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プロローグ


「う~ん……。困ったなぁ。めちゃくちゃ困ったなぁ」


 どれくらい困っているのかと言うと困り過ぎて自宅で逆立ち歩きしながらコーヒーを無意識で飲んでたくらい。

 あまりにもヤバすぎる奇行。

 だがしかし、私こと白崎(しらざき)沙織(さおり)がこうも困っているのにはある理由がある。

 それも私の人生を左右しかねない重要な問題だ。


 私が直面している問題――端的に言うとそれはネタ不足である。

 

 実は私には白崎沙織以外にも別に名前がある。

 渡瀬(わたらせ)アズサ。

 それがインターネット上で配信者として活動している私のもう一つの名前だ。

 主な配信内容は雑談やゲーム配信で、頻度はほとんど毎日である。


 ちなみに所属事務所は【NEXT・OR】。

 当時の私でも知っていた超大手事務所だ。

 所属配信者の多くがウン百万ものの登録者を誇り、海外展開も順調だとかそうじゃないとか。


 そんな大手事務所になんか私が所属したのにはある経緯がある。

 確か一年くらい前だったか。


『あはは、なんか面白そうだったから沙織ちゃん名義で公募に送っちゃった✩』


『……は?』


 腐れ縁の幼馴染のせいでなぜかオーデションに参加させられた私。

 でもね、私も最初は高を括ってたんですよ。


 だって何千人、いや何万人が我こそはと応募するオーデションだよ

 皆たくさん努力してるだろうし、実力もしっかりしている。


 一方私ときたら配信経験0の一般ピーポーだ。

 調べたらここ最近では配信経験があるのが大前提で、それ以上のモノを見出された人がオーデションに受かるらしい。

 お、なら私なんかが受かる訳がないよね。

 そう高を括っていた時期が私にもありました、はい。


 な ん か 受 か っ て た。


 意味不明すぎる。

 ちなみにマネージャーさんに理由を聞いても全然答えてくれないので、未だに私もどうして自分が受かったのか何も知らない。

 またしても何も知らない沙織さん(17)である。


 そんなこんやで途中色々ありつつデビューした私なわけですが。

 驚くことに今現在の登録者は20万人。

 同期の子はつい最近40万人超えたことを考えると何とも言えない気分になるが、それでも私にしてはよくやったと自負している。

 

『アズサちゃんの配信はリラックスして見れる』

『ポンコツ。だがそこがいい』

『いつも配信楽しみにしてます! 応援してます!』 

『アズサちゃんの蒸れたストッキング頭に被りたい』

『足舐めたい』


 そんな暖かいコメント(なお下二つは無視する)と視聴者に囲まれながら楽しく配信活動をしていた私だが、配信歴半年にしてある問題に直面した。


『なぁ白崎さん、あんた昔のゲームばっかりし過ぎや。そのせいで内容が単調に、言葉を選ばなければマンネリ化しとる』


 実際ここ最近は昔の……二十年くらい前のレトロゲーにハマってて多少マンネリ化してきたことは薄々感じていた。

 とはいえ、いざマンネリ化を解消しようとしても面白い企画は思い浮かばず。

 こうして悩んでいるうちに数日が経ってしまった。


「あ~。無理無理しんどい」


「沙織ちゃん悩み過ぎてメンヘラみたいになってわよ。いっそそういうコンセプトでASMRしてみたら?」


「親も見てるんだよ……ご飯食べる時私どんな顔すればいいのさ」


「笑えばいいんじゃない?」


 笑えねぇよ。

 顔引き攣るわ。

 すべての元凶である私の幼馴染が愉快そうに笑いながら私にビニール袋を渡す。よくこの子は私の家に入り浸ってるのでこの子の存在に驚いたりはしなかった。


 中に入っていたのはおにぎりやら飲み物やらの差し入れ。

 私はそれをありがたく受け取り、さっそくツナマヨを頬張る。


「結構悩んでるそうじゃない。マンネリ化なんて、配信者は大変ね」


「その配信者に私を仕立て上げた張本人がよく言うよ」


「照れるわね~」


「言っとくけど全然褒めてないから」


 思わず溜息を吐くと、彼女はごそごそと鞄から何かを取り出した。

 

「……これは?」


「配信のネタが浮かばなくて悩んでるでしょ? もしかしたら何かの役に立つんじゃない?」


 そう言って彼女が私に差し出したのはゲームのパッケージだ。

 タイトルは【Astro chase on-line】。

 

「……え、何これ?」


「あはは、やっぱり沙織ちゃんは知らないのね。さすがインターネット老人って揶揄されるだけあるわ」


 あれ……今バカにされた?


「これは最近やたらと流行ってるVRMMOってやつらしいわよ。リリースされたのは数カ月前。世間様からの評価も上々よ。内容はオープンワールドを冒険する結構ありふれた内容だけどストーリは結構凝ってるみたいだよ。沙織ちゃんは古いゲームばっかりやってマンネリ化してるなら、逆にこういう新しいゲームをやってみればいいんじゃない?」


「なるほど、その手があったか!」


「逆になんで今まで思いつかなかったのよ」


 時代も変わったもので、最近はVRヘッドギア―とかいうハイテクがあれば仮想現実としてゲームの中に入り込むことができる。

 私はあんまりこういうのやらないから、いい感じに視聴者さんに新鮮感を与えられそうだ。


「よし、そうと決まれば早速サムネ作り! 告知! 配信だーっ!」


 悩みが消えたおかげで体が軽い。

 意気揚々と私は配信準備を進めるべく作業部屋に向かった。

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