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夏の思い出  作者: 髙城 結衣
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僕とカブトムシ

 暑い。その一言に尽きる。

 そんな8月の太陽のもと、みっちゃんに引っ張られて来た先は近所のよくある住宅街の中の公園だった。正確に言えば、その公園の茂みだが。蚊に刺されたのか、右足のくるぶし辺りが痒い。首元を汗が流れ落ちて気持ちが悪い。

 置いてくる暇もなく手に持ったまま出てきてしまったアイスは、原型を失い小袋の中でただ甘いだけの水になってしまった。アイスの棒が恨めしげこちらを見ている。

 袋が破れる可能性があるためポケットに入れるわけにもいかず、手に持ったままなのでこれまた気持ちが悪い。ゴミ箱を見つけ次第捨ててしまおう。アイスの封を切ることなく捨てることに罪悪感はあるが、何もかも暑さのせいだ。そう思うことにした。


「あっきー! あっきーってば!! これ見ろよ!!!」

「んー?」


 呼ばれた方を見ると、2mほど先の木の陰からひょこっと顔を出したみっちゃんが満面の笑みでこちらを見ていた。手に何かを持って、こちらに差し出している。

 近づいてみれば、それはカブトムシだった。小学生3年生のみっちゃんが持つと大分大きく見えるが、大きさ的には小降りな方だろう。


「それがどうしたの?」

「はぁぁぁ!? カブトムシだぜ、カブトムシ!!!」

「うん……」

「うぉぉぉい!? うん……とかテンション低すぎるし!!」


 お前のテンションが高すぎるんだよ。ちょっと落ち着けよ。なんで虫一つでそんなに喜べるんだよ。

 僕はもうそんな年頃じゃないんだって。

 虫を見つけては騒ぎたてるみっちゃんは、次々に虫かごへ獲物をしまっていった。


「うぉっ!?」


 僕がそんなみっちゃんのはしゃぎっぷりを呆れて見ていると、彼がまたしても雄叫びをあげた。今度は何だ。


「見ろ、あっきー!」

「何?」


 僕が近づいていくと、みっちゃんはにやにやとしてそれを見せてきた。


「いえーい。セミの抜けがら!」

「…………」


なんかもう、僕疲れたよ。


「なあ、あっきー」

「んー」

「なんかさ、もう虫取り飽きねー? 他のことしようぜ」


 飽きるの早いな。子どもかよ。って子どもか。


 みっちゃんが提案した次の遊びは、探検隊ごっこだった。


「あっきー隊員。そっちはどうだ!?」

「異常なーし」

「んー! ちょっと、あっきー。もっとやる気出せよ!!」


 と、言われましても。


「探検は、いつもキケンと隣り合わせなんだぞ! そんなんじゃ奴らに食われちまうだろっ!! いいか? 探検隊はだな……」


 必死に探検隊が何たるかを説くみっちゃん。奴らって何だ、奴らって。ドラゴンとか? 人食い怪物とか?

 とはいえ、みっちゃんは今や完全に探検隊隊長になりきっている。ここは僕も大人になって、いや子どもになって、彼に合わせてやるべきだろう。


「す、すみません、隊長。まだ未熟なもので」


 と、僕はみっちゃんに向かって頭を下げてみた。すると、


「うむ。まあ、恐れるのも仕方があるまい。しかーし! 私のあとに続けば、必ずやお宝までありつけるのだ! 安心してついて来たまえ」


 とまあ、僕の心は何とか隊長までとどいたようだ。みっちゃんはそのまま後ろへひっくり返ってしまうんじゃないかと思うほど、体をのけぞらせて胸を張った。

 これはあとどれくらい続くんだろうか……。

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