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川へと銀河を流す

作者: N.river

 川へと銀河を流す。


 思い立つまま出立していた。だから普段着のまま、足元も履きつぶしたサンダルがちぐはぐだ。けれど幸いに気兼ねなく、こうしてスネまで水の中へ入ることができている。


 出口をなくしたのかのように軌道を描き、回り続けていた惑星たちが、水面に触れたとたん水にあおられ動きを乱していた。何者だろうと立ち入らせることのなかった虚無の中へ、水もゆっくり染みこんでゆく。


 川上からは、そうして同じように放たれた銀河がぽつり、ぽつり、と流れてきていた。まだじゅうぶん光を放つものもあれば、今にもほどけてしまいそうなもの。もうほどけて軌道を失った惑星だけが流れてくることもあった。蓄えられてきた時間とエネルギーは今、儚いほどその身を混沌にもてあそばれている。


 やがて混じり合うと大海で、全てはまた新しい銀河を形成するという。

 そのとてつもない質量と広さに、常に圧縮され続けるとこの器官では、光さえ吸い込むそこを見ることはかなわない。

 けれど受ける影響がこうして川をその方向へと流しており、どれだけ離れていようと逃れられないその力に、たとえ今は一部であろうとやがてすべてになることを感じ取るからこそ、みなして銀河を流しに来るのだった。


 すっかり水を吸い込んだ銀河が膨張している。惑星たちの軌道は水にほだされると、浮かぶ泡のようにてんでバラバラ、揺れていた。揺れてやがて大好きだった冥王星が、軌道から開放されて一足お先、いわんばかりに抜け出してゆく。追いかけ土星もひときわ早い流れに乗ると、小舟のように水面を逃げていった。金星も、上から流れやって来た見知らぬ銀河の名残と絡み合い、くるくる踊り去ってゆく。


 思い出とは、寂しさが作るのか。

 ひとつだけ。

 と拾い上げ、月へ伸ばした手を引っ込めた。


 いつかすべてになるだろうから、寂しさなど、そう、おこがましい。


 太陽が、しみいる水にじゅ、と燃え続けた火を消し去る。その見たこともない塊は肉を剝いだ骨のようで、晒し、太陽もまたあまた銀河の中へと紛れていった。


 もうどれがどれだかわかりはしない。

 果ての、目にする事など出来やしない大海は、そうしていつかこの記憶もはらむのだろう。いやすでに幾重にも、誰かの目が見た同じ光景を銀河ごと、光すら吸い込むほどの重量で蓄えているのかもしれず、寄せるこの気持ちの特別さなど欠片もありはしないのかもしれなかった。


 水から引きあげる。


 「ありきたり」に慰められ、濡れたサンダルで家路についた。

 明日も、今日と変わるところはなにひとつとしてありはしない。

 ただ銀河を流しに来れた事だけを、良かったと思う。

 もういくつか見てきたが、今日はとびきり美しい光景だったと思う。

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