第零話:私の見ていたもの
私は問う。君の願いはそれでよかったのか、と。
彼は答えた。それに勝る望みは存在しない、と。
どこにでもある普通の田舎町。春には田植えをする老人夫婦の姿が目に付き、夏には小川で泳ぐ子供達が賑わい、冬は一面の雪景色に覆われる。
特に名所があるというわけでもなく、特別な行事が行われているというわけでもなく、お世辞にも見栄えがよいとはいえない辺鄙な町だった。
そこにはある古ぼけた社が建っている。谷川の奥にあるこじんまりとした社で、滝音の響く中州にある。昔はちょっとだけ有名な秋祭りが行われていた。
私はその秋祭りが好きだった。特別に変わったことをする祭りでもなかったけれど、そこに集まった人々の笑顔が輝いているように見えたからだ。
でも、それはもはや遠い過去の出来事に落ちぶれた。拝殿の門を閉じた社に人が集まることはなく、知名度もないような秋祭りが行われることもない。
いつしか夢を語る者はいなくなり、幻想ではなく現実を受け入れた人々は、努力する意思を失ってしまったのだろう。しかし、それも仕方がないことだった。
私には祈ることしかできない。願いを叶えるために生まれた私が、祈りを捧げるしかないなんて、とんだ皮肉もあったものだ。もう絶対に欲張りはしない。
けれど、もし我儘を言っていいのならば、たった一つ。この一つだけの願いを叶えさせてほしい。
虚無でしかなかった私にも、どうか生まれた意味がありますように――