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先駆者の欠片  作者: 東京駄駄
プロローグ 二人の冒険の始まり
8/16

パイオニアの戦い

  ❑-パイオニア


 夜中。

 軽い夕食をとった後、ベットに横たわったはいいものの寝れる気がしない。

 マキさんはもう寝ちゃってるっぽいしなぁ。


 ん?なんの声だろう?

 なんか耳元で言葉を囁かれている気がする。誰かがこの部屋にいるのか。


 耳を澄ましてみる。どんどん声が鮮明に聞こえるようになってくる気がした。同じ言葉を繰り返し唱えているような声……。


 奇襲警戒の指輪が光り始めた。部屋に白い光が広がる。

 何かに押さえつけられているわけではないけれど、金縛りのように体が動かない。


 指輪が割れる。


 繰り返されている言葉を鮮明に聞いた瞬間…僕の体は乗っ取られていた。


 体が勝手に起き上がりベットから降り、床に立つ。

 何かの映像を見せられているような気分だ。最初は少し残っていたものの体中の感覚すら奪われて五感も感じなくなってしまった。


 僕の体はマキさんを見下ろした後、これ以上ない静かな動きで部屋から出た。

 途中でマキさんが起きて気付いてくれることを願ったが、ぐっすり眠っているせいか、それとも僕の体が自分では出来ないくらいに静かに動いているせいか、マキさんが起きるところを見ることができなかった。


 ついに宿を出て、城門を抜ける。いつもの平原の狩場に到着したのだが、使用した道は全く違う。とても早く着いたような気がする。 


 周りを見渡した後、なんてこともない森林の方向に歩いていく。奥まで進んで行くと、木に囲まれた円形の広い草地が現れた。



 その時、僕の体の自由が元に戻った。

 僕の中から何かが這い出ていく感覚。その何かを掴もうといたが、それはどこにもなかった。


「お前は誰だ!?」


 叫んでも答えるものはない。だが、遠くから何かが近づいてくる音がする。

 木の葉が擦れ、草がぶつかり合う音。三方向から聞こえてくる。


 その音から大きな物体が三つ程近付いて来ていると予想できる。


「もしかしたらボスモンスターかもしれないな。僕が呼び寄せちゃったのかも」


 こうなれば逃げるしかない。

 音がしない方向を確認して走ろうとした瞬間、マキさんが来た。




   ▽▲▽



  ❑-パイオニア



 「見せてやる!」と、意気込んだのはいいものの正直この状況を打破できる気がしない。


 僕が戦っているグレートゴブリンという個体は、筋肉が厚くて硬い。ガルドさんから買った短剣じゃなかったら傷をつけることもできなかったんじゃないかな。


 マキさんのように使い捨てのジェムを持っている訳でもないため、打開策が見当たらない。


 僕もそのようなものを買っておくべきだったのかな。


 今までは、ゴブリンの力と俊敏力のある攻撃をひたすら避け、攻撃を放った後のクールタイムに切りつける作業をしてきた。何回も切り付けたにも関わらず、ゴブリンは弱ったような動きを少しも見せない。


 サウザントフラワーの無差別攻撃を受けたことにより最初は、所々から血を流し、動きも少し雑だったのだが、今はもう傷が治ってしまったのか血を流している個所は少ない。


 持久戦になってしまえば、僕が不利になるのは確実だ。何か打開策を考えなければ…。


 一時間、二時間、そして三時間と時間が過ぎていくのを感じる。


 千日手を続けるが…。


「う!?」


 痛みで目を見開く。

 先に折れたのは――僕だった。


 グレートゴブリンの拳が、疲れて遅くなった動きの隙をついて僕に突き刺さる。


 体が吹き飛ばされて木にぶつかる。

 起き上がらないと。


 グレートゴブリンは、今までちょこまかと動いて自分の手を煩わずらわせてきた僕に対してイライラが溜まっていたのかもしれない。甚振いたぶるかのように、僕が気絶しない程度に死なない程度に拳を振り下ろす。


「クッ!ガッ!」


 痛みに身悶えしながらも立とうとすると、その度にゴブリンは拳を振り落とす。


 視界がぼやけて何かが見える。


「お母…さん」


 走馬灯というのだろうか。





「イオナ?」

「あ、またぼーっとしてたみたい。ごめんね」

「あなたは何も悪いことをしてないのよ。謝らなくていいの」


 母は眉を八の字にしながらいつもの口癖を言う。


 そうじゃないんだよ、お母さん。僕が家の助けになっていないことに対して謝ってるんだ。


「うん…」


 迷ったように一匹で歩いているアリを見た。

 惨めだな…僕って…。


「おい、見てくれ。穀潰しのパイオニアではないか」

「あ、ほんとだ。はは、笑える。ママに背負われて一生を生きるつもりだろ、あいつ」


 通りすがりに行ってくるのは近所に住んでいる同い年の奴らだ。

 そろそろ成人になるにも関わらず仕事すら探さない親不孝。それが客観的に見た僕。


 キッとなって彼らを睨め付ける。


「いいのよ、イオナ」


 諫めるように母は言った。


「本当に…ごめん…」





 ごめん、お母さん…。



 そのとき…頭で響く声を聴いた。



『《非常権限》の発動により、スキルを開放します。承諾しますか』


 そして、文字が視界に浮かび上がった。


『Yes / No』


 昔の言語…かな?

 見たことがある気がする。マキさんが言っていたっけな。


 古代言語…。

 わからない…けど…。


「承諾…します」


『スキル:《削除権限》を開放しました』


 グレートゴブリンは、ボロボロの姿で地面に倒れている僕を見て、咆哮をあげる。



 俺の体は動いた。これまでに感じたことのない何かを感じる。

 どうしたらいいのかは、わからない。けど――。


 体は知っていた。このスキルの使い方を…。

 左手に黒い煙のようなものが集まり始めている。


 萎えた足を必死で立たせる。


 跳躍。ボロボロの体を使い、ゴブリンの拳をギリギリで避ける。

 疾走。途中で右手に持っていた大事な短剣を落としてしまったが関係ない。振り向かずに走る。

 接近。敵の手の動きを見極める。


 落ちてきた拳に合わせて跳躍を果たし、拳の上に乗る。そして、太く硬い腕の上を走る。


 最後に大きく跳躍を果たし、僕の手はグレートゴブリンの鼻に触れる。

 僕にはゴブリンの表情を見るだけの余裕があった。グレートゴブリンは目を驚愕で見開いていた。


 それもそうだ、先程までされるがままだった相手が一瞬で自分の鼻先にまで来ると、誰が予想できるだろう。



 パイオニアの表情は、最初から変わらない。絶対に倒してやるという決意にみなぎった顔。

 そして、上位種ボスモンスターに坦々と死の宣言をする。


「…《削除権限》」


 瞬間、グレートゴブリンの鼻に当てられた手の中でビックバンが起きたかのような錯覚が起きる。

 空間が凝縮され……解き放たれる。


 手の先で何かが破裂したような音がした。


 後には、頭が消え、胴体だけが残ったグレートゴブリンがいた。

 その胴体も力なく後ろ向きに倒れていき、地面に着く前に光の塵になって消えた。


 僕は、空中から落ち、着地する。


『上位種:グレートゴブリンの討伐を確認しました』

『特典武具:【PWG】を贈与します』


 力を使い切った僕の体はもう動かない。その場に崩れ落る。

 気絶しそうだった。休みたがる体に鞭をうち、マキさんの戦闘がどうなってるかを確認する。


 気絶して倒れたマキさんの周りにサウザントフラワーはいない。多分、僕よりも早く倒していたんだろうな。でも体が何かに焼かれたのか煤だらけになっている。見ているだけでも痛そうだ。


 最後まで残っていたボスモンスター、ジェットスライムは名前とは似合わないのろのろとした動きで気絶しているマキさんのところへ移動していた。


「…マ…キ…さん」


 声はかすれて十分に出てこない。


 スライムがゆっくりとした動作で、マキさんを飲み込もうとしたとき――――スライムに向かって上空から岩が落下し、着弾した。

 パイオニアの記憶はそこで途切れてしまった。



   ▽▲▽



   ❑-キルノタイト


「やれやれ、僕たちもギリギリだったようだね」

「KEEE」


 主人の声に従魔、クリムゾン・デッド・バードは答える。

 私は風のせいで顔にかかった長い髪をかき上げる。


「そうだね、あの子たちはすごい。成人になったばかりで、冒険者になってから一か月も経っていない新人君(ルーキー)とは思えないね」


 従魔に乗って飛んでいる私が目を下に向けると、私のもう一体の従魔であるアースエレメンタルが新人の二人を護るために戦ってくれている。…だが、戦況は(かんば)しくない。


 敵手は、大きなスライムであるため、なかなか核を攻撃することができない。そして、ジェットスライムというボスモンスターの特性の厄介さに押されていた。


「これはよくないね。でも、気に入った。あいつを仲間にしようよ。イヴァン」

「KEEEEEEEEEEE」

「あはは、そこまで反対しなくても…。でも今回は、僕の気持ちで決めるって約束じゃないか」

「KEE」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」


 イヴァンは、不承不承といった面持ちで下降し、私を下ろしてくれる。


 地に足を付けた後、従魔であるアースエレメンタルに声をかける。


「ありがとう、イージス。ここからは僕の番だ」


 従魔が退き、道を開ける。


 私はカッと目を開き、目の前に現れたジェットスライムを見据える。


「君、僕のところへ来ないかい…?」


 にやりと笑いながら静かに言われたその言葉に深い思考を持たない魔物であるはずのスライムは、その男に何とも言えない畏怖を感じた。


「《■■■(インビテーション)》。君を僕たちの仲間にする」


 それは最恐の冒険者に感じる畏怖。

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