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進撃の先輩

 マーちゃんはそれなりに多忙らしく、少し話した後「これからよろしくね、アズサちゃん♡」と言い残してどこかに行ってしまった。

 本人は教えてもらったこの町にある追求者連合の支部にしばらくは滞在しているのですぐにまた会えるとのこと。


 思わぬイベントに見舞われて考察厨に仲間入りした私だが、いい加減ゴブリンの鉈じゃ何するにしてもキツいということで、マーちゃんおススメの武器屋に足を運んでいた。


「いらっしゃい。好きな武器を選んでいきな」


「うん。ところでここの商品って盗めたりするの?」


「……いきなり物騒だな。そりゃ存在してるんだから盗むことも可能だろ。だがお勧めはせんぞ。衛兵に一生駆け回されることになる。それこそ地獄の果てまでな」


 窃盗でそれならPKでもしたらどうなるのかな。


 そんなことを考えながら、私は展示された武器を吟味する。

 

『鎧買え鎧』

『防御0じゃこの先やっていけないぞ』


「えー、だって鎧ってむさ苦しいじゃん。それに女の子とハグした時肌のぬくもりを全然感じられないでしょ? 却下だよ却下」


『なぜ女を抱く前提なんだ……』

『どうせそうだろうとは薄々感じてた』


 視聴者に呆れられる中、私は良さげなダガーを見つけた。


「これ触っていい?」


「盗むなよ」


「盗まないよ。盗むならもっと高価なものにするから」


「……そうか」


 こいつ追い出そうかなぁ的な顔をする店主さんだった。


 店主さんの許可も得たところだし、早速私はダガーを手に取ってみる。

 

「うわ、重っ……」


 このゲームは鉄の重さもしっかりと現実に即して再現しているので、ほとんど現実の私と変わらない筋力ではこのサイズの武器も扱いづらい。私が鎧を却下したのは趣味を楽しめなくというのもあるけど、自重で動けなくなる事態を危惧していたというのも大きい。

 あんな重そうな鎧を着たら鎧の重さに貧弱な体が耐えられなくなって死にかねない。


 ただ使ってみた感じ少し操作性には難があるけど、筋力をちょっと上げたら全然使えそうだ。ここまで来たら他の数値に浮気しないで徹底的に器用値に全振りしたくもあったけど流石に背に腹は代えられないかな。


 値段も900ターンと生活応援価格だ。

 うん、買うならこれでいいかな。


「あー、それやめた方がええよ」


 ダガーを持って店主のところに行こうとした私に声をかけたのは私と同じくらいの身長の女の子だった。

 穏やかなそうなたれ目が特徴的で和服に近い装いをしている。


 というかこの声……どっかで聞いたことがあるぞ。


「コストも安めで使いやすそうに見えるけど、実はこれめっちゃ耐久値がお粗末なんよ。使ってたらすぐ壊れるからあんまお勧めできんわ。逆にこの銚国(ちょうこく)って短刀は結構長持ちするし強化したら化けるからめっちゃええよ」


 この掴みどころのない佇いに特徴的な大阪弁。

 何よりその玉を転がすような高く澄んだ声を私は知っている。

 

「……なんでここに居るんですかラク()()


「来ちゃった✩」


 嬉しくねー。


 満面の浮かべるこの女……洛楽(らくらく)は私が所属する事務所NEXT・ORの配信者だ。ついでに私より少し前にデビューした先輩でもある。


 豊富な話題の引き出しから裏付けされるトーク力は事務所の中でも頭一つ飛び抜けていて、その登録者は85万人ほどだ。

 彼女の性格はかなり極端で自分の興味のないもの(歌とかボイスとか)には一切興味を示さない代わりに一度のめり込んだものには徹底的に傾倒(けいとう)して、ゲームに集中し過ぎて数日食事や睡眠を忘れるなんてこともザラらしい。


「久しぶりやね。あんまり会ってなかったけど元気そうでウチも安心や。凹んでるアズサちゃんなんて全然手に入れ甲斐があらへんからな」


 そう言いながらさりげなくラク先輩は私の腰に手を回す。私はセクハラするのは好きだけどセクハラされるのは嫌なのですぐさまその手を払った。


「あはは、私そういうのはあんまり興味なくて……」


「まぁまぁ、そう言わずに。な?」


 な?じゃないのよ。早くどっかに行きなさーい。

 

 飄々とした性格のラク先輩だが何が気に入ったのかかなり私に執着している。恐ろしいのがこれが配信を意識してとかじゃなくて本心から私にそういう感情を持っているぽくて、実は何度か真面目に私の貞操が危なくなった場面もあった。イベントの打ち上げで居眠りしちゃって起きたらラク先輩の自宅だった時は本当に生きた心地がしなかった。

 私は確かに女の子が好きだけど恋愛対象とかではない。なので隙あらばお持ち帰りしようとするラク先輩はちょっと……いやかなり苦手だ。


「ラク先輩はなんでこんな所に? もしかして私と一緒のタイミングでアスチェを始めたんですか?」


「そんな嫌~そうな顔せんでええやろ。でも実際当たっとるよ。あのアズサちゃんがこんな今時のゲームをやるって聞いて居ても立ってもいられず始めたんや。」

 

 悪びれもなくそう宣うラク先輩。


 私は思った。

 心底関わりたくね~。


「あ、そうですか。先輩も頑張ってくださいね。じゃあ私はこれくらいで……」


「ちょっと待ってや」


 がしっ。

 めちゃくちゃ強い力で掴まれた。


「ウチが逃がすと思う? 折角一緒のゲームするんやし、仲良くしようや。ね?」


 ああ、これ逃げられないな。


 私はゲーム開始早々別の意味で詰んだことを悟った。

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