ウチも同行しよう
「初めましてアズサちゃん。ウチは洛楽、気楽に先輩とかマイハニーとか呼んでな。てかあんたえらい別嬪さんやな。どう、今度ウチの家でお茶でもせん?」
今思い出してもラク先輩の初対面は酷かった。
ちょっと用事があって事務所に来てた私に挨拶しにきた先輩は馴れ馴れしく肩を組んで、ついでにちょっと私のない胸に体をくっつけて勝手にがっかりしてた。
いやそんな顔するくらいならセクハラすんな泣くぞ。
そんなセクハラおじさんことラク先輩はなぜか妙に私を気に入っていて、私に関連するアカウントは全部フォローしており、更にマネージャを通して私の行動を逐一把握しているらしい。普通に怖いんだが。
「え? どうしてそんなにウチがアズサちゃんを気に入ってるのかって?」
ラク先輩は珍しく少し恥ずかしそうな顔をしていた。
「それはなぁ――」
その時彼女が語った言葉は今ではよく覚えている。
正直、私にはそれがどうして私にストーカー紛いの行為をする理由になるのか分からない。
でも嘘を言っているわけではなさそうだった。
やっぱり変な人だなぁ。でも、だからこそ配信者になれたのかも。
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「銚国」(強化:なし)
・物理攻撃+27(斬撃属性付与)。
・耐久値:140/140
・深淵火山フローゲルで採取された鉄鉱石で鋳造された短刀。切れ味が非常に優れておりその刃は肉を骨を豆腐のごとく寸断する。
また所有している間は常時わずかにSPが消費されるが耐久値が回復する。
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買っちゃった。
「おー、似合っとる似合っとる。というかアズサちゃんは何持ってても映えるなぁ」
と満足そうに手を叩くラク先輩。自分がお勧めした武器を私が買ってご満悦な様子だ。
「…………」
一方の私はお手本のような仏頂面だ。
別に私はラク先輩のアドバイスを鵜呑みにしたわけじゃない。
この人は私と一緒に始めたってほざいてたし情報量は私とほぼ変わらないはずだ。なので信憑性はあまり期待できない……のだが多くの視聴者が「あの産廃買うくらいなら絶対銚国買った方がいい」って言うもんだから結局銚国を買うことになった。
視聴者の中には私よりもこのゲームに詳しい人もたくさん居るだろうし、わざわざ貴重な金をドブに捨ててダガーを買う気にはあまりならなかったんだよね。
「ほな、アズサちゃんの装備も更新したしそろそろ新しいエリアに行くで。この街に居てもあんまやることないしな」
「私も同行することになってるのは気のせいかな?」
「いやいや、ウチとアズサちゃんは運命共同体。切っても離せぬ間柄や。せやから一緒に行動するのも自然やろ?」
私いつのまに先輩と運命共同体になったんだ……。
「それに、これから妻になる子とは親睦を深めたいしなぁ」
「妻になんかなりません。そもそも日本じゃ同性婚は認められてないでしょ」
「ほな認められている国に二人で……」
「行きませんよ。ほら、先輩も忙しいでしょうから早く帰ってください」
「またまたそう言って~。このツンデレさんめっ」
そう言ってラク先輩に小突かれる。なんというか、その言動には陽キャのキツいノリに似たものがあった。
こうなったらラク先輩はテコでも動かない。
不本意だけど、満足するまで我慢するしかなさそうだな。
「はぁ……今日だけですからね? 一応言っときますけど、変なことをしたら置いて行きますよ」
「やったー! アズサちゃん大好きやで!」
「はいはい」
おもちゃを買ってもらった子供みたいにラク先輩は喜ぶ。
これが演技とかじゃなくてちゃんと裏でもこんな感じ、というか裏だともっとブレーキが踏めなくなってるから余計に酷いまである。頼むから自重して欲しい。
「それで、これからどこに行くんの? ウチのおススメはこの街から少し移動した町や。丁度この時期にえらい派手な祭りをやってるからデートにぴったりやで」
「一人で行ってください。……マーシャちゃんから装備を整えたら【道化の窟】ってところに行くと強い敵と戦えるって聞いたので、そこに行こうかと」
「マーシャちゃん!? まさか浮気……!?」
あー、無視無視。反応するだけエネルギーの無駄遣いだ。
私は勝手に騒ぐラク先輩を無視して東の方向に歩く。
マーシャちゃんから教えてもらった【道化の窟】だがこの場所からそこそこ遠く、歩くと数時間はかかりそうだった。
そうやって地道な道程を楽しむのもゲームの醍醐味ではあるんだけど配信にはテンポというものがある。
あんまり視聴者を飽きさせるわけにはいかないのだ。
なので、私はこのゲームならではの移動手段を使うこととしよう。




