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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君のためなら…

ー恋をした。

毎日放課後、図書館の一番隅の席で、布カバーがついた本を読んでいる君に…

布のカバーをつけるところに、物を大事にする君の優しさが見えた…

まるで炉端に咲く一輪の花… でも、君は光を嫌う…

いつもカーテンを閉めて明かりを遮る…

きっと書物の世界に没頭したいんだろう…


口にかかる髪をかき上げるしぐさを美しいと思った…


僕は、抑えきれない思いを、彼女に伝えたくて、一枚の栞を渡した。

薔薇の栞…

さすがに花束は用意できなかったから…


「あ、あの…」

彼女が本を下げて、顔を見せてくれる。

「…何でしょうか?」

僕は薔薇の栞を机の向こうにいる彼女に向けてそっと滑らせた。

「こ、これ… 良かったら… 使ってもらえませんか?」

彼女はブックカバーからしおり紐を取り出して、読んでいたページに挟み、本を閉じた。

彼女は栞を手に取り、その透き通るような瞳で見つめている。

「薔薇? 好きなの?」

「は、はい… だ、大好きです!」

僕は思わず大きな声をあげてしまった。

幸いここにいるのは、僕と彼女だけ…

ちょうど司書の先生も席をはずしているタイミングを見計らっていたんだ。


彼女は驚いた顔をしてから、唇をあげて、可憐な笑顔を向けてくれた。

「フフッ… そんなに好きなんだね」

「…は、はい。 好きです」

彼女は栞を唇に当てる。

「仲間なんだね」

「?」


この日から僕と彼女の日々が始まった。

そう、これは、僕がBL好きの彼女のために、BL小説家になる物語である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1年後…


僕こと、双樹瑞樹そうじゅみずき高校2年生にして、駆け出しのBL小説家… といっても、細々と投稿サイトにあげたり、BL系漫画動画のプロットを執筆したりぐらいで、書籍化もされていない。

でも、それで大丈夫。

だって、僕の目的は、売れることじゃない!

僕の彼女、百合川桃ゆりかわももさんに読んでもらうことなんだから!


毎週土曜日、僕は彼女の家に行く。

最初は女の子の部屋に入る緊張でいっぱいだったけど、今では、別の緊張でいっぱいだ。

まるで編集部に持ち込むように、僕は彼女のマンションのインターホンを鳴らす。

「どうぞ」

僕はごくりと唾を飲む。

いつになっても慣れない…


リビングにいる彼女の両親に挨拶をしてから、彼女の部屋に入る。

「失礼します」

「どうぞー」

部屋に入りドアを閉める。


彼女はもう昼前だというのに、いまだにパジャマ姿である。

髪もぼさぼさで、顔に合っていない昔のメガネを愛用している。


「楽しみにしてたよー 前回いい引きだったからね」

「…頑張ってみた」


僕からUSBを受け取ると、彼女はそれを自分のノートPCに差し込んだ。

画面に展開される、僕がつづった文字たち…

それを彼女が真剣に追いかける。

(この表情… 改めて… 好きだな…)


僕は彼女が本に向ける視線が好きだった…

その視線を向けてほしかった…

少し違うけど…

いま彼女の視線は… 僕が創作した物語に向かっている。

そう思うと、僕はたまらなく嬉しくなった。



彼女をより近くから見つめるようになって、一つ気が付いたことがある。

彼女は… 好きなシーンになると、口が少し開く。

それは、彼女が気に入ってくれたサイン…


(そろそろ… 佳境かな…)

僕は彼女の口をじっと見つめる。

徐々に、彼女の唇が… 開いていく。

(よし!)


彼女はパタンとPCを閉じた。

「瑞樹くん…」

「は、はい」

「濡れ場が甘い」

「う…そ、それはぁ…」

「せっかく告白シーンはエモかったのに… その後の描写が… 雑すぎるわ!」

「そ、そういわれても…」

「ちゃんと、渡した本で勉強はしたの?」

「よ、読んだよ… 読んだけど… でも、その、そういう行為の部分って、まだ学生が読むには早いって思うんだ!」

「R指定ついてないからOKだよ!」


彼女はBLの事となると性格が変わる…

普段はあんなにおとなしくて清楚なのに…

でも、僕的には、これもありっちゃああり…

けど、このまま食い下がるわけにもいかない…


「そういっても… だって、僕… そ、そういう経験… ないし」

僕はほのかな期待を込めて彼女を見つめた。

「掘られてくる?」

「ちが… 違うって… そのさ… いやあのね… ほら、僕たち付き合って1年だし… そ、そろそろ…」

「何を言っているの!? いい? えっちな本を書いていた人がね… 未経験の時には、すっごくいい話を描いていたのに… 経験してからは、微妙になったっていうのはよくある話なの… 大事なのは実体験じゃなくって、妄想… 想像力なのよ」


眼から鱗が落ちた気分だった。

「た、確かに… 僕には妄想力が… 足りなかったかもしれないっっ」

「それじゃあ、今日は妄想力を鍛える。 特訓よ」

「はい!」

「掛け算訓練ひらがな編よ!」

「はい!」

「あ×ひ=」

「まずは、『あ』の右上部分で、『ひ』左側の水平部分を顎食いして、立場を分からせます。 そしたら、『ひ』の背後に回って、『あ』は左の曲線部で、『ひ』の下側をそっと愛撫します。 そして、『ひ』がよがり始めたら、『あ』は右下を『ひ』の敏感な部分にズブズブとねじり込みます」

「もう少し官能的に… そして、できればパーツだけじゃなくて、キャラクター性も出して!」

「はい。 次、お願いします!」

「し×ふ=」

「リバシは?」

「だめよ。 『し』が攻めよ!」


(む、難しい… 『し』は攻め手が足りない… どうやって… 『ふ』を責めるというんだ… 一点突破もありかもしれないけど… それじゃあ、どうしても、単調になってしまう… しかも相手は『ふ』… 見えない… 『し』が勝つ世界線がっっ)


僕は彼女を見る…

彼女は真剣なまなざしで、真っ直ぐ僕を見つめている。


「そうかっっ。 『ふ』「しさん… どうしたんすか? 怖気づいたんすか? ここまでしといて」『ふ』は挑発的なまなざしを向ける。『し』「い、いや… だって、おかしいだろ? 男同士で…こんな」『ふ』「キスはいいんだぁ? さっきまで、僕のココ… 一生懸命舐めてたク・セ・に」『し』はこのインモラルな関係に身を投じるのに戸惑っていた。これ以上は抜け出せなくなる… そういった不安から『し』は一歩踏み出せないでいた。『ふ』はそんな『し』の心を見透かし、あざけるように、『し』のそそり立つ部分を両手で優しくそっと包んで、自分に誘った。 『し』はもはや抗うことはできなかった… どうですかああああ!」

「及第点ね。 文章は微妙だけど、誘い受けという概念に気が付いた… 合格よ!」

「ありがとうございましたああ」


何かおかしいと思いながらも、僕にとって彼女とのこの時間が一番好きな時間だ。

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