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先駆者の欠片  作者: 東京駄駄
プロローグ 二人の冒険の始まり
3/16

新しい世界

 一人の青年が目を閉じた状態で立っている。歳は17歳前後といったところで、まだほんの少し幼さの残る顔つきだった。


 青年が立っている空間は闇の中、足元にも広がる漆黒の闇。そこは、次の世界に続く場所。



 それから少しすると、青年は目を覚ました。

 冷静に状況を分析するかのように周りを見渡し、一点に向かって歩きだす。


 青年が歩いていく方向には光があった。


 彼はその光に近づいていき―――光の正体を見上げる。



 そこには、青年の背丈を優に超えるほどの大きさの分厚くどっしりとした扉が存在した。

 この暗闇の空間には、淡く光るこの扉以外は何もないようだった。


 青年は少しためらったものの扉を押そうと決意し、手を触れる。

 扉は手で少し押すと、一人でに開いていき青年に、奥の世界を見せる。


 そこには、青年が今まで見たこともないものが広がっていた。


 石畳が敷かれた幅の広い一本道が続いており、道の脇には狭い感覚でひしめき合うように露店が並んでいる。露店を経営している人達はここぞとばかりに通りかかる人達に声をかけ、商品を買ってもらおうとしている。


 青年にとって一番不可思議であったのが、人間のその容姿であった。亜人というのだろうか。体の一部が動物の部位でできている人間がいたりもしている。


 ――重々しい音を立てて扉が開ききった状態で止まる。


 青年はそのまま扉に歩を進め扉の中、暗闇の空間の外に出て行くのだった。



 扉の光は希望の光か、それともその青年を誘う別の何かか。

 それを知る者はここにはいなかった。



 



「アースさん! 人が!!」


 そんな声と共に得体の知れない岩が走ってきたのはそれからすぐのことだった。

 青年は考える。岩が走るとは、この世界は何をとち狂ったのだろう、と。


  青年は咄嗟の判断で衝突する寸前に体の方向を変えた。衝撃を受け流す動作をしたのである。

 武にたけたものが見ていれば、その判断力と動きに驚いていたかもしれない。


 岩とぶつかり合った時の衝撃は青年が予想した以上のものだった。



    ▽▲▽



 ❑-マキ


 アースエレメンタルの話を聞いた後にも、道すがらパイオニアからはそのような話題を中心に話を聞いた。


 何も、この世界には魔物又はモンスター等と呼ばれる生命体がいるらしい。

 そのような魔物は種類によって食材、薬にもなるらしくこの世界の住民と密接な関係を持っているとのこと。


 そして、その強大な魔物という存在に人間が打ち勝つために先期の文明を築いた祖先たちが神から銀の力や魔法の力を授かったと伝えられているらしい。


 神から授かった魔法や武術の力を用いて今までここの住民は生き永らえてきたのだとか。



 パイオニアが医療機関と言っていた建物は教会であった。そこでは魔法というものによる治療をされた。

 手を当て一言呟いただけで肉体が一気に修復されていった。


 俺の記憶では、教会は慈悲を重んじる場所と聞いていたのだが、治療代はきっちりと払わされた。幸い、ふところに通貨が入っていたおかげで払うことはできたが、目に見えて金額が減っているのはわかった。


 この世界の通貨は、ユニと呼ばれていて大銅貨一枚、10ユニ程度でパンが一つ買えると道中パイオニアは言っていた。。

 種類は、銅、銀、金、白金があり、大小でも分かれる。そして、この順で値段が上がっていく。


 俺がほとんど一文無しだと知ったパイオニアは申し訳なさそうな表情を浮かべた後、自分の宿屋に泊めてくれると云った。




「ここが僕の部屋です」

「意外と広いな……」


 教会を出た後、案内すると言われ、ついてきた。


 宿屋の外観は壁が薄汚れていて壁には蔦がはっているのを見ると、あまり良い宿屋とは思えなかったが中に入ると一変し、外観にはそぐわない小綺麗な内装を見て驚いた。

 部屋の広さも二人で過ごすのに支障がない程度に広い。


「自由に使っていいですよ。僕は荷物もそんなに持ってこなかったもんですから部屋の中は、がら空きですし」

「すまないな。ありがたく使わせてもらう」


パイオニアの言った通り、部屋には大きめの背負いカバンが一つ置いてあるだけで、他には家具が並んでいる。


「そんな堅苦しくなくてもいいですよ。もっと気楽に話してください」

「そうか、だが俺は今の話し方に慣れている。俺は、お前の方が堅苦しい口調に感じるのだが」

「そう…ですね。僕も少しずつ、変えるとします」


 だが本当に助かった。この世界に来て、パイオニアに会っていなかったら今頃どうなっていたか。

 最初は大丈夫かもしれないが、後の方で飢えていたかもしれない。とにかく知識を持った知人ができたというだけでも、ひとまず安心できる。


 パイオニアはというと、まだ(ほど)いていなかった荷物を出し始めている。

 そういえばパイオニアは一か月分の宿代を払ってあると言っていた。


「一か月も過ごすのに荷物は少ないんだな」

「ええ、残りの荷物はこちらで準備した方が都合がいいですし」


 俺の荷物は、いつの間にか着ていた服に入っていたものしかなく、例を挙げると通貨や小さなナイフしかない。

 パイオニアの荷物も水分補給用のボトルやタオルがあったりしたが、ほとんど身一つで来たようなもんだろう。


「なあ、お前のことパイオニアって呼べばいいよな?」

「ええ、そちらの方がありがたいです」


 そちらの方って、どちらの方だろう。

 彼は自分のことをパイオニア・ライトと名乗っていた。だから、名前で呼んでもいいか聞いたのだが苗字で呼ばれたくない理由でもあるのだおうか。

 まあ、考えてもわからないな。言いたくないこともあるだろうし。


 俺は自分をマキと名乗ったが、別にそれが本名というわけでもない。呼ばれていた名の中で特に気に入っていた名を使っただけだ。


「俺を泊めても大丈夫なのか? 見るからにこの街は治安がとても良いとは言い切れないし、お前の物を俺が盗んだりするかもしれないのに」


 パイオニアは荷物を動かす手を止める。パイオニアはこちらを見てきた。


「そんなこと言う人が物を盗んだりするはずないと僕は思いますけどね」


と、言いながらこちらを見てニコリと笑った。


 それもそうか。それでも、不用心に過ぎると思うが。

 街の中を歩いてる途中、一度スリに遭いかけた。俺が弱っているのを見て仕掛けてきたのかもしれないが、そうだとしても危ないだろう。いや、それともこれが普通なのだろうか。


「それに万が一僕にそんなことが起きたら不注意だった僕の方にも非がありますから。そのときはそのときです。盗む物もないと思いますけど」

「お前、お人好しと言われたことはないか?」

「よく言われます」


 苦笑いをしながらパイオニアは言う。

 その後、会話も途切れてしまった。俺も何を話せばいいのかわからず、二人とも自然に各々がしなければならないことをし始めた。



 パイオニアが片付けを終えた頃、俺も情報の整理など大体のことを終わらせた。

 タイミングを見計らっていたパイオニアが俺に話しかけてくる。


「えっと…マキさんはこれまでどのように過ごしてきたんですか? もしかして凄腕の冒険者だったりして…」

「その話はちょっと複雑になる。あと、俺も曖昧なところしか思い出せないんだ」


 そう、俺は教会からここに来る道で過去のことを振り返ろうとしたのだが一部の記憶しか思い出せない。

 なにかのショックか意図的なものか、俺にはわからないが、今パイオニアに話してあげれるような記憶は然程(さほど)ない。


「そうですか、それもしょうがないですね。」


 パイオニアは、俺が記憶喪失に陥ったと考えているらしい。俺もそう思うが引っかかる事柄がいくつかあるため完全に信じているわけではない。それに記憶をなくしていたのは、あの暗い場所にいたときからだ。


「パイオニアは、ここで暮らしながら何をしているんだ?」

「冒険者です。田舎の出なのですけど…あの、勇者に憧れて王都まで来ました。この宿は、母親が心配して一ヶ月分の代金を払ってくれたんですよ。一ヶ月の間に自分で金が稼げるようになれないようだったら帰って来てほしいとまで言われていますし。自慢できる話ではないですね。はは…」


 そう言ったパイオニアの顔は少し曇っていた。


「そうか、じゃあ、岩みたいなものと駆けっこをしていたのはどういう経緯だ?」

「その件は本当にすいませんでした!」


 別にそんなつもりはなかったが気を使わせてしまった。


「別にいい。それにお前のおかげで今夜の寝床がある」

「いえ、これは治療費を返せるお金が無くてですね……」


 だろうな。必要な物をこちらで集めると言っておきながら金の類はほとんど持ち合わせていないのはわかっていた。粗方、こちらで稼ごうと考えていたのだろう。


「そんなのはわかってる。どういう経緯だったんだ?」


 俺がもう一度聞くと、渋々という感じでパイオニアは話してくれた。


「ギルドで冒険者登録をした後、調子に乗ってさっそく大金稼いでやろうと、そのとき一番報酬金額の高かった依頼を受けただけです…」

「だけってお前…」


 絶句してしまった。依頼というのは仕事のようなものだろうが、あの化け物と関連する仕事を受けようとするとは、正気だと思えない。


「ああ、もう!わかってますよ。僕が悪いんですよ…。しかも、魔物はいなくなってしまったので依頼は未達成。器物破損とかでお金も払わなければいけないですし…」


 拗ねたのかパイオニアは黙ったままうつむいてしまった。

 話題を変えるか。


「その、ギルドで登録とか言っていたが、どういうことだ?」

「冒険者ギルドですか…説明するよりも行く方が早いですね。今はもう微妙な時間ですし、明日にでも一緒に行きましょう」


 パイオニアが窓を指す。

 窓の外を見ると空はもう赤くなりかけており、話し込んでいる間に結構な時間が経っていたことに気付いた。


 その後も当たり障りのない話を適当にして、暗くなった時に寝ることにした。

 一つしかないベットはパイオニアに無理やり譲ったが申し訳なさそうにしていた。


 俺は部屋の床に布団を敷いて仰向けに寝る。


 少しするとパイオニアの寝息が聞こえてきた。


 寝るの早いな。まあ、今日は心身ともに疲れたのだろう。

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