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先駆者の欠片  作者: 東京駄駄
プロローグ 二人の冒険の始まり
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お金の価値

 ❐-パイオニア


「この辺は誰もいないようですね」


 今来ているのは、王都の城門から見て東に位置するリース平原。

 城門に近い側では多くの初心者冒険者がスライムと交戦していた。

 最初、僕らはそこで戦える魔物がいないか探していたのだが、流石に人が多いため奥の方に進んでから魔物を探そうということになった。


 奥に進めば進むほどモンスターのレベルは高くなる。そして、種類も増える。


 最新の注意を払いながら魔物を討伐していく。


 最初にスライムを倒したときのマキさんの感想は気持ち悪い、だった。

 なぜかというとスライムは、ベタベタヌルヌルとした液体の体を利用して、張り付く。その後、体内に少しずつ吸収していく。いわゆる捕食だ。


 食べられるときの感覚は弱い酸を体にかけられた感覚と同じだと聞いたことがあったのでマキさんに説明しておいた。

 マキさんにそのような経験があるのかは、わからないけど。僕もそんな経験はない。


 スライムは近づかなければ攻撃されることもないため、突撃して一体ずつぶっ潰していく方法が一番効率が良いとわかってからは簡単に倒せるようになった。

 他の魔物たちも不意打ちさえ注意していれば大丈夫という程度であったため狩りは順調に進んでいった。



  ▽▲▽



「…はあはあ、マキさん今日はこの辺にしないですか?」

「そうだな、出てくる敵の量は多かった。お前はよく持った方だと思う」

「マキさんの体力には追い付けないです。僕も体力には自信があったんですけどね」


 朝ここに到着してから昼過ぎの今まで休み無しで永遠と湧いてくる魔物と戦っていた。

 あまりにも引っ切り無しに魔物が現れるものだから休む時間もほとんどなかった。途中でマキさんが一人で戦闘して僕が休むというのも度々あった。なのにマキさんはまだ体力が残っているようだった。


 時間も、終わらせるには丁度いい頃合いである。


「帰るか」

「待ってください。ここら一体に散らばってるスライムの核を回収しないとお金に変えてくれませんし依頼の達成もされません。依頼の達成度、つまりギルドの信頼が僕達冒険者にとって命ですから」

「わかった。じゃあ俺が集まってくる魔物を倒すからパイオニアが集めてくれ」

「わかりました」


 地面にはスライムやモンスターのドロップが踏む場所もないぐらい落ちている。


 マキは周りから集まってくる魔物、スライムやシードフラワー、ウィークゴブリン等々をパイオニアを守るために討伐していき、その間にパイオニアが核や換金部位を集めていく。


 ここ一帯で現れる魔物は、スライムとシードフラワー、ウィークゴブリンだけ。スライムは先程説明した通りで、シードフラワーは遠隔から筒状になった葉から種を飛ばして攻撃してくる魔物だ。

 そして、ウィークゴブリンはゴブリン種の中でも一番弱いと言われている魔物で戦闘の仕方はゴブリンと全く変わらないが、普通のゴブリンよりも姿が小さいのが特徴だ。


 パイオニアが換金部位を集め終わるとマキが戦っていた場所のも集めだす。それも終わると次の戦闘跡にある物を集める。モンスターの来る頻度が高いためか、全て集めきる前にまた他の位置で換金できるものが貯まる。


 ほとんど永遠のループだった。

 普通は不可能であるはずのそれを疲れ知らずの二人はやってのけてしまえていた。



 その作業は、夕方過ぎのパイオニアの声で終わった。


「すいません、マキさん。僕たち二人の入れ物がもうパンパンで入れられません」

「じゃあ、落ちているものは無視で帰ろう」

「わかりました。もう僕はヘトヘトで戦える気がしないのですが戦闘の方、任せられますか?荷物は持ちますんで」

「了解した」


 そんなこんなで一日中戦闘をした僕らはギルドに帰ったのだった。


 魔物と長い時間の戦闘のせいで、マキも倦怠感(けんたいかん)を感じているように見える。


 僕が持っている袋や鞄には魔物の換金部位がぎゅうぎゅうに詰まっている状態だ。


 戦いに集中していて時間を忘れてしまっていたため、マキさんは荷物の量を確認できていなかったようだから袋を掲げて見せたらその袋を見た瞬間、片方の眉を一瞬ひくつかせる。


「一旦、ギルドに依頼の達成報告と換金をしに行きましょう。このままでは重いですしね」

「俺も賛成する。だが、一日にこんな量を討伐するのは冒険者であれば普通なのか?」

「普通だと思いますよ。昨日今日で冒険者になったばかりの僕らでもここまでできたんですし、プロになるともっと倒すと思います」


「そうか、冒険者はすごいんだな」

「そうです。冒険者はすごいんです」





 頭が最弱の疑惑があるパイオニアとこの世界に来たばかりのマキ、この二人は知らない。これが普通の駆け出し冒険者では有り得ないということを……。



  ▽▲▽

 


 ❑-パイオニア


 ギルドの受付には先日に冒険者登録をしてくれた人がいた。


「どうも。昨日ぶりですね」

「あなた、あの依頼、達成したの?」

「ええ。できましたね。運がよかったです」


 自慢したい気持ちで一杯だけど、ここは押さえておく。


 もう、時刻は夕方である。この人は昼からの担当なのかな。

 僕の言葉に顔が引きつっているのが見える。


「ですが、けが人を出してしまったので成功とは言い難いですね。すぐに教会に行って治療できたので大丈夫でしたけど」


 僕はマキさんを紹介する。

 そのときに受付の彼女が自分の胸を指しながらレイナと名乗った。胸には名札がついていた。朝の男の人は…確かルルトと書いてあったような気がする。


 レイナさんの顔が少し変わって、うんうんと頷いている。

 多分この人が体を張って助けてくれたのだろうと、勝手に自分を納得させているようにも見えた。


「しかも、従魔が暴れまわってしまったせいで壊してしまったものなど込々で賠償金を払うことになっているかもしれません」

「言わんこっちゃないですね」

「あはは…」


 空笑いが出てしまう。

 賠償金の確認をしようと、レイナさんは石板を操作した。


「あれ? 賠償金の方は依頼主の方が支払ったようですよ、達成報酬はギルドの方で値引きされてますけどね。クレームの対応のために引かせてもらったようです」

「そうですか。それなら良かったです。ですけど、依頼主の方は誰だったんですか?」


 僕は依頼主について何も知らない状態でアースさんを探しに行ってしまった。依頼書の端の方にでも書いてあったのかもしれないけど、あいにく見ていない。


「それは…少し言いにくいので」

「そうですか」


 言いたくないことまで言わせる必要はないかな。

 レイナさんは話を切り替えるために咳ばらいを一つ。


「こほん、それで今日はどんな御用で?」 

「魔物の換金です」


 どさっと、音を立てて二つの入れ物を受付に置く。

 入れ物からは、横からはみ出た魔物の指やら蔦やらが飛び出していた。


 また受付のレイナさんの顔が引き攣つる。


「うわあ~、どこでこんなに大量に狩ってきたんですか」

「リース平原の奥地です」

「一日にこれですと最奥の一歩手前ですね。お二人とも少しでも奥に行ってたら危なかったですよ」

「何かあるのか?」


 これにはマキさんが食いついた。


「最近、3年ぶりにリース平原の上位種ボスモンスターが発見されました。今は調査中なんですが、3年前はゴブリンディフェンダーっていうボスが現れて、平原奥地では沢山の方々が戦って亡くなられたんです」

「それで、魔物があんなに押し寄せてきてたんですね。戦っている間、休む暇もなかったぐらいですから」


「それは多分ボスを守るための行動だと思います。3年前のウィークゴブリンがそのような感じでしたね。くれぐれも命は大切にしてください」


 3年前はゴブリンだけ……か。俺たちが戦うときはゴブリンにスライム、シードフラワーが主に襲ってきたけど、多種族の魔物が(はべ)る程のボスでもいるのだろうか?


「……達成の確認は終わりました。換金は右手にある受付でどうぞ。ついでに依頼の達成報酬もそこで一気に渡します」


 彼女が指差した先にある受付に向かう。受付には眼鏡をかけた中年の男が立っていた。

 その男は僕たちが持っている荷物を見て声をかけてきた。


「一日でよくそんなに集めたもんだなあ。お疲れさん、君たち」

「換金をお願いしたいのですが、よろしいですか」

「出してみてくれ」


 これですと、言いながら受付に魔物の成れの果てを並べる。


「うん、一つ一つの質もいいように見える。奥の方の魔物だな。どうやってこんなに倒したんだよ、と言ってやりたいところだが聞かないでおくよ。向かってくる奴らを倒しましたとか言われるかもしれないしね」


 まあ、間違ってない。確かに聞かれていたらそう答えていたかも。


「お金にすると…最低でも金貨一枚ぐらいになると思うよ」

「金貨…一枚」


 一日間倒した魔物がそんなに高い金額になるのか…。


 鑑定の作業が終わってお金が出される。

 なんとそこには金貨が一枚と大銀貨が4枚も乗っていた。


「合計で9000ユニだ。本当に質が良いもんばっかりだった。魔物のレベルが高い奥地なのによくここまで狩れたな」


 僕は両手でお金を受け取る。心なしか視界がぼやけてきたけど、これは涙じゃない。

 涙じゃ…ない。


「帰りましょうマキさん」

「ああ」


 外に出ると、もう夜になっていた。僕はその静かな夜道をトボトボと歩いて行く。


「疲れたのか?」


 心配してくれているのだろう。マキさんの声は優しかった。

 最初に会ったときと印象が全然違うなと思った。


「……僕は今まで武術の練習をする度、街の人にもベテランの冒険者の方達にも馬鹿にされていました。お前にできるわけがないと何度も言われ続け、戦う(すべ)を教えてくれる人もいなかったんです。誰も教えてくれないのならばと自力で鍛錬を続けました。そんな僕でも……そんな僕でも冒険者になれるんですね」


 僕は顔を上げて、マキさんを見た。視界は先ほどよりもぼやけていて、マキさんの表情を見ることはできなかった。

 でも、マキさんの優しい手が僕の肩を抱いた。


「帰ろうか」

「はい」


 その温かい手の感触はこれからの僕にとって大切な宝物になるのだった。

 お金の価値は決められているけれど、その温かさの価値は人には決められないと僕は思った。



  ▽▲▽



 初戦闘の次の日、俺らは最寄りの店に寄って大きめの袋を購入した後、ギルドでスライム討伐などの依頼の受注を済ませた。そして、そのまま平原の奥地に向かい魔物との戦闘を始めた。


 昨日は戦闘の疲れで早い時間に眠った。そのおかげで今日も調子がいい。


 前日同様、魔物はほとんど途切れることなく現れたが昨日の戦闘で対処方法がわかっているため楽に魔物を狩ることができた。


 欠点であった換金部位の収集の遅さも、地面に買ってきた大きな袋を置き、魔物を狩る度に換金部位をとって投げ入れるという形で効率化させた。 


 夕方にはギルドに戻って昨日より格段に多くなった収入を手にして宿屋に帰った。


 昨日と違ったところと言えば朝の受付のルルトさんに前日に狩った魔物の量を伝えると失神しかけ、夜の受付のレイナさんと換金してくれた人――名前はコーネルと言っていた。――に、マキさんが冒険者になって2日しか経っていないことを伝えると失神しかけたことぐらいだ。



 そのまた次の日、ギルド、討伐、ギルド、宿屋、就寝。


 そのまた次の日も…。俺らは毎日欠かさず朝出発し、夕方に帰ってくる生活を続けた。



 そうして五日ほどを過ごしてから、今日は街の観光などをしようとギルドに行かず商店街の方に出ようという話になった。

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