表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先駆者の欠片  作者: 東京駄駄
第2章
15/16

コボルト鉱山

 体の大きいバズさんは自分よりも大きい背負いカバンを背中に立ち上がった。


「どうして、そんなに大きなカバンを持って行くんですか?」

「コボルトは鉱石を集める習性があるんだけど、それをもらうからね。荷物がかさばっちゃうんだ」


 バズさんは見た目よりも高い声をしている。普段は静かな人だから近づきがたかったけれど声をかけると気さくに答えてくれるいい人だった。


 今、僕らはコボルト鉱山の入り口に立っている。

 崖にパックリと空いた洞窟のような穴から中が覗けるが、暗くて奥までは見えない。


 コボルトはゴブリンと同じように人型の魔物で、犬のような顔にネズミのような尻尾を持っている。

 武器は主にこん棒やつるはしを使うらしい。中には剣を持っている奴もいるが、対処の仕方があるからそこまで危険ではないらしい。


 昨日の内にダリアスさんからコボルトの戦いで注意しなければいけない点についても説明を受けた。


 コボルトは集団で行動することが多くいため、コボルトとの戦闘中は増援などに気を付けないといけない。見つけた数の二倍は近くに潜んでいると考えなければいけないらしい。


 そして、深層に下りると居住地のような場所があり、そこに入ると何十体ものコボルトかに襲われて痛い目に遭い兼ねないとも言っていた。


 深層に入らずに浅い場所で狩りを続けていても収入はいいらしく、立ち寄った冒険者たちには人気だ。

 実際、今も入る準備をしている僕たちの横を冒険者たちが通り過ぎていく。

 鉱山に入っていく冒険者は最低でも四人のパーティーだった。 


「そろそろ行こうか」


 そう言って立ち上がったリールさんに続いてみんなが立ち上がる。

 僕はふと思ったことを聞いてみた。


「そういえば、ここもダンジョンなんですか?」


 僕が向かっているのは新しく出来たダンジョンだ。どのようなものがダンジョンと呼ばれているか詳しく知っておきたかった。


 鉱山に体を向けていたリールさんは首をこちらに向ける。


「ああ、見方によればダンジョンとも言える。でも、一般的なダンジョンとは違うよ」

「どういうことですか?」

「それは進みながら説明しよう」


 リールさんは、そのまま中に向かって歩いていく。あの後をついていった。


 鉱山の中は湿っていて、小さな砂ぼこりのようなものが光によって見える。

 先頭を進むのはケーシーさん。その次にバズさん、リールさん、僕、ダリアスさんの順で中に向かって進んでいた。


「パイオニア君はダンジョンを見たことがあるかい?」

「いいえ、ありません」


 王都にもセントラルダンジョンというダンジョンがあったが、見に行ったことはなかった。


 今回新しく出来たワイルドダンジョンに向かおうと決めたの理由は、家に帰ることが出来ることとマキさんの助けを受けずに自分の力で戦ってみたかったからだ。


「ダンジョンというはいきなり現れるものだろ? そして突然消える。だから、そのようなダンジョンを昔は神造ダンジョンと呼んでいた。今は、新しく出来た神造ダンジョンのことを『新造ダンジョン』と呼ぶけど、それは名残かな」

「コボルト鉱山は違うんですか?」

「うん、ここは言うなれば自然発生ダンジョンになる」

「自然発生ダンジョン…」

「長い間使われていなかった廃坑に勝手にコボルトが集まり、住み着いてダンジョンになったから自然発生ダンジョンだ」

「そんなこともあるんですね」

「まあ、そこまで珍しくもないけどな」

「し…!」


 話していると、姿勢を低くしたケーシーさんが僕らを振り返ってきた。人差し指が唇に当てられている。


 視線でリールさんがどうしたのかと問うと、ケーシーさんは指を三本立てた。魔物が三体いると伝えているようだ。


 ケーシーさんはリールさんの目をじっと見る。リールさんが頷くと、パーティー全体が緊張感に包まれた。みんなが戦闘の準備をしているのを見て、僕も真似る。

 

 明かりは最小限まで小さくした。少し前の方向に曲がり角があった。その奥から、足跡が近づいてくるのが聞こえてきた。僕らもゆっくりと角に近づく。


 コボルトが視認出来た瞬間、最初に動いたのはケーシーさんだった。

 瞬きするほどの間にコボルトに接近し、うち一体を背中から羽交い絞めにして拘束した。その後を追うようにバズさんとリールさんがコボルトに接近。声をあげさせないままに首を断ち切った。ケーシーさんは羽交い絞めにしたコボルトの首に短剣を刺し、ひねる。


「すごい…」


 思わず口から出た声を聴いてリールさんがニッと笑う。


「次はパイオニア君の番だよ」


 そう言ったとき、道の奥から一体のコボルトが躍り出た。


「おっと」


 リールさんは冷静に対処する。敵の武器をはじいてから足払い。

 コボルトは簡単に抵抗ができない状態にされた。落ちたこん棒がコトンと軽い音を立てて転がった。


「あ…」


 僕は、コボルトの目を見てしまった。

 そこには涙が浮かんでいた。仲間のほうを一度見て、なおも顔を歪める。


 そこにリールさんの剣がひらめいた。先ほどまで動いていた体がガクリと垂れ、光の地理になる。ほかのコボルトも間もなく消えた。


「次だ」

「僕もやるんですか?」


 リールさんは、あきれたような顔になった。


「だから連れてきたんだろ? うまくいかなくてもフォローするから」

「…わかりました」


 うつむく僕の肩にケーシーさんの手が乗った。


「緊張してるの?」


 緊張。

 新しい敵。マキさんといたときは、こんなにも取り乱さなかった。アースさんに対しても、グレイトボアに対しても。ましてや上位種ボスモンスターに対しても取り乱さなかったのに。


 今、僕は緊張している。


「いいことを教えてあげる」


 ケーシーさんの目は優しかった。


「それが、戦う上で最高のコンディションなの」

「最高の…」

「そう、これは命のやり取り。あなたは今まで気づかなかった?」


 気づいていなかった。命のやり取り。

 魔物にも家族とか、仲間とかがあるんだ。コボルトを見て初めて気づいた。


 だから…緊張してる。


「リース平原のゴブリンとかには仲間意識とかないものね。でも、これは彼らの命を奪っている行為だってことを忘れないで」

「はい…」


 リースさんさんが僕の背中をドンと押した。振り返るとニッと笑いかけてくる。


「行けるか?」

「行けます」


 リールさんは前を見た。


「来るぞ、構えろ」


 僕は返事をせずに体の前に短剣を持ってくる。

 他人の力に頼りすぎない。僕が決めたことだ。だから、諦めない。


 曲がり角から二体のコボルトが踊り出た。

 僕はケーシーさんの動きを真似て、一気に敵に接近する。驚いたコボルトが一瞬固まったのが見えて、後ろに回り羽交い絞めにしようとしたら振り切られてしまった。


 まあ、上手くいくわけないか。


 体のバランスを崩して後ろに倒れそうになるところを追い打ちをかけるように手につるはしを持ったもう一体のコボルトが攻撃してくる。

 それを軽く地面を蹴って避ける。目の前すれすれをつるはしが過ぎ去っていった。倒れそうになったのが幸いしたようだった。


 コボルト二体と僕はにらみ合いを始める。


 だが、戦っているのは僕だけじゃない。


 ザシュッ。

 僕が羽交い絞めにしようとしたコボルトの首が飛んだ。首のなくなったコボルトの奥に剣を振り上げた状態のリールさんが見えた。


 僕は驚いて横を見るもう一体のコボルトの首に剣を刺す。


 しばらくして光の塵になるコボルトを見て、安堵のため息をつく。倒したのだ。


「よくやった。パイオニア君」


 嬉しそうにハイタッチを求めてくるリールさんの手に自分の手を当てる。

 パチンと小気味いい音が響いた。


 バズさん、ダリアスさん、ケーシーさんもニコニコとこちらを見ている。

 みんな本当にいい人たちだ。


「さ、次に行こうか!」

「でも、一人で走って行くとは思わなかったなあ。私の技を真似ようとしたの?」


 ケーシーさんが歩きながら横目で聞いた。


「まあ、でも上手くいかなかったです。本当はそれで片方を倒した後に一対一に持ち込む予定だったのですが…」

「すごいじゃない。今度、時間があったら教えてあげるわ。あれは蜘蛛殺し(スパイダー)っていうスキルよ。スキルなしで使えるようになるには時間がかかるかもしれないけど、その武器との相性はいいかもね」

「ありがとうございます」


 それに実際に振ってみて気が付いたことがある。


ガルドさんが見繕ったこの剣は天井の低い洞窟のような場所でも思う存分に振れるということ。ついでに軽いので素早く動くのを得意とする僕にはピッタリの代物でもあるということだった。


 僕たちは調子よくずんずんと進んでいく。





 結構な距離を進んだ。

 その途中、何度か他の冒険者と鉢合わせになったけど、ここでのルールがあるのか場合によってお互いに譲り合ってきた。


「ここは今どのへんですか」


 僕の前を歩いているリールさんに聞いてみる。


 昼飯もだいぶ前に食べた。コボルトの鉱山に入ってから相当な時間がたった。これまで出会ったコボルトの数も100体は超えたはずだ。

 それ故に鉱石の数も尋常ではないのだが、バズさんは疲労しているようには見えなかった。


「えーっと、中層の奥の方だと思う。どの階層でもコボルトの強さは変わらないからどんどん進んできたけど、もう疲れちゃったかな?」

「正直に言っちゃえば結構疲れてます」


 中層に下りれば強さは変わらなかったが、出会う頻度が増えていた。それで一気に疲弊してしまったのかもしれない。


「初めて地下で戦っただろうから必要以上に体力を使っちゃったのかもね。じゃあ、そろそろ帰るとするか」


 そのようにして全員が後ろを振り返った瞬間だった。


「誰か!! 誰かいませんか!」


 男の声が通路に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ