ移動した。
「ちょっと、どこに移動するのよ!」
と思っていたら、ベンチのもうちょっと下のほうまで移動して、なにやらぐるぐると回っている。
ベンチの周りはあまり整備されておらず、草もたくさん生えていた。
しかし、星の回っているところをよく見ると、なにやら白いものが見えた。ひょっとしてぬいぐるみの耳の部分では……と思って、拾ってみると、耳の部分だけだった。すぐ近くに本体も見つかったけど、どうしよう。
「え……」
女の子は泣きそうだった。
私はすかさず簡易裁縫セットを取り出した。こういう時のために持っているのよ。まず、こういう時っていうのは来ないけど。しかし、どうやら来たらしい。
さささっと、私はぬいぐるみの補修をした。
うん。元通りだ。元通りの姿は見てないけど。
「ありがとう!」
女の子は喜んでいた。喜んでいるのだから、きっと元通りなのだろう。うん。
女子は去っていった。
すると、先ほどの髪飾りの一つが女の子の周りをくるくるッと3周ほどして、空のほうへ向かって消えていった。
これが、星を返すって事なのだろうか。
なんかよくわからないけど、満足して家へ帰ろうしてところ、宇月がこちらを見ていた。私の顔を見てちょっと笑っているようだった。
美輝の髪を見ると、月の髪飾りが2つ減って、6つになっていた。
「そういうことなのね」
私は一人で呟いた。