公衆の面前で『キミを愛するつもりはない』と言った婚約者は、世界中から強烈なバッシングに晒され、絶望的な破滅へと向かった
結婚式を1週間後に控えた私は、婚約者のバーランドと教会のテラスに立っていた。
テラスから見下ろすと、そんな2人を一目みようと沢山の人が集まっている。
『おめでとうございます!バーランド王子!』
『おめでとうございます!エミリア王女!』
私は隣国からこの国へ嫁ぐ事になった。
元々両国は不仲だったが、ここ最近はそんなムードも薄れてきて、晴れてこの度、両国の王子・王女が婚姻に至ったのだ。
私はテラスの上から手を振った。
市民は皆、2人を心から祝福してくれているようだった。
…しかし、隣に居るバーランドは仏頂面を崩さなかった。
婚約が決まったのは約3ヶ月前。
それから私たちは何度か顔を合わせ、今後の打ち合わせ等いろいろ行ったが、最後までバーランドが笑顔を見せる事はなかった。
「式の当日はこのテラスで誓いの言葉を述べましょう。これだけの市民が集まっているのです。そのほうが皆、喜びます。」
と、当日に担当してくださる神父が提案してくれた。
『うわあ!素敵!』
『今からさっそく、予行演習してくださいよ!』
市民からも喜びの声が飛ぶ。
その時、バーランドが口を開いた。
「私は…」
聴衆が固唾をのんで見守る。
「私は、キミを愛するつもりない」
………私は耳を疑った。
「い、今なんと!?」
神父も困惑している。
「聞こえなかったのか?ではもう一度言う。私はキミを愛するつもりはない。」
『ザワザワ……!』
聴衆もざわめいている。
私は、状況を把握する事ができず、何の言葉も出なかった。
「それはどういう事ですかな!?」
代わりに神父が問うてくれた。
すると、バーランドはうんざりした顔で答えた。
「この結婚はお互いの親が決めたものだ。私は一切関与していない。私は迷惑くらいに思っているのだ。」
バーランドは一層不満気な顔をした。
すると、神父の表情が変わった。
「…ここは神の御前ですぞ?神の前で愛を誓うためにここに立っているのではなかったのですか?それは神に対する冒涜ではないのか?」
するとバーランドは呆れた顔で言った。
「やれやれ…神の前で誓うとか、とんだお遊戯だな。では挙式当日も神に誓ってやろう。『わたしは愛を誓いません』ってな。」
…私はハッと我に返った。こんな公衆の面前で侮辱を受けているのである。
怒りが沸々と湧き上がってきたその時、神父がつぶやいた!
「貴様……許さん」
…神父は手に聖剣を持っていた!
今にもバーランドに斬りかかりそうなオーラだった。
「…!貴様だと?神父よ、口の利き方に気をつけろ。」
バーランドは一瞬動揺した顔をしたが、すぐに神父をたしなめた。
「口の利き方に気をつけろだと?貴様、私を誰だと思っておるのだ?」
…神父は眉をひそめた。
その時!
「も、申し訳御座いません!教皇様!」
…バーランドの両親が飛び出してきた!
「ウチの馬鹿息子がこのような口を利いて…。あとでしっかりと叱っておきます!」
「…教皇様?」
バーランドの顔が曇る。
この神父はただの神父ではなかった。
関係の悪かった両国の、この記念すべき婚姻に、教皇様がみずから神父役を買って出てくれていたのだ。
宗教色の強いこの世界では教皇の地位は最高峰だ。どの国の国王よりも力を持っていた。
「…叱るだけか?」
教皇様がバーランドの両親を睨む。
「い、いえ!釜ゆでの刑に処します!」
『ザワザワ!ザワザワ!』
市民のざわめきがとまらない!
『釜ゆでの刑』、つまり、苦しみながらの死刑という事だ。
「ち、ちょっと待ってくれ!」
…バーランドは明らかに動揺していた。さっきまでの余裕は無かった。
「神への不敬は謝罪する。だが、これで釜ゆでの刑は厳しすぎる!」
すると、少し落ち着いた教皇様が言った。
「バーランドよ、おぬし、親の決めた結婚だから納得していないと言ったな?」
教皇様は一旦聖剣を仕舞った。
「ええ、…言いました。」
バーランドはさっきまでの威勢が無くなっていた。
「なら、どうして事前にその事を両親に言わなかったのだ?」
教皇様は子供を諭すような目でバーランドを見つめる。
「そ、それは…言っても無駄だと思ったからです。」
バーランドは答えた。
「言っても無駄?言わないと分からないだろう。おぬし、年は幾つだ?結婚をするような年齢だから、もういい歳なんだろう。そんな男が、自分の考えを親に伝えることもできないのか?」
すると、バーランドの両親が再び口を開いた。
「も、申し訳ございません!私共の教育が悪かったせいでございます!」
…バーランドのご両親は土下座していた。
すると、教皇様は再び、諭すような口ぶりで言った。
「お二人とも、顔を上げなされ。私はただの神の使いだ。だが、神の代わりに罪には罰を与えねばならない。教育が悪かったせいで今日のような事を招いたとするならば、おぬしたちはどうするのだ?」
教皇様は厳しい顔で両親の顔をのぞきこんだ。
「わ、我々両親も、釜ゆでの刑に処されます!」
…なんと!バーランドの両親は思いもよらぬ事を口にした!釜ゆでは死ぬのだ!
『ザワザワザワザワ!!』
市民のざわめきがおさまらない!
「ま、まってくれ…ください!」
顔面蒼白のバーランドが声を上げた。
「私が悪かったです許してください、私が悪かったです許してください…」
バーランドはひたいが擦りむけるほど土下座しながら、教皇様に許しを乞うた。
すると教皇様は、
「バーランドよ、顔を上げなされ。さっきも申したが、私はただの神の使いだ。…そなたの気持ちは分かった。それでは一旦、結婚式の当日までバーランドの処遇は預かる。それで良いな?」
「……は、はい……」
バーランドはもう、声を出すのもやっとといった感じだった。
……一連のやりとりが終わり、教会の玄関を出た。
『エミリア王女様!大丈夫ですか!?』
『我々市民は王女様の味方です!』
『バーランド王子、最低!』
市民の方々が私をいたわってくれる。
一方、バーランドの方に目をやると、
『バーランド王子、お前最悪だな!』
『ダッサ!自分で喧嘩仕掛けといて、ダッサ!』
『エミリア王女様の気持ち、考えた事あるのか!?』
市民達から罵声を浴びせられていた。
そして、生卵、トマト、芋などが矢継ぎ早に投げつけられる。
さらに…
『バーランド王子、『キミを愛するつもりはない』と言った時のお気持ちは!?』
『どのあたりで『ヤバい』と思い始めましたか!?』
『土下座したのは人生で初めてですか!?』
…国内外が注目する結婚だった為、各国の記者からも矢継ぎ早に質問が投げつけられていた。
…そうこうしているうちに、私たちはお城へ戻った。
私も1ヶ月前から花嫁修行を兼ねて、バーランドのお城にすでに住んでいた。
お城に着いたバーランドからは、投げつけられまくった食材のいい香りがしていた。
そして城内に入り、両親からボコボコに殴られているバーランドを横目で見ながら、自分の部屋へ戻った。
◇◇◇
…しばらくすると
『コンコンコンッ』
ノックの音がした。
扉を開けると、バーランドの義理のお姉さん、『モニカ』が立っていた。
「ちょっといい?入るわよ。」
モニカはズカズカと入ってきた。
…このモニカ、クセモノで有名なのだ。
自分の事が一番で、有る事無い事ウワサ話をばらまき、関わると大抵ロクな事がないと、誰もが分かっている人物だった。
そんなモニカが部屋に入ってきた。
「アナタがエミリアね。」
私がモニカとまともに話をするのはほぼ初めてだった。
「見てたわよ、今日の教会での出来事。」
私は何を言われるのかドキドキしていると、
「ほんっと、あのバーランドって奴、最低ね。私、許せないわ。」
…なんか、味方っぽいスタンスで語り始めた。
「まあ私、性格悪いのは自認してるんだけどさ、アイツほどではないわ。」
モニカはバーランドに矛先を向けている様子だった。
「だからさ、私、アイツ潰すわ。私のネットワーク使って、アイツがいかに最低な人間か、国中の人に言いふらしてまわるわ。だからアナタも、適当に話合わせといてね。」
モニカは半笑いでそう言うと、私の肩をパンパンッと叩き、高笑いしながら部屋を出ていった。
◇◇◇
〜 次の日 〜
…今日は朝からお城の門の辺りが騒がしい。
『バーランドを出せ!』
『なんて酷い奴なんだ!』
『人類の敵だ!』
市民の方々がお城に詰めかけていた。
私が門の方に行くと、
『あ!エミリア王女!我々はエミリア様の味方です!』
『毎日、バーランドから鞭打ちをされて、いたのでしょう?かわいそう!』
『ロウソクも垂らされていたって聞いたぞ!』
『靴の裏を舐めさせられていたとか…バーランド、最低!』
…市民から様々な言葉が飛び交う。
どれもこれも身に覚えは無かったが、モニカの仕業だということはすぐに分かった。
『NO バーランド』や『バーランド反対』といった横断幕も作られていた。
私は城中に戻り、バーランドの部屋をのぞいた。
バーランドはクッションを頭の上に持って、四つん這いになって震えていた。
その後、私は電子掲示板を立ち上げて世界情勢をチェックした。
この時代では技術が進み、世界中の人が電子掲示板なるもので、自由にコミュニケーションが取れる。
そんな中、私は『匿名掲示板』を目にした。
そこには、
『【名言】キミを愛するつもりはない について語るスレ』
『バーランドの土下座クソワロタwwwww』
『バーランド一家の釜ゆでを実況しようずw』
などといった事が書き込まれていた。
世界中に、昨日のことは知れ渡っているようだった。
◇◇◇
そしてお昼ご飯の時間。
給仕係の方が話掛けてきた。
『エミリア様!これを食べて元気をだしてくださいね!』
…私の目の前にはキャビア・フォアグラ・トリュフ等の高級食材から、北京ダック・燕の巣といった高級東洋料理まで並んでいた。
一方、バーランドは素うどんだった。
給仕係から、七味は自分で取れと言われていた。
◇◇◇
…その次の日には、外国の商人がバーランドを訪ねてきた。
私が部屋にいると、バーランドと商人が話をしているのが聞こえてくる。
「…知らん!勝手にしろ!」
バーランドが叫んでいる。
『と言うことは、『キミを愛するつもりはない』を商標登録するつもりは無いという事でよろしいですね。』
…なにやら難しそうな話である。
『…それでは、商標登録は私共の会社が取らせてもらいます。『キミを愛するつもりはないスタンプ』や『キミを愛するつもりはないグッズ』、『アニメ、キミを愛するつもりはない』等々で出た利益は全て当社でいただきますので、こちらに権利譲渡のサインをいただきます』
「何を言っているのかよく分からん!好きにしろ!」
…バーランドは何やら書類にサインをさせられていた。
◇◇◇
その次の日には子供達が遊ぶ声が外から聞こえてきた。
『ジャンケンで負けた奴がバーランドな!』
『ジャンケン、ポン!』
『うわっ!俺がバーランドかよ!』
『じゃあ……『キミを愛するつもりはない!』』
『ギャー!』
『最低ー!』
『クソ野郎!……』
ジャンケンで負けた人がバーランドとなり、みんなから罵詈雑言を浴びせられるというゲームのようだった。
◇◇◇
そんな日々の中、いよいよ結婚式の3日前、私の父上…つまり、隣国の国王が私を尋ねてきた。
「おお、エミリアよ。元気か?」
…私の父上は非常に穏やかな人でいつもニコニコしていた。優しさが滲み出たような顔をしていた。
「そういえば、先日、バーランド王子と少し騒動があったようだな。」
すでに父上の耳にも入っていた。
「まあ噂話なんてアテにならないからな。実際はどうなんだ?」
…私は先日あったことを有りのまま正直に答えた。
すると父上は、
「ははは、そうかそうか。それは大変だったな。」
父上は穏やかな表情を崩さずに笑っていた。
「では、教皇様は結婚式の当日の誓いの言葉まで、王子の処遇を待つとおっしゃったのだな。」
(「結婚式の当日までバーランドの処遇は預かる。それで良いな?」「……は、はい……」)
確かに、このようなやりとりをしていた。
「よし、分かった。ではその時にバーランド王子が愛を誓ってくれるのを期待しよう。」
父上はニコニコしながら言っていた。
「……ただし」
父上の顔色が変わった。
「もしもまた、『キミを愛するつもりはない』などとふざけた事をぬかしたら、即座に我が国100万の軍勢をもってこの国を滅ぼす。」
父上の顔はまさに『鬼の形相』へと様変わりしていた。
「1日のうちに、草木一つ生えない地にしてくれるわ。」
…そういうと父上は、一旦隣国へと帰っていった。
…私と父上とのやりとりは、バーランドと両親も窓越しにのぞいていた。
3人の顔面は、蒼白を通り越して、もはやスケルトンだった。
◇◇◇
そしていよいよ結婚式前日。
私が水場へ手を洗いに行くと、ばったりとバーランドと出くわした。
なんだかんだ、この1週間、話をする機会は無いままだった。
久しぶりに間近で見たバーランドは、以前の威風堂々とした風貌はなりをひそめ、まるでコケシのようだった。
「や、やあ…」
バーランドがあいさつをしてきた。
…しかしその後沈黙。
なので私は口を開いた。
「…バーランド様、私がどのような気持ちで、この国に嫁ぐという決心をしたと思いますか?」
バーランドは黙ったままだった。
私は続けた。
「私は王家に生を受けた以上、そこには使命があると考えています。」
そして
「私はバーランド様の家に嫁ぐのですが、それと同時に貴方の国に嫁ぐのです。」
さらに
「両国の民が平和に、そして幸福に暮らすため、また未来の子供達も同様に末長く平和に幸福に暮らせるため、私はその象徴となれるよう、覚悟を持って嫁ぐ決心をしました。」
バーランドは口を開けたまま聞いていた。
「貴方は『私を愛するつもりはない』とおっしゃいました。」
…バーランドは白目を剥き始めていたが、無視して続けた。
「私は『愛』はそこにあるものではなく、育んでいくものだと思います。最初から無いのは当然です。そして、放っておいて出来るものでもありません。努力によって実らせるものだと考えています。」
さらに
「もちろん、『夫婦愛』だけではありません。いままでの両国の歴史や郷土に対する愛着、沢山の人の夢や希望の象徴として、我々王族は存在していると、私は考えています。」
そして
「それらを全て鑑みて、貴方はどう思うか。…よく考えて、教皇様がおっしゃられていた明日に備えていただければと思います。」
コケシのようだったバーランドは、今度はマトリョーシカのようにだんだんと小さくなっていった。
「最後にもうひとつ」
私は付け加えた。
「『キミを愛するつもりはない』とおっしゃっていた時、それを言ってる自分に若干酔ってましたよね?」
…マトリョーシカはビクッとしていた。
「教皇様も、親が決めた結婚が嫌なら最初に言っとけ、というような事をおっしゃってましたが、私も同感です。余りにも幼い、余りにも子供じみた、到底大人とは思えない言動です。」
さらに
「それに、教皇様の御顔すら知らず、教父に対して神を冒涜するような言動をぶつける。確か、
【やれやれ…神の前で誓うとか、とんだお遊戯だな。では挙式当日も神に誓ってやろう。『わたしは愛を誓いません』ってな。】
などとおっしゃってましたよね?
他人の誇りを汚すのを目的とするような言動、論外です。論ずるに値しない言動だとは思いませんか?身の毛がよだつ、吐き気をもよおす、ヘドが出るとはこの事です。」
…この時点で、バーランドは顕微鏡で探さないと見えないくらい小さくなっていたので、私は部屋へと戻った。
◇◇◇
〜 結婚式当日 〜
いよいよ結婚式当日。
教会には教皇様をはじめ、全市民が集まっていた。
そして、国の周りではすでに、父上の軍勢100万人がスタンバイしていた。
私は純白のドレスに着替え、準備万端だった。
その時、市民の中から罵声が上がった!
バーランドが到着したのである。
『来たぞ国賊!』
『てめえこのやろう!』
『ふざけんなゴラァ!』
罵声と共に投石も受けながら、頭に鍋をかぶって教会に入っていった。
教皇様はバーランドに何か声を掛けるかと思いきや、フル無視だった。
◇◇◇
そしていよいよテラスでの誓いの言葉の時間…!
簡単ではあるが、私が先に、誓いの言葉を口にした。
『エミリア王女すてき!』
『がんばって!』
『みんなが付いてますよ!』
『ゴゴゴゴゴゴ……!』
市民全員、また、100万の軍勢からも祝福の声を一斉にいただき、それが地鳴りとなり、地面が揺れていた。
そしていよいよバーランドの誓いの時!
「バーランド、貴方はエミリアに愛を誓いますか?」
…教皇様が尋ねた。
手には聖書ではなく、磨き上げられた聖剣を持っていた。
「………わ、わたしは……」
バーランドの蚊の鳴くような声が響く。周りは静まり返った。
「わ、わたしは………」
その時、教皇様が小声でつぶやいた。
「…おぬし先日、神の前で『愛することはない』と申したな?もし今、万が一『愛することを誓います』などと申したら、それは神に対する虚偽だ。直ちにこの場で叩っ切る。」
愛を誓う→聖剣で叩っ切られる
誓わない→100万の軍勢が押し寄せる
以上の事が今、確定した。
バーランドはショックの為か、前歯が4本その場で一気に抜け落ちた。
そして!バーランドは叫んだ!
「わ、わたしは何も悪くない!神よ!私を救いたまえ!」
なんと!バーランドは神に救いを乞うた!
予想外の展開に、市民や軍勢は唖然としている…!
……沈黙は1分ほど続いただろうか。
…すると、教皇様は私の方を向いて、ニッコリと微笑んだ。
「エミリア殿、今日のところは一旦お城に戻って休みなされ。」
さらに私の父上も近づいてきた。
「エミリア、教皇様がこうおっしゃっているんだ。お言葉に甘えてゆっくり休んでいなさい。」
いつもの温厚な声だった。
私は皆に促されるまま、お城に戻って一旦休んだ。
◇◇◇
…私は目を覚ました。
知らず知らずのうちに眠りについてしまっていたようだった。
私が広間へ降りると、いつもの様子で給仕係の方があいさつをしてくれた。
『エミリア様、おはようございます。紅茶でもお注ぎしましょうか?』
…バーランドの気配がない。
ただ、それ以外は何も様子は変わっていなかった。城中の皆もいつもと全く同じ様子だった。
私は紅茶をいただいた後、外へ出た。
街もいつもと変わらない様子だった。
ただ、100万の軍勢はすでに帰っていた。
『エミリア王女!おはようございます!』
『エミリア王女にお会いできるなんて嬉しい!』
『みんな、エミリア王女をお慕いしています!』
…私は、昨日のことを尋ねようと思ったが、なんとなくやめた。
私は教会へ行ってみた。
すると、教会の前にちょうど父上と教皇様が居た。
「おお、エミリアか、おはよう。」
父上はいつも通り優しく微笑んだ。
「エミリア殿、昨日はゆっくりと休めたかな?」
教皇様も私のことを気遣ってくださった。
「実はこの教会はもう取り壊そうと思うのだ。」
教皇様は言った。なんでも、新しい場所に立て直すらしい。
さらには、この国は今後、父上が国王を兼任して統治するとの話も出た。
…そういえば、バーランドと同じく、その両親の姿も見えない。
私は教会のテラスへ行ってみた。
そこは昨日と変わらない景色…。
ただ、赤い色のしぶきだけが激しく壁や床に染み付いていた。おそらく洗ってもこすっても取れないくらい、赤い色のしぶきが飛び散りまくっていた。
私は、きっと誰かがトマトジュースをこぼしたのだ、と理解した。
あの日から誰も、結婚式やバーランドの話をするものは居ない。まるで存在していなかったかのように。
私も口にする事は無かった。
ただ、教皇様が『聖剣が刃こぼれした』とだけおっしゃっていたのは印象的だった。
さあ!私は今日も、王族としての仕事を全うするぞっ!
〜 おわり 〜
読んでいただきありがとうございます(^-^)
下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価をタップいただけるとすごく嬉しいです!
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どんな評価でも作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします(*^▽^*)