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第31話 勇者に騙された村を救う

 今、改めてユミス様のお力を……いやこの世界を統べる神の力を思い知った。


「ユミス様、さっき使われたのは雷ですよね。神級の魔法の」


「そうじゃ。力を抑えて上級にしといてやったがの。水と風を足すと雷の魔法が使えるのじゃ」


 あの威力で上級だったんですか。どれだけ魔力が高いんですかっ。


「わらわが直接手を下してはいけんのじゃが、そなたの教育のためじゃ。仕方なかろう」


 スライムたちが巣食っていた村の畑は黒こげになっていた。


「ありがとうございます。ですが、ヴァリマテ様に怒られてしまうんでしょう?」


「そうじゃが、今回はおそらく大丈夫じゃろう。この村の者たちもかわいそうで見ておれんかったからの」


 後ろからディートリヒたちのうめき声が聞こえてきた。


「いー、たたたっ。なーんだったんだ? 今の」


 クリストフとリーゼロッテも頭を抑えながらこちらに戻ってきた。


「よくわかんねぇけど、いきなり吹き飛ばされて……」


「ぎゃっ! な、なにこれ……」


 ユミス様が放った雷の威力を思い知ったか。


「よくわからぬが、雷がいきなり落ちてきてスライムどもをやっつけたぞよ。よかったのう!」


 ユミス様……なんという嘘が下手な……


「へ? 雷が落ちたの?」


 ディートリヒは気づいていないのか、間抜けな顔でユミス様を見ていたが、


「あ、あは、あはは。これぞ勇者の奇跡!」


 とんでもない機転に私はずっこけてしまった。


 クリストフとリーゼロッテもずっこけてる。


「んなわけないでしょー!」


「バーロー。俺を誰だと思ってる。ゆ、う、しゃ、だぞー。こんくらいの奇跡、ちょちょいのちょいよ!」


 剣を突き立てて大笑いをする勇者に村人たちが歓喜している。


 悪党だが、この柔軟性の高さだけは敬服するよ。


 ユミス様は手柄を取られたはずなのに、「ほほ」と笑って村へ戻っていってしまった。


「なあ、リーゼ」


 その小さな後ろ姿をクリストフとリーゼロッテが怪しそうに見つめていた。



  * * *



 奴らはスライムが全滅すると思っていなかったのだろうが、討伐は終わったので街へすぐ戻るようだった。


「ディートリヒ様。すみませんが、私とユミはもうしばらくここに滞在したいと思っています」


 馬車に乗り込む奴らに私は言った。


「へ? 一緒に帰らないの? なんで?」


「雷とスライムのせいでこの村の畑が台無しになってしまったので、村の作業を手伝おうと思います」


 ディートリヒはあからさまに嫌な顔をした。


「なんでそんなことすんの? そんなことしても金は出ないんだよ。それでもいいの?」


「はい。金にはさほど困っていませんので。二、三日したら合流できると思いますので先に戻っていてください」


 クリストフとリーゼロッテも顔をしかめていたが、彼らはやがて面倒に思ったのか、街へと戻っていった。


「さて、ユミス様」


「邪魔者がやっといなくなったようじゃの」


 あのスライムは間違いなく奴らが持ち込んだ魔物たちだ。


 静かになった村人たちをすり抜けて村長の家に戻る。


「なんじゃ。お前ら、まだ残っておったのか。わしらからいくら金を奪っていくつもりだ!」


「待って! 落ち着いて。とりあえず杖を下ろしてください」


 取り乱す村長を説得して中へ入れてもらった。


「魔物どもは退治したんだろ。ならば、これ以上話すことはあるまい」


「いえ、まだあるんです。村長も知りたくありませんか。あのスライムたちがなぜ急に現れたのかを」


 目を怒らせている村長の顔つきが変わった。


「スライムどもが……? あんたはいったい何を言ってるんだ」


「順を追って説明します。スライムという無機質系の魔物がいますが、この魔物は特定の場所で発生して増殖を繰り返します。奴らは核となる身体の中心部分を二つに分け、その分かれた核を元の大きさまで戻すことで増殖を繰り返せるんです」


 スライムに関する知識は大分前にギルドから教わっていた。知識はかなり曖昧だけど。


「だから、なんだというんじゃ」


「要するに、一匹のスライムをどこかから持ち出せば無限に増殖させることができるんです」


「あのスライムどもが、どこかから持ち出されたとでも言うのか?」


「はい。そして、おそらくですがスライムを持ち出したのはディートリヒたちです」


 村長が細い目を見開いた。


「な、なんと……」


「奴らは魔物を利用して近隣の村から金を巻き上げているんです。被害に遭っているのはここだけではありません。いくつもの村が被害に遭っているのを私は見ました」


「そんな……! では、わしらは奴らのせいで、金を奪われてるばかりか、畑まで荒らされて……」


 村長にとって死刑宣告にも等しい事実だ。


「そんな! そんな、ことが許されて……」


 むせび泣く村長をユミス様が支えた。


「辛かったの。残念じゃが、過ぎ去ってしまった時を戻すことは神の力をもってしてもできん。じゃが、明るい未来を取り戻すことはできる。後はわらわとヴェンにまかせるのじゃ」


 村長が泣き止むまでユミス様が優しく介抱されていた。


「まかせる……? 今まで散々悪事をはたらいておいて、まだお前らはわしらを利用するのか。お前らの力など誰も借りんわ!」


 まずいっ。村長が我を失ってる……!


「聞き分けの悪い者じゃ」


 ユミス様が右手を差し出して魔法を唱えると、村長が金縛りに遭ったように身体を止めた。


「な、なんだ……!?」


「あまり興奮するでない。わらわとヴェンが、あんな下っ端の仲間な訳がなかろう」


 ユミス様が力を解き放つと村長が床にへたり込んだ。


「誤解しないでください。私はユミと協力してスライムの巣を叩きますが、報酬は一切いただきません」


「なん、じゃと」


「私も奴らに苦しめられた被害者です。奴らの悪事を暴いて、奴らに天罰を下したいのです。そのために、どうか協力してほしいのです」


 村長は泣き腫れた目で私をじっと見ていた。


「本当に、金を取らんのか?」


「はい。取りません」


「ヴェンよ、何日か滞在するんじゃろうから、どこかの家は借りた方がよいのではないか?」


 ユミス様の言う通りだった。


「そうでした。使ってない空き家でいいので、数日間だけ貸してください。それだけで結構です」


「……わしにはお前らの考えが読めん。お前らはその実、何を叶えたいんじゃ」


「さっき言った通りですよ。私も奴らに復讐したいんです。では、ここからは聞き込みになるんですが、スライムはどこからやってくるか、わかりますか?」


 村長が訝しい目で私を見ていたが、やがて考えはじめた。


「すまないが、わしは村の者から報告を受けるだけだから、詳しい場所はわからんのだ」


「そうですか。なら、村の方から聞いてみます」


「すまないが、そうしてくれ。あと……」


 村長が乾いた唇を動かして、何かを言おうと逡巡していた。


「言われてみれば、あんたの言う通りだ。あの魔物どもが現れたのは、勇者どもが村にふらりとやってきた頃と同じだ」


「やはり、そうでしたか」


「昔のことだからよく覚えてはおらんが、あんたの言っていることは間違ってないかもしれん」


「ほほ。ヴェンは嘘などつかぬよ」


 ユミス様が手を口に当てて笑った。


「どこの誰だか知らんが、この通りだ。どうか、わしらを助けてくれ」


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