表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

オールオアナッシング 下


 ヤベっタイトルミスった


 ……あっ、三人称です


「魔法の使い方を教えて欲しい?」


「ああ、そういえばアズサちゃんはこの世界に来たばっかりだったわね。いいわ、折角だし教えてあげるわ」

「――魔法で重要なのは『イメージ』よ」

「イメージ次第では魔法は何色にだって色を変える」

「……と言っても鮮明にその光景をイメージできたからって星を崩したり天変地異を起こせるわけじゃない。もちろんできることの上限と下限は明確に決められてるわ」

「でも、その振れ幅は魔法を使う人次第よ」

「はっきりと目の前の敵を焼き尽くすイメージをすれば雑魚スキルも時に強者に牙を剥く」

「逆にそういうのに不慣れな初心者の魔法はどうしても火力が出ないわ」

「高位の魔法使いはどんなに心が荒れても出力を安定させる技術で魔法のそういう気紛れな性質をモノにする。けどそれができるのはほんの一部……千人に一人くらいだけね」

「とはいえこれは私たちの話。貴女たちは「スキル」を使えばそんなややこしいことをしなくても魔法を使えるわ」

「変に想像力を高めるよりスキルレベルを上げた方が効率的よ」

「ただ魔法を使いたいだけなら専用のスキルを獲得すれば十分だわ。レベルが上がれば自然と魔力を知覚できるようになって魔力操作も難なくできるようになる」

「今はレベルを上げることだけを考えなさい」


「だけど……忘れないで」

「私たちとプロセスが異なるとはいえ貴女が使うのは同じ「魔法」だわ。強くイメージすれば魔法はそれに応えてくれる」



「――魔法と心は常に切って離せないなのよ」






「『立ち去れ』」


 黒い修道女には名前がない。いやその表現は正確ではない。

 彼女は名前を奪われた。

 すべての始まりは忌まわしいあの【双頭】がこの教会に土足で踏み入り、彼女を含めたあらゆる人物を蹂躙した。

 それだけならまだいい――断じて彼女はそう思わないが――のだが【双頭】はそれだけに飽き足らず更なる悪辣で彼女たちの魂を冒涜した。


――即ち、魂の束縛。


 【双頭】は死して廻るはずだった彼女たちの魂を強引に骸に押し込め傀儡とした。

 非力な彼女たちに拒否権などなく、ただ死後も体を弄ばれるばかり。

 消えたい。何度もそう祈った。

 しかし時が経ち、何百年もの年月を経て彼女のそんな願いはいつしかボロボロに風化していた。どれだけ月日が過ぎても彼女は「透過」のせいで死ねず、こうしてまだ今も罪のない少女を殺そうとしている。


 どれだけ祈っても無駄だ、意味がない。

 

「『立ち去れ』」


 練り上げた魔力は凶刃へと姿を変え侵入者に降りかかる。

 誰かを殺そうとして彼女の心は微塵にも動きはしなかった。

 もう感じない。


 私は命令を遂行するだけの人形――そこに私の意思は、いらない。


 地獄のような日々を耐え抜くために形成されたその現実逃避じみた精神性は、より鋭い刃のイメージを構築し侵入者を処断しようとする。


「――――」


 侵入者との距離はおよそ数メートル。

 これだけの至近距離、しかも彼女が使う魔法は回避が困難な不可視の風の刃だ。

 避けられるはずがない。

 しかし侵入者はほとんど直感で身をかがめ、次の瞬間にさっきまで侵入者が立っていた場所に風の刃が通り過ぎる。


 かなりの精度で魔力を認識できているのか、それともただ単に勘がいいのか。

 

 どちらにせよ厄介なことに変わりはない。


 今ので修道女と侵入者の距離はほとんど0になってしまったが、「透過」によるあらゆる攻撃を無効化できる彼女には関係がなかった。

 修道女の「透過」の攻略法――それは時間経過だ。

 修道女は四六時中いついかなる時も「透過」を発動しているわけではない。

 「透過」は現実から自身の存在を忘れさせる魔法だ。

 その絶大な効果に反さず消費魔力はかなりのもので、実戦での運用は三分が限界だ。


 三分。侵入者は三分修道女を足止めすればよかったのだ。


 そうすれば無防備な修道女を袋叩きにできた。――私を殺せた。


 やっぱりこの人も違うのか。

 修道女は小さく落胆する。


 後はこの無防備な少女を風の刃で切り刻むだけだ。

 これだけの至近距離だと自分も巻き込んでしまう、あるいはそれが侵入者の目的なのかもしれないが、「透過」は修道女自身の魔法も対象内である。

 これで終わりだ。修道女は侵入者と自分へ風の刃を放つ。


 その寸前。



「――〈獣気活性・【加速】〉」



 侵入者の全身から溢れる血のように赤いオーラ。

 先程までは小粒のようなだった侵入者の能力は著しく跳ね上がり、鬼神を前にしているような恐ろしい気迫に修道女は息を呑んだ。

 いや、何を不安になる。「透過」はあらゆる干渉を受け付けない――たとえどれだけ目の前の侵入者が強くなろうと意味がないのだ。

 修道女の祈りがそうだったように。


――本当に?


 修道女の胸に沸き上がった疑念は「透過」の完全性に対するものか、ずっと昔に蓋をしたはずの感情に対するものか。

 彼女の魂が揺れ動き、微かに魔力制御に綻びが生まれる。


「ええね、ええね。それでこそアズサちゃんや」


 更にずっと奥に隠れていた侵入者の仲間はケラケラと笑い、傘に見える「杖」を振るった。

 それに応じて侵入者の力が更に引き出されるのを修道女は肌で感じた。

 支援魔法、それもかなり高度だ。無駄をそぎ落し洗練された「侵入者が修道女を倒す」という鮮明なイメージが込められている。


 今この瞬間、目の前の侵入者の力は修道女を大きく――否、遥かに上回った。


――負ける。


 直感的に修道女はそう魂で感じた。


「――――」


 修道女は己へ刃を振るう侵入者の顔を見た。

 少女は笑っていた。

 それはあたかも肉食獣がか弱い家畜を捕食する寸前のような、凄惨でこの世のものとは思えない笑み。


 修道女はイメージしてしまった。この少女に()()()()光景を。


 その瞬間――ほんの僅かに「透過」に穴が生じた。

 ほんの些細な、本来なら取るに足らない隙間。


 しかし侵入者の刃は確かにその僅かな穴を捉えた。

 ガラスの窓をバットで叩けば割れるように、貫かれた穴を起点として「透過」は連鎖的に破綻し、鋭利な刃は修道女の体を切り裂いた。


 薄れゆく意識の中、修道女は侵入者を見た。


 たとえこの肉体が壊れても修道女の運命はこれで終わりではない。

 【双頭】が死なない限り修道女は、その魂は永久に利用され続ける。だが修道女の胸の中で動き回るのは一筋の期待だった。


 私は祈りは、もしかしたら無駄じゃなかったのかもしれない。


 そう修道女は小さく笑って息を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ