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第118話 太陽大神殿へ

「マルは火の魔法も使えるんだね!」


 マルの強さに感服した。


「火の魔法は初級のスキルしか使えないけどね。格闘技だけだと通用しない場面があるからって、お師匠さんから叩き込まれたんだよ」


「初級の魔法でも充分だと思うけどな」


 燃えひろがりそうな炎をアクアボールで消火する。


「あの炎をどうやって手にまとわせてるの?」


「ふふ。見てみるかい?」


 マルがにぎっているナックルダスターを見せてくれる。


 銀色のナックルダスターはよく見てみると薄いピンク色で――


「あっ、妖精銀!?」


「そう! あたしもつくってもらっちゃったっ」


 マルの武器も妖精銀でつくられたものだったのか。


「だから魔法と組み合わせられたんだね」


「前にランスを見せてもらったときに、あたしも欲しいって思っちゃってさー。でもこの武器すごいね! 可愛いだけじゃなくて性能もすごいっ」


「妖精銀は魔法に強いから、すごい便利だよねー!」


 マルの強さは予想以上だ。


 ユミス様も感心しきりだ。


「これだけ強ければ何も言うことはないのう、ヴェンよ」


「そうですね」


 マルを新たに迎えて四人パーティになったのだから、新たなフォーメーションを考えておいた方がいいかもしれない。


「みんな、ちょっと集まってくれ。この森に入る前に軽く打ち合わせを済ませておきたい」


「打ち合わせ?」


「また魔物に遭遇したときに備えて作戦会議的なことでもするつもり?」


 近くに休める場所はないから、森の前の野原で集まるしかない。


「マルに新たに加わってもらって私たちは四人パーティになった。みんな充分に強いが、それぞれの力を存分に発揮するためには役割をある程度決めておかなければならない」


 近くに落ちていた木の枝を拾って地面に絵を描く。


「まず、盾を持ったアルマが前衛、敵を直接的に攻撃できないユミス様は後衛だ。これが私たちの軸になると思う」


「うん」


「ヴェンの頭がまた冴えてきおったの!」


 地面に盾を持ったアルマと小さいユミス様を描く。


「マルと私はその中間。アルマの後ろで攻撃の機会を伺うんだ」


「オーケー。攻撃ならあたしにまかせて!」


「マルはどちらかというと前衛、私はどちらかというと後衛になると思う。だから状況に応じてマルがアルマをサポート。私はユミス様とともに後衛でバフをかける役まわりもこなせる。この辺りは戦況によって見極めていくしかないな」


 今までは前衛のアルマ、中衛の私、後衛のユミス様でほぼ固定だったが、マルの加入によって幅が劇的に広がった。


「へぇ。みんながそれぞれ勝手に戦うだけじゃなくて、こんなふうに人を配置できるんだね。すごいね!」


「強敵と戦うときほど、このフォーメーションが生きてくるはずさ。みんなが勝手に戦うとうまく連携できないからな」


「ヴェンはこんな難しいことも考えられるんじゃな。わらわたちの作戦参謀じゃな!」


 作戦参謀だなんて大げさだな。


 アルマは妖精銀の盾とランスを置いて、私の描いた絵をじっと見つめている。


「アルマ、なんか不満ある?」


「ううん。不満は特にないんだけど、どんなときもこの形で戦わないといけないのかなって」


 ああ、融通が利かないことを気にしているのか。


「さっきみたいに、それほど強い敵でなければフォーメーションは気にしなくていいと思う。フォーメーションを活用するのは個々で対応できない強敵と対峙したときかな」


「個々で対応できない……サイクロプスとかのことだよね」


「そうだな。サイクロプスやドラゴンなどの強敵が現れたときこそアルマの盾が必要になる。きつい役まわりだけど、当てにしてるぜ」


 メトラッハの郊外に広がる森は魔物が出没するが、そこまで強い魔物はいない。


 木や草の魔物はマルが放つ火の魔法が効く。


 殺気をみなぎらせていても、火を目の前にすると彼らはすぐに退散していった。


「火の魔法があると植物の魔物が近づかなくなるんだね」


「そうだね。雨の日とかは使えない魔法だけど、戦いを早く終わらせられるから、あると便利だよね」


「わたしは火の魔法はバフしか使えないから、マルが羨ましいなぁ」


 火の魔法はいい加減覚えないといけないかな。


「ヴェンならすぐに覚えられそうだけどね」


「他の魔法で代用できてたから、すっかり後まわしにしてたよ。そろそろ習得を検討するよ」


 長い森を抜けると高い丘が眺められる場所に出た。


 ゆるやかな坂道を登って太陽大神殿に到着した。


「ここが父上のために用意された神殿じゃな」


「広い……」


 丘の広い土地に石造の建造物がいくつも建てられている。


 平らに均された地面には石床が敷きつめられて、モニュメントのような柱や石像が直線的な風景に変化を与えている。


 石壁で仕切られた土地にはたくさんの建物があり、多くの人が住めそうな広さだ。


「めちゃくちゃ広いね、ここ」


「さすがヴァリマテ様のために用意された大神殿……」


 これだけ広いと手入れするだけでもかなり手間がかかるんだろうな。


「わらわたちの他にも旅人や冒険者がいるようじゃのう」


 神殿の大きな門や、その先の大通りで旅人や冒険者とすれ違う。


「ここはどうやら観光スポットになっているようですね。メトラッハからも近いですし、人が訪れやすいんでしょうね」


「森の魔物がいるから、訪れやすい神殿だとは思えんがのう。みんな、あの魔物を倒してここに訪れておるのか?」


 私たちのような冒険者は魔物と戦えるが、旅人の全員が戦える訳ではないはずだが。


「もしかして道を間違えましたかね」


「むむ。魔物が出ない安全な道が他にあるのかの?」


 光の神官フリーゼを探す前に神殿の中を観光していこう。


 太陽大神殿は施設の真ん中に巨大な神殿があって、その周りにたくさんの小さな神殿が建てられているようだ。


「門からあの真ん中の神殿までがすべて祭殿さいでんじゃな。向こうにある神殿は本殿ほんでんじゃろう」


「祭殿? 本殿?」


「へぇ。ユミちゃん、神殿に詳しいの!?」


 さすが神様。神殿に関して私たちよりはるかに詳しいか。


「当たり前じゃ。わらわは神じゃからの」


「へぇ。じゃあ、祭殿ってなんなの?」


「祭殿というのは簡単に言えば信者や参拝客が訪れる場所じゃ。本殿はわらわたち神や神官が暮らす建物じゃな」


「参拝用と生活用で分かれてるんだね」


 神殿の役割とか建物の区分けはちゃんと知らなかったな。


「わらわたちも訪問客に見られながら生活はできんからの。小さい神殿ならこのような区分けはないが、父上や母上の神殿は大きい上に訪問客も大きいから、いくつも神殿を建てられて神官たちによって保護されておるのじゃ。羨ましいのう」


 ユミス様の神殿は小さくなかったけど、建物はひとつしかなかったからなぁ。


「ユミス様にはわたしたちがついてるから!」


「そうだよ! 数は少なくてもあたしたちの力は凄まじいからね。そんじょそこらの連中には負けないよ!」


 それでも私たちの信仰の篤さとチームワークの良さは他所と比べても遜色はないか。


「おお……お主ら……っ」


「ユミちゃんのおっきな神殿もそのうち建てようねー」


「はは。五十年後くらいには建てられるかもしれないな」


 あの小ぢんまりとした神殿も好きだったけどな。


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