ギルド
<金>
銅貨 1 (ユニ)
大銅貨 10
銀貨 100
大銀貨 1,000
金貨 5,000 五千
大金貨 50,000 五万
白金貨 1,000,000 百万
大白金貨 10,000,000 千万
パンが一つ、10ユニで買えます。
❑‐パイオニア
早朝の柔らかい日差しを感じて自然と目が覚める。
「うん、ちょうどいい時間」
時計を見てみると朝の5時を指していた。時計は魔法道具ではなく機械仕掛けだ。
この技術は先期の文明を築いた祖先たちが残してくれたもので、魔法道具の時計もあるのだが、そちらは値が張るため貴族の嗜として使われている。
僕の朝は早い。2年前から始めた冒険者の見よう見まね―――もとい訓練によって、もう体にこの生活が染みついているのだ。
いつも通り訓練をしに行ってもいいのだが今日はマキさんとギルドに行く約束をしている。
あと、ギルドに行ったついでに冒険者になって二回目の依頼を受けるつもりだ。もう決めちゃってるけど。
冒険者の仕事をしている自分を想像すると自然に笑みがこぼれてしまう。
マキさんも一緒にやるかなと、勝手に考えているとマキさんも起きてきた。
「おはようございます。起こしちゃいましたか?」
「いや、そういうわけではない。それに、どちらかというと今日はいつもより長い時間眠った。疲れもとれたしな」
「そうですか、ぐっすり眠れたようで何よりです」
マキさんは敬語を使わなくていいと云ってくれたのだけれど、正直できない。
歳は僕と近いはずなのに、なぜか“歴戦の戦士”みたいな雰囲気を纏っている。
そのせいで何歳も年上のように感じてしまって、いつも畏かしこまってしまう。
「今日はギルドに行くってことでいいですよね」
「ああ、任せる」
「では、昼まで待つのもあれなので朝のうちに行ってしまいましょう」
「わかった。だがこんな時間から開いてるのか?」
「いえ、一般用に開かれるのは8時ぐらいです。緊急用のための受付は24時間制で開いてますね」
出発は8時頃ということにして外に出る準備をすることにした。
といっても僕もマキさんも荷物はほとんどないからすぐ終わっちゃうだろうけど。
お母さんは僕に色んな種類の道具とかを買おうとしてくれたけど、僕はできるだけ自分の力で冒険を始めたいと考えていたから荷物はほとんど持ってこなかった。
それにマキさんも荷物は少なそうに見える。だいたい冒険者服に入る程度の必需品だけ持ち歩いているようだ。
そのような荷物でマキさんが今までどのようにして生活してきたのか、本当に気になる。
雰囲気もそうだし、少ない荷物も野宿などを想定しての物があったりする。謎が多い人だと思う。
時間になると僕たちはギルドに出発した。
▽▲▽
「これがギルドです」
「思っていたよりも大きい建物だな」
ギルドは街に一つ、多くて二つ配置されている冒険者用の機関で、冒険者になった人ならば自由に入ることができる。
そして、僕たちは王都に唯一存在するギルドに来ている。王都という規模に合わせて城かと思われるほど大きい建物の作りになっている。
「王都にはギルドが一つしかないのでその分大きく作られているんです。早速、中に入りましょう」
朝だというのに騒がしいギルド内が見える。僕とマキさんは騒々しい中を通って受付に向かった。
受付には真面目そうな男の人が立っていた。
「おはようございます。今日は何のご用件で?」
「ステータスプレートの作成と依頼の受注です。ステータスプレートを作るのは彼だけですけど」
「畏まりました。では、ステータスプレートから作りましょう」
受付の男は担々(たんたん)とした動きで準備をしていて機械みたいだなと感じ、その話し方が少しマキさんに似ているなとも思った。
彼は受付の後ろにいくつも並べられている銀のプレートの一つを手に取り、マキさんの前に置く。
「ここに手を乗せてください。ステータスの読み込みが始まります。ステータスプレートについて、説明を致いたしましょうか?」
「お願いする」
マキさんはステータスプレートに手を置きながら説明を聞く姿勢をとった。
「このステータスプレートは、先期の時代に神々から受け継いだ技術の一つです。自分がどのような魔力を有し、どのような能力が使えるかを簡単に知るこ――――ー」
この間、僕は暇なので近くで待っていようかと振り返りかけたとき、目の端に強烈な光を感じた。ステータスプレートから出ている光は直視できないほどにまで強くなっている。
昨日の僕と似ていると思った。違う点と言えば、僕の時の光は薄い青色でマキさんの光は真っ白だ。
手とプレートの間で光が発生して、どんどん力を増していく。まるで電気が流れてるみたいだ。
静電気のように一瞬、光が弾けた。
「…お、落ち着いてください。大丈夫です。力の強い方が契約されるとき、こうなることがあるんです。でも…まさか…」
受付の彼が変なことを言っている間にももう一度バチンッと音が鳴る。
すると、さっきまで荒ぶっていたプレートは静かになった。
……バチン!
「え!? 不意打ち!?」
おっと、取り乱してしまった。
「終わったようですね、手を放しても大丈夫です」
マキさんの手が離れ、ステータスプレートを見ると―――黒。
受付の台の上には、黒く変色したステータスプレートが乗っていた。
しかも、受付の男が驚愕の表情で固まっている。多分、僕もこうして考えながらも表情が固まってると思う。
受付の彼は小さな声で「まるであの人たちみたいだ……」と、言っている。
「おい、大丈夫か。壊れたとかではないだろうな」
ギリギリ正気を取り戻した受付の男が答える。
「えっと、ステータスプレートは持ち主の能力によって変色することもあります。普通の人は銀のままなのですが、強い能力の持ち主と契約をすると、『黒色』なることがあるんです」
「俺はどうなんだ?」
「世界でも有数の実力者になれる可能性を秘めています。僕の知り合いにも黒いステータスプレートの持ち主がいます。その人の力も他の人とは桁が違う」
神妙な顔つきで彼は話を続ける。
「あなたが自分の強みをわかっていて、それを扱いきれるのであれば、先に広がるのは無限の強さと言っても過言ではないでしょう。
ですが、あなたの力は強い。ゆえに抵抗力がとても大きく働きます。例えばレベルの高い人ほどレベルが上がりにくいように、力が強い人ほどその力を扱うことが難しく、伸びるのも時間がかかる。その分、コツを掴んだ時の成長度が化け物でしたが…」
受付の人が説明をしているがマキさんは中々理解できていないようだった。
「なあ、ステータスはどうやってみるんだ?」
「残りのステータスは、手に持ったら見えるようになります。とってみてください」
マキさんがステータスプレートを手に持つと、ホログラムのような形で画面が現れた。
そこに何が書かれているのかはわからないけど、多分…。
「ほとんど何も書かれてないぞ?」
そのはず。
「大丈夫です。最初はみんなそうなります。自分の強さを自分で理解しきれていないということです。戦っているうちに埋まっていきますから。
一応説明させてもらいますと、ステータスの方は上から体力(PHY)、魔力(MP)、筋力(STR)、耐久力(END)、俊敏力(AGI)といったところです。
魔力は時にマナという呼び方もしますので覚えておくいいと思います」
そこまで僕が言うと受付の男は手続き用の石板を忙しなく触ってから僕らの方を見た。
「一応、手続きは完了しました。本来は依頼をお選びになってもらうところですが、その前に」
「なんだ?」
「冒険者様の予定を狂わせるわけにはいかないので、今日中とは言いませんが近々ギルドマスターに会ってもらう形になるかもしれません。あなたがこの国にいたという事に感謝しなければいけませんね」
確かに黒色のステータスプレートが出たことは一大事かもしれない。
一人の力によって国の戦力を一気に引き上げることができるかもしれないから。
でも、少し嫉妬してしまう気持ちもある。僕は透明なステータスプレートに変じたというのに、そのまま放っておかれている。なのに、マキさんは黒色を出して歓迎されている。
でも、これで冒険者のレベルがゼロの状態、つまり生身の人間の状態でアースエレメンタルの攻撃に耐えれた理由がわかった気がする。
マキさんと僕では規模が違うのかもしれない。
「そうか。まず依頼を受けたいのだが、あそこにある紙から選べばいいのだろうか」
言うや否やマキさんは掲示板のほうに歩きだした。それを僕も追いかける。
「え、ええ」
受付の男はマキさんの素っ気ない態度に混乱しているようだった。初めて機械のような無表情に表情が写った。
僕に黒色のプレートが出たら、普通は泣いて喜ぶぐらいはするだろうしなあ。
予想していた反応と違って困惑しているといった風だ。
まあ、マキさんは記憶喪失だからしょうがないと思うけど。
「あ、パイオニア・ライト様は少しお待ちください」
「はい?」
「あなたが昨日受注した依頼が達成されていますので確認をと」
最後に見失っちゃったんだけどなあ。それでも主人が見つけてくれたのだろうか。
達成ってことは報酬が貰えるわけだけど…。
「わかりました」
「では、プレートの方を」
僕は素直にステータスプレートを渡す。依頼の受注、達成報告には不可欠だ。
受付の彼は石板を弄る手を止めて、ふと僕の顔を見る。
「不躾な質問だと思うのですが、もしかしてライト領の…」
やっぱり言われるか。
「まあ、そうです」
「あの件に関してはご愁傷さまです」
「もう王都に噂が広まっているのでしょうか」
そうしたら、僕が名乗る度に哀れな目をされるだろう。それはいい気持ちではない。
「いいえ、ギルド間でだけ共有されているようです。申し訳ございません」
「いや、いいですよ。慣れてますから」
それが嫌になって無理やり飛び出したのもあるから。
そんな話をしている間に、一人で掲示板を眺めていたマキさんは一枚の紙を持って僕のところに来た。
そこには、『初心者必見! 戦いの基本を学ぶにはスライムから!』と大見出しで書かれている。
「これはどうだ? お前も昨日冒険者になったばかりなんだろう」
多分、初心者救済用の依頼だと思うけど。まあ、定番といえば定番かな。
「いいですね、これでいきましょう」
「だが、お前は大丈夫なのか?俺は多少、武術などの心得があるが、戦えるか」
「昨日のような敵だと思ってません? 大丈夫です。では、マキさんにだけ特別に僕のプレートをお見せしましょう」
僕はなんか自慢したくなってこそこそとプレートを取り出す。ちゃんと誰にも見えないように。
マキさんは、そのプレートを見るなり少しばかり目を見開いたように見えた。
僕のプレートの色は透明。そう、僕は―――。
「最弱だったか…」
マキさん?
違いますよ?
黒の反対だから、最強の反対だからって…。
「まあ、俺もこの板についてはまだ何も知らないが、最初に教えてくれて助かった。精一杯お前の援護をしよう。恩人に死なれても困るからな」
「…あ、あの…マキさん、言っときますけど、黒の反対の白が最弱で通り越して透明で最最弱とかって考えてるんなら違いますよ?」
「違うのか?」
「はい、そもそも白なんてないですし。銀と黒の二色しかいままで今まで出たことないですし」
「じゃあ、透明はなんなんだ?」
「それが、まだ世界で僕しか貰ってない色でして……」
僕は下を向く、なぜならニヤニヤが止まらないから。
「…マキさんよりもレアってことですね!あははははははははは! あ…」
マキさんの顔を見ると、はてなマークがつきそうなほど何もわかっていない顔をしていた…。
記憶喪失、恐るべし…。
「まあ、いい。行くぞ」
「あ、待ってくださいよ。マキさん」
『斯くして、俺らは最弱のパイオニアより弱いスライムとやらを討伐しに行くことになった』
マキさん…、勝手に僕の心の中の声に入ってこないでください…。