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【短編小説】情報収集能力

作者: 青いひつじ

あなたは一体、何者ですか。


自分の長所•短所というのは、就職面接において、ほとんどと言ってもいいほど聞かれる質問である。


どのような人間なのか、どのような能力があるのか、その能力を使いどのように貢献できるのか。

それを、美しく簡潔に、相手がその風景を想像できるように分かりやすく、説明しないといけない。

だから僕は、たった7行に収まってしまった自分の人生に落ち込んでいる暇などないのだ。



僕と接した人は、みんな僕のことを"優しそうな人"という。きっと、何を聞かれても基本的に"なんでもいいよ。好きなもの選んで"と回答するからだと思う。

"なんでもいい"と言う人は、相手に譲れる優しい人、ではない。

相手に対して、なんの興味も無いのである。

どっちでもいいというのは、同時に、どっちもいらないということであり、それはつまり、どうでもいいということである。

この自分に気づいたのは、中学生の時だった。

僕は昔から、他人に興味がなければ、自分にも興味がなく、ましてや自分の性格について考えようなど、思ったことすらなかった。



しかし僕の自慢は、知識欲と情報収集能力である。

調べて学ぶことが好きだった僕は、友達ができてから人間心理についてよく調べた。そうして、人の心というものを学んで習得し、実践しながら生きてきた。情報がすぐそこに落ちているこの現代で、携帯をひらけば、自分という人間について知るなど、容易なことなのである。



僕は、ネットで見つけた転職サイトの性格適性診断なるものを受けてみた。

企画•開発に向いているという結果が出た。

人と心を通わし、笑顔と親しみやすさが命の営業には、僕は向いていないという。



僕は別の性格診断を受けてみることにした。

調べていると、海外で人気と噂のアルファベット4文字の性格診断テストを見つけた。

僕は、論理学者という結果だった。

理論的で革新的なアイディアを持つ人間であり、問題解決が得意で、頭の中は常に多くの考えでいっぱいだと書いてあった。結果は悪くなさそうである。

"共感力が劣る"というのは、どうやら僕の短所らしく、改善策を考えておく必要がある。

適職は、研究者、プログラマー、ITエンジニアなど、論理学者らしい結果だった。


僕は、自分の深層心理について知りたいと考えた。

窮地に追い込まれたストレス状態の中、自分はどのような心境になり、どのように切り抜けるのか知りたかった。


生年月日で分かる深層心理占いとやらを受けてみた。

僕は、根っこの部分では社交的な人間らしい。どんな逆境にも打ち勝ち、粘り強く絶え抜く力があるという。人の気持ちをよく思いやるが、全体的には大雑把な性格のため、論理的な道筋を立てたり、問題について分析するのは苦手だと書いてあった。


先ほどの論理学者とは、書いてあることが反対のようにも感じるが、しかしこうしてみると、性格というのは非常に面白いものである。

十人十色、同じ人間はいないと言いながら、ある程度はカテゴライズできてしまうらしい。


コミュニケーション能力に長けていて、相手によって話し方を変えることができる。

熱しやすく冷めやすい。

周りを気遣う。

集中力があり、根気強い。

大勢で賑やかなのも好きだが、どこかで1人でいたいと思っている。

コツコツ努力家である。

穏やかな性格が好感を持たれる。

気づけばリーダーになっているタイプ。


画面の向こうの言葉はまるで僕のことを知っているかのように心地が良く、僕にだけ当てはまる特別なことのように感じた。

まるで自分の取り扱い説明書を見ているようで、楽しくなった僕は、他の占いもいくつか試してみることにした。





3月。面接当日。


「それでは最後に、あなたという人を一言で表現してください」


「はい。私は....」




僕の頭の中を、調べたたくさんの情報たちが駆け巡る。


周りに気を遣い、コミュニケーション能力に長けており、熱しやすく冷めやすいですが、集中力はあり、コツコツ努力家で、論理的思考を持ち合わせ、想像力豊かであり、穏やかな性格が好感を持たれ、気づけばリーダーになっているタイプ。




僕は、一体、何者なのだろう。






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