Sランクの依頼
なろうでは初投稿です。
楽しんで読んでいただければ幸いです。
バキッと、2枚目の防御膜が砕けたときにはもう2体のボスは、正気に戻っていた。
パイオニアと俺は、ボスから間合いをとる。
「マキさん。あいつらを手分けして相手しましょう」
「俺は左の花野郎を相手する」
「わかりました…でしたら、僕はあの糞ゴブリンを殺ります。見せてやりましょう!」
「ああ」
直後、俺らは二手に分かれる。俺は花型のボスモンスターに向かって走っていき、攻撃を仕掛けることでヘイトを稼ぐ。そして、背中に掛けた己の得物、大剣を引き抜く―――
▼▲▼
❏‐レイナ ・ギルド受付
「この依頼を頼みたいんだが」
男性冒険者に声を掛けられたので反射的に振り返った。
カウンターを挟んで向かい側には、背が高く筋骨隆々とした男が3人立っている。みな、自分の体よりも大きな剣を背中に掛けていて、本当に重量があるのか疑ってしまうぐらい軽々と持っているのが不思議に思える。
このパーティーのリーダーである男の人に一枚の紙を渡される。
「ゴブリンウォーリアーの討伐依頼ですね。ランクにも見合ってますし…畏まりました」
一通り依頼書に目を通した私は、カウンターの横に置いてある魔道具に依頼内容と冒険者の名前を書き込んでいく。
意外と地味に見えるけど、この作業が楽しいのよね~。
「依頼の受注はこれで完了です。ゴブリンウォーリアーは、中距離の攻撃を得てとしていますので、討伐する際は、気を付けてください。それと、この地帯は周りにゴブリンウィザード等といったゴブリンの変異種が潜んでいる可能性がありますので、攻撃する前に周囲の探索を優先して行った方がいいかもしれませんね」
目を合わせて話そうとすると、見上げるような格好になってしまう。
わたしの背が極端に低いのもあると思うけど、いつ見ても大きいなと感じる。
このパーティーの方々は、昔からの付き合い。できれば亡くなってもらいたくないなと思う。
仲の良かった冒険者の人も、気が付けば来なくなっていることがある。わたしは、それが嫌で、蓄えた知識をこうして冒険者の方々に教えていた。
「いつも、ありがとうよ。姉ちゃん、俺らのパーティーに入らねえか?俺ら状況判断が鈍いやつが多くて、姉ちゃんみたいな人が必要なんだわ」
「いやいや、私なんかが行けば足手まといですよ」
「残念だなあー。姉ちゃんがいれば百人力なのによ」
大きな体をした冒険者は、さして残念でもなさそうに言う。
まあ、このようなやり取りを何度もしてきたせいで断られることはわかってたみたいだし。
「んじゃ、行ってくるわ」
「お気を付けて」
じゃあな、姉ちゃんなどと言いながら外に出て行く冒険者のパーティーを見送ると、その後ろにギルドに来たのが初めてなのか、おどおどしている一人の青年が目に入った。
「御用件は、なんでしょう。できればお手伝いしますよ」
できるだけ緊張させないために笑顔で話しかけてみる。
その青年は、ぼさぼさの髪に細身な体をしている。初心者用に売られている防具や武器を付けているようだけど、誰が見ても着こなせていないのがわかる。
戦い慣れしていないのは、一目瞭然だった。
「ええと、パイオニアと申します。その…初めて来たんですけど…冒険者になりたくて…」
「それでは、冒険者登録から致しましょう」
しどろもどろになっている微笑ましい新米君に声を心掛けながら、登録を一つ一つ済ませていく。
「最後に、このステータスプレートに手を当ててください」
ステータスプレートというのは、先期の時代に神々から受け継いだ技術の一つで、自分がどのような魔力を有し、どのような能力が使えるかを簡単に知ることができるようになっている。
そして、今から行おこなわれるのはステータスプレートとの契約で、契約をすると何日かでジョブが発生し、そのジョブに近しい能力を得ることができる。
能力は実行できるようになると、ステータスプレートに名前が浮かび上がる。
身分証明書としても使われているため、持っておくことに損はない。
機械技術で量産されてはいるが、その工場は失われた技術で作られており、今でもその構造は把握しきれてないという。
勝手に内容が更新されることはなく、ステータスプレートの上に手を置き、更新と言えば、経験値などからレベルが上がったり、新しい能力などを得ることができる。
みなさんの常識ではこんなところでしょう。
前々から冒険者に憧れてたのかも。
新米君は、受付の上に差し出された手のひら大の銀色の板を感慨深げに見た後、手を置く。
手が置かれて少しすると、指の隙間から白い光が漏れ、ステータスプレートとの契約が完了する……予定だった。
ステータスプレートは、自ら発光し始めるが、色は青色。
「なにこれ…」
私の声だった。
光が弱くなっていき…やがて消える。
青年の手が持ち上げられた後のスタータスプレートは――
「え? どうして?」
――透明になっていた。
「これは、どういうことですか?」
新米君も戸惑ったようにこちらを見てくる。
何よ、これ。見たこともない。
普通、契約を行った後のステータスプレートは銀色のままのはずなのだ。
「私にもわかりません。もしかして、『黒色』と同じ扱いなのでは、ありませんか?」
「へ? 黒色って、あの?」
普通は、契約後のステータスプレートも銀色のまま。
それでも例外はある。ときどき強い力を持った人が契約を行うと、強い光を放った後に、黒色のステータスプレートになる。
黒色のステータスプレートを持っているのは、一握りの人材だけ。
だけど、透明なステータスプレートになったという話は、一度も聞いたことがない。
「私にも、わかりません。ですが、これはあまり人には見せない方がいいものかもしれませんね」
「はあ」
戸惑っているのか、間抜けな顔をしている青年は、これまた間抜けな返事を返してきた。
「何か、このステータスプレートについてわかりましたら私に教えてくださいませんか?」
「それは、かまいません。でも、大丈夫なんでしょうか?」
「私にもわかりませんが…」
耳に手を当ててひそひそ声で青年に言う。
「二人の秘密ということで」
青年の顔が少し赤くなった。
「今日は早速何かの依頼を受ける予定ですか?」
「はい。初めての依頼ですし、これにしたいなと…」
元気を取り戻した新米君は、掲示板に貼ってあった紙を前に置く。
内容は……フムフム。……え?
「なんでこれを?」
「初めての依頼なので」
「頭は大丈夫ですか」
もしかしてこの子、わかってない?
依頼内容は、実に簡単である。
いつの間にかいなくなってしまった従魔を探すだけの依頼である。実に単純。
その従魔がSランクの魔物でなければ……。
「本当にやるんですか?」
「はい、やります」
わたしは、起こりえる危険について、必要となる実力等々を熱弁したのだが、青年は聞く耳を持たない。
ひたすら、やりますとだけ答えるのだ。
ギルドのルールには、ランクに見合った依頼しか受けられないという規則はない。それでも、ランクというのは魔物の強さを表している。新米にこんな依頼が務まるはずがなかった。
先に折れたのは、わたしだった。
「わかりました。依頼受注の許可は出します。ですが、危険だと思った場合は、全力で逃げてください。いいですか?」
「はい。命は大切にします」
青年がギルドから出て行ってすぐ、ギルド従業員のルルトが私の方に歩いてきた。いつものように、すました顔をして歩いてくる。
「本当にいいんですか?」
「しょうがないでしょう?」
「あの年頃の男なら相当危ないと思うんですけど」
ため息が出てきそうになるのをこらえる。
「でも、キルさんの従魔ですし…命の危険まではないと思ったので…」
「まあ、なんでもいいです」
突き放した言い方をした後、ルルトは自分の持ち場に戻っていった。
そして、青年パイオニアは翌日、本当にSランクの依頼を達成して帰って来たのだった。
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