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先駆者の欠片  作者: 東京駄駄
プロローグ 二人の冒険の始まり
6/16

ガルド武器店

 今日はマキさんと王都の散策をすることになった。


 主に、武器の新調と街の観光だ。


 なぜ、いきなり武器を買いに行こうという話になったか、それは先日に遡る。




 ギルド受付。


「え!? お二人ともジョブがまだ発生していないんですか!?」


 僕は頭を掻きながらいたたまれない気持ちになっていた。


「はい、普通はもう発生している時期ですよね…」

「まあ、確かにありえなくもないんですけど。では、新しいことを始めて見るというのはどうでしょう。簡単に言ってしまえばジョブというのは才能を文字として起こしたものなんです。なので、自分に合うと思われる新しいことをしてみるといいかもしれません」


 才能を文字に起こしたもの。初めて知った。

 そしたら僕に冒険者の才能自体がなかったらどうしよう。


 いや、僕はあのときの冒険者の言葉を信じる。


「わかりました。具体的にはどうしたらいいんでしょう」

「私もわからないんですが、戦い方を変えてみるとか新しい武器を使ってみるとか、ですかね」

「マキさんはどうしますか」

「俺は武器を変える」


 マキさんは今の武器に不満を持っているようだった。今マキさんが使っているのはダガーに近い武器だと思うけど、リーチが短すぎると悪態をついていたのを聞いたことがある。


「僕は新しい戦い方を考えてみようと思います」


 レイナさんは頷いた。


「武器でしたらギルドで貸し出しをしています。初心者のためのものなので性能は保証できませんが、ジョブの発生を促す分には丁度いいでしょう。それから、特殊な武器を使いたいのでしたら私がおすすめする武器屋があるので紹介しておきますね」

「ありがとうございます」






 この何日か、レイナさんには知識の方でたくさんお世話になっているなあと思った。。


「まずは武器屋に行きましょうか宿の近くにレイナさんがおすすめしていたお店があるはずです」 


 武器屋は宿からまっすぐ進んで赤い建物を右に行くと、古めかしい看板にガルド武器店と無骨な字で書かれた店が見えた。


 人気のある店には見えなかったけど、レイナさんのおすすめだし。


 店の中に入ると、埃くさいような臭いとともに何かを燃やしているような臭いがした。鍛冶場と繋がっているのかもしれない。


「すいませーん」


 マキさんは早速お店の商品を眺めている。

 僕は自分で武器を選べる自信がないので店の人に選んでもらいたいんだけど…。


 全く反応なし。


 留守の状態で開けっ放しにしているのかな。でも、それじゃ不用心にもほどがある…。


 そのとき、店のドアが開いて誰かが入ってきた。


「なんだ、客か?盗人(ぬすっと)だったら帰れないと思えよ」


 なんかすごい怖い人が来た。

 体の大きさが僕の二回り以上あって、腕なんて丸太みたいになってる。

 顔は顎下まで真っ黒い髭が伸びていて、太い眉と大きな目がぎろりとこちらを見据えてくる。

 そんな人が眉間に皺を寄せながら睨んできたのだ。


「い、いえ。きゃ、客です…」


 僕がそう言った途端、雰囲気がいっきに変わる。


「なんだ、そうか!客だったのか!」

「は、はい」

「俺の名前はガルドだ、よろしくな!」


 でしょうね。お店の看板にも書いてあったし。


「よろしくお願いします。僕はパイオニアと申します」

「おう、パイパイだな。わかった」


 その略称は少し問題がある気がします。はい。


「あそこの兄ちゃんはお前の連れか?」

「マキさんです」


 マキさんは集中しているのかガルドさんの大きな太い声にも反応せずに石のような物を興味深そうに触っている。相変わらずに図太い神経だなと思う。


「マッキーとか言ったか? そこのお前! 見る目あるな!」


 そのあだ名にも少々問題がある気がしますが。どこかのキャラクターみたいになっていますし。


「俺に用か?」

「そうだよ。お前が持っているのはジェムってやつだ。俺の特別気に入って集めているアイテムでな――」


 ガルドさんが語りだしたので僕はすることもなしに店の商品を眺めた。

 短剣から大剣まで、そして弓や槍にも多くの種類の武器が並んでいる。端の方には手裏剣などと言った投擲用の武器までが所狭しと置かれていた。


 その中でも特に値の張るものが飾ってある区画で僕は足を止めた。


 ≪暗黒剣(ナイトメア・ソード)


 仰々しい名前に負けていない見た目をしている。黒曜石のように暗い色の中に細かい意匠(いしょう)が施されていて、その色の暗さから周りの剣からも浮いているように見えた。刀身は鞘に差し込まれているが、長さから短剣だとわかる。レイピアのように細いのが特徴的だった。


 僕は手に取ってみようと手をあげてそっと近づける。


「それには触らない方がいいと思うぜ」


 ビクッとして、手が止まる。いつのまにか後ろに来ていたガルドさんに言われたようだった。


「どうしてですか?」

「その剣は鞘を抜いた者に見せたい光景を見せる剣だ。鞘から抜いた途端にな。これを持ってきた奴の目は死人のようだった」


 わからない。

 見せたい光景を見せる。それはいい事なのではないのか。


「悪い剣ではないように聞こえるんですけど」

「甘く見ちゃいけねえ。自身の大切な人が生きている世界を見たがった者は見ることができる。だが、それは決していいことではない」

「どうしてですか」


 ガルドさんは近くにある短剣を一つ一つ確認しながら話す。


「幻が心を救うときもあるだろよ。だがな、結局は幻なんだ。それに気づいた瞬間、人は壊れる。…ほれ、お前にはこの剣がちょうどいいだろう」


 ガルドさんが放ってきた剣を僕は受け取る。

 その剣は短剣よりも少し長いようだった。


「それは俺がサーベルを鍛えなおした剣だ。切れ味はいいと思うが、どうだ?」


 しっかりとした鞘はなく、布が巻かれているだけだった。布からとると、ガルドさんを表すかのように武骨な刀身がきらりと光る。

 軽く振って見ると、思っていたよりも軽いように見えた。

 それを真剣な顔でガルドさんは眺める。


「ちょっと待ってろ、お前にはもう少し短い方が使いやすいだろうよ」


 ガルドさんに剣を渡すと、砥石の置いてある場所に行ってしまった。


 ふとマキさんはどこだろうと見回すと、買い物をもう済ませているようだった。

 マキさんの背中には大剣や斧、槍などの多くの種類の武器がかけられていた。


 あれを全部買ったのかな。マキさんは案外どの武器でも使えるのかな。


 僕はガルドさんに短剣を渡されたわけだけど、今までは自分に合った大きさの長剣を使っていた。昔、自分で作って振っていた木剣に大きさが近かったから。

 一旦は買って試してみようと思っているけど、使いこなせるかどうか少し不安だ。


「できたぞ、持ってけ」


 もう一度ガルドさんから渡された剣は、さっき持った時よりも手にしっくりくる感覚がした。なんて言うか、手に吸い付くというか。


「とても持ちやすいです」

「だろう」


 ガルドさんはニコリと笑いながら胸を張る。


「ですが、お値段の方は…」

「ちゃんと払ってもらうから安心しな。15万ユニだ」


 お、お高い…。

 今日まで魔物を討伐し、日用品を買いながらも貯めてきた貯金の大半を使うことになる。でも、ガルドさんから渡された剣を今すぐ使ってみたいと、うずうずする気持ちもある。


「わかりました。買います」


 と言って僕は金貨の入った袋を受付に置く。ガルドさんは数が合っているか数えてからまた僕を見る。


「よく言った。今のお前には少し厳しい値段だったんじゃねえのか。それでも値段の交渉もせずに買うと言うとは、お前できるやつだな」


 あ、その方法もあったのか…。


「あはは…」


 空笑い。

 でも、最初のSランクの依頼を成功させることができおかげで相当お金が余っている。この五日間だけでも4万ユニ以上稼いだし、生活費を引いてもちょっとしたお金持ちだ。

 将来の自分に対しての投資だと思って買ってしまおう。


「まあ、お前の度胸に免じて鞘はつけてやるとして、これも持っていけ」


 ガルドさんが台に出したのは、木でできた指輪のようだった。


「これはなんですか?」

「奇襲警戒の指輪だ。普通に買うとしたらとんでもなく値の張るものだぜ」

「そんなものを下さってもよろしいんですか」

「なあに大したもんじゃねえ。これは一回きりしか使えないバージョンだ。普通のもんと比べても貯金の足しになるかもわからねえしろもんだ」


 多分、それは嘘だと思う。僕も聞いたことがある品だけど額は貴族がようやく手を出せるかどうかといった値段。個数も限られていると聞いたことがある。

 たとえ一度しか使えないものだとしても結構な値段が付くはず。人の命を救ってくれる可能性があるものだから。


「僕はもらえません」

「何言ってんだ、客に長生きしてもらえば俺も生きていけるってもんよ。何せ商売相手が冒険者だからな。いなくなるやつらも多いんだ」

「それでも、です。僕は――」

「――貰ってもいいんじゃないか」

「マキさん…」


 後ろで会話を見守っていたマキさんにも僕の気持ちがわかると思ったんだけど。


 マキさんの目力は強かった。睨まれているのか、説得されているのか。


 それでも…それでも貰えと言うなら。


「わかりました。いつか必ずお金はお返しします。本当にありがとうございます」


 机から剣と指輪を受け取り、剣は腰に指輪は右手の薬指に嵌めた。


「いいってもんよ。人の親切を受けるのも親切なんだぜ。わかってんじゃねえかマッキー」

「その名前は気に入らない」

「今度も来てくれよな。まったく愉快な二人組だったぜ」


 挨拶をして僕らは店の外に出た。

 改めて店の外装を見ると、武骨ながらも丁寧さが感じられるような気がした。


「マキさんは防具の方は買い換えますか。僕はもう残高が少ないので今度にしようと思っているのですが、街の観光ついでにでも寄れますよ」

「いや、有り金は全部使った。問題ない」

「そうですか、では一旦宿に荷物を置きに行きましょう」

「そうだな」


 ずっとマキさんの背中が気になっていた。

 店にある武器を端から端まで買ったような感じ。多分、全部安いものを買っている。

 

「どうしていろんな武器を集めたんですか」

「試しだ。意図はない」

「そうですか」


 いつもと変わらず答えは短い。


「もう一ついいですか」

「構わない」

「どうして、指輪を受け取れとおっしゃったんですか」


 僕がそう言った途端、マキさんは前に進めていた足を止めた。僕も止まる。


「寂しそうな顔をしていたからだ。俺はあの表情を見るのが苦手だ」

「そうですか…それって記憶が戻ったってことですか?」

「少しずつだな」


 マキさんの表情は変わらなかった。

 やっぱり印象は最初に会った時の機械のみたいだと思う。でも、冷徹ではないなとも僕は思った。


 マキさんには、僕の立場の気持ちが分かったと思う。でも、遠くから見ていた分相手の気持ちがわかれたんだろうな。


 

 その後、マキさんと宿に戻ってから王都の名物を見てもらうためにいろんな場所に連れまわした挙句、へとへとになってまた宿に帰った。


  ◇◆◇



 王都の武器屋で武器を新調してからもリース平原には通った。


 問題が起きたのは、冒険者になってから3週間が経った頃の昼だった。




「マキさん。もう魔物は来ないみたいですね」


 僕は、二日前に防具を新調していた。武器に合わせて軽い素材を意識して買ったものだけれど、魔物がほとんど出てこなかったせいで性能を試すこともできないでいた。


 マキさんは、あれからも片っ端からいろんな種類の武器を買っては、使っている。理由は、自分に合う武器を探しているというのもあるのだが、どんな状況にも対応できる柔軟性を身に着けたいとも言っていた。


 ちなみにマキさんが今使っている武器は大剣だ。

 重量も十分にあって、最初は振り回されている感覚がして活かしきれるかどうか心配だったが今では少しずつ慣れてきている、と言っていた。


「一昨日から量が減ってると思ったが今日は出てこないみたいだな」

「一旦、今日は切り上げてギルドに報告しましょう」

「わかった」


 昼の草原を駆けてギルドに戻る。まだ換金部位が袋の半分しか入っていないがしょうがない。もう魔物が出てこないのだから。帰り道にも魔物は最初のころに比べて全然現れなかった



  ▽▲▽



 ギルドに到着して受付に向かうと、昼に来るなんて珍しいですねと云われた。

 受付には、レイナさんがいる。


 奥地の魔物が現れなくなったことを報告する。

 彼女には、ボスモンスターが自分の周りに兵力を集め始めた可能性があるため、くれぐれもボスに挑戦しないようにと諭された。


 宿に帰った後、特にやることもなく動いた体を休ませることに専念した。


「マキさん。明日からの狩りどうしますか?」

「これからそれも考えなきゃならないな」


 地面に布団を敷いて横になっているマキさんの表情をなんとなく見る。

 マキさんは腕を頭の下に入れて枕のようにしながら目を瞑って上を向いていた。


 こうして見ると、僕と歳が近いんだろうなあと感じる。目を瞑っていれば垣間見れるあどけなさが目を開いた瞬間には頼もしさに変わる。不思議な人だといつも思う。


「あの、今日はもう休まないですか? 今まで毎日一日も休まずに魔物と戦ってきたじゃないですか。今日は今まで貯めてた休養を全部使う気分で」

「そうだな。じゃあ俺は早く寝るとしよう」

「僕もそうします」


 僕らは夕食の代わりに軽い飲み物を飲んで寝ることにした。



  ◇◆◇


  ❑—レイナ


 夜、ある依頼のために掛けていた電話を切ろううとしたとき、マキさんの今までにないくらいの大きな声がギルドに響き渡った。


「パイオニア! 誰かパイオニアを見た者はいないか」


 マキさんとパイオニアさんの二人は、今では注目の的になっている冒険者である。そんな二人のどちらかを見れば一目でわかる。

 ギルドにいる冒険者たちはみな、顔を横に振った。


 マキさんは私のところまで走って来る。


「レイナさん、お願いです。至急、冒険者に応援要請を。パイオニアが一人で上位種を倒しに行きました」

「え!?ひ、一人で? ですが、夜に人を呼ぶとなると時間がかかってしまいます」

「俺は、パイオニアを探しに行きます。できるだけ早く、応援を呼んでください」

「ちょっと、待ってください!」


 ギルドの外に走って行こうとするマキさんを呼び止める。

 行かないでと言ってもパイオニアさんを助けに行くのは見ていても分かる。だから私は、


「絶対に二人で帰ってきてください」


と、彼に告げる。


 マキさんは何も言わず、軽く頷くとギルドの外に走って行った。


 私はただ、冒険者さん達には死んでほしくないだけなのに。仲良くなった冒険者ほどあっけなく散ってしまう。それが私は嫌だっただけなのに…。


『これは、早くも私の出番だね』


 受話器から声が漏れてきた。まだ、電話は切れていなかったらしい。

 誰が聞いてもわかる、この状況を楽しんでいるような声音。

 はっとなって、もう一度電話を手に取り大声で叫ぶ。


「キルノタイトさん! 至急、リース平原奥地の上位種討伐を依頼します!」


 私が電話越しに話している相手は、王国一恐ろしい冒険者。


『その依頼、高くつくよ』


 受話器の奥の人は朗らかに笑う。

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