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Hな世界に導かれ……  作者: 山田二郎
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第二死 そりゃ二週目やるからにはハードモードだよね




 第二死 そりゃ二週目やるからにはハードモードだよね  




 ぼやける男の視界に広がるのは意識が『一度』途切れた場所から変わっていない寒い草原であった。太陽が落ち草原は真っ暗な夜を迎えていた。


「……ハッ! 首!」


灯り一つ無い夜の草原で視界が悪い中、意識がはっきりした男は、意識を失う前までの記憶を思い出し思わず熊型の魔物に落された自分の首に触れる。


「はッ! ……ある……はぁぁぁぁ」


自分の首がしっかりと胴体に付いていることを確認した男は安堵のため息を漏らす。


「……ゆ、夢……だったのか」


それにしてはあまりにも首を落とされた時の感覚はリアルに覚えている男は自分の体が正常であることを確認するように足を動かした。


「……ッ!」


しかしその直後、ぬちゃりという気色の悪い音が足元から聞こえた男は視線を足元に落とした。


「……血……」


 暗くてよくは見えないが自分の足元に大量の血溜まりがあることを確認した男は草原のものとは違う別の寒さを背筋に走らせた。自分の周囲に広がる血溜まり。それは紛れも無く自分の首から噴き出し流れた血てであったからだ。

 今まで戦いの中で血溜まりなどいくらでも見てきたはずなのに男は、自分の周囲に広がるその光景に目まいを起こしフラついた。


「……クククク……早速死んだな」


「……だ、誰だ!」


目まいを起こした男は突然自分に話しかけてきた声に警戒し両腕を自分の前で構えた。


「おッほほほほ……そんなに警戒しなくてもいいよ、俺はあんたの敵でも味方でも無いんだからな」


男が警戒しているのが分かるのか謎の声は、姿は見せないものの、危害を加える気は無いと言う。しかしその声と口調には胡散臭さしか無くどうやっても信用できるものでは無い。


(……俺の感知能力で気配を感じ取れなかった)


自分が持つ感知能力が発動していなかったことを疑問に思う男。それもそのはずで男が持つ感知能力は、どんな些細な動きでも瞬時に捉えることができ相手がそこからどうするかまで直ぐに分かるまさに不正チートの能力の一つであった。結局、感知能力は全く反応を示さず男は謎の声の主の場所を特定することは出来ず真っ暗な草原を見渡すことしか出来なかった。


「あっははははは! 以前までの自分だとは思わない方がいいぜ旦那……」


そんな男の様子を見て腹を抱えたように笑う謎の声。


「な、何?」


まるで自分の思考を読むようにしてそう告げる謎の声に男は驚きの表情を浮かべる。


「その顔、全く状況が掴めてないって感じだな、いいぜ旦那……俺が今教えられることは全て教えてやる、質問してみな」


謎の声には男がどんな表情をしているのか分かっている。だがやはり男には謎の声の主が居る場所は特定できない。


「……一体……何が起こっているんだ?」


自分よりも遥かに今の状況を理解している口ぶりである謎の声の言葉に男は頷くしか無かった。男は全てが理解できないというように謎の声に対して質問する。


「……あんたは終演物語エンドコンテンツになったあの世界に退屈を感じていただろう」


終演物語エンドコンテンツ、謎の声が言うように確かにやり込み要素しか残っていないゲームのようになったあの異世にに男は退屈を感じていた。


「……そして旦那は望んだんだ、新たな刺激を……」


そうだからこそ男は刺激を求めていた。退屈な世界ががらりと変わるような刺激を。


「……それが……一体なんだというんだ」


だからと言ってその話が自分が今置かれた状況とどう結びつくのか理解できない男。


「一体なんだと? はははは、旦那が退屈だと思っていたからあの賢者は旦那の前に姿を現したんだ、そして旦那が望む願いを叶えた……」


「賢者? ……いやあれは……Hな……世界の話だろう?」


今思い返せば多少言葉に戸惑う部分はあるが自分はHな世界の話だろうと男は口にする。


「……H……ああ確かにHARDハードモードだ、この世界はハードモードなんだよ」


「ハードモード……?」


まるでゲームだと一瞬思う男。


「い、いやいや、俺はそんなの望んじゃいない」


男はあくまで異世界ハーレムでは体験できなかったことを望んだだけでハードモードなど望んではいないと主張した。


「……旦那がどんないかがわしい想像と勘違いしていたかはさておき、もう事は先に進んでしまった、後には引き返せないぜ」


「なっ!」


引き返せないという言葉に何とも理不尽な話だと思う男。


「……確かに退屈に思っていたのは確かだ……」


理不尽だとは思いつつも心のどこかで性欲とは別の刺激を欲していたことを否定出来ない男。


「そうだろう、旦那はまた胸踊る冒険ってやつをしたいのさ」


謎の声は男の心中を煽るようにそう告げる。


「そ、そうだ……俺はまた心が踊る冒険がしたい!」


煽りをまんまと受け入れてしまった男の表情は、退屈を抜け新たな楽しみを見つけた、そんな表情になっていた。


ハードモードってのが少し気になるが、大丈夫、俺には不正チートの力がある、この世界がハードモードだって言ったって俺のこの力があれば問題無い」


 不安材料は残りつつも自分が持つ不正チートの力がこれからの新たな冒険に対して男に絶対的な安心感を抱かせる。


「ん? 残念だな旦那、今のあんたの肉体は元々あんたが生きていた世界の時と殆ど変わらない、そうただの人間だ……」


「え?」


謎の声が何を言っているのか理解できないといった表情で首を傾げる男。


「そりゃそうだろ、ハードモードなのに強くて新冒険ニューゲームなんて、全く意味が無いじゃないか……」


「ええッ!」


謎の声に驚きの声を上げた男は、慌てて手を振ったり動き回ったりして自分が持つ不正チート能力の確認を始める。


「あれこれ試してもむだだよ旦那、今までのあんたの能力はこの世界には持ちこせないって言っただろう……」


あれこれと試す男にむかって呆れたような声でその行動が無駄であることを伝える謎の声。


「……そ、そんな……」


無詠唱による高火力な魔法も、重たい物体でも軽々と持ちあげる筋力も、どんな生物よりも早く動ける素早さも、自分から失われていることを自覚する男。世界の何よりも優位に立つことができた不正(チート)能力が失われただの人間に成り下がった男は衝撃と絶望に感情が追い付かず顔をひきつらせた。


「……ああ!そうだそうだ、二つだけ前の異世界から持ち越した能力が旦那にはあったよ」


「そ、それは何だ!」


 今のままでは、道端で出会う下級魔物に対して戦う手段が無い。いやそれ以前の問題で男の力が異世界に来る前の状態になっているとすれば、戦うこと事体が不可能だ。不正チートという力を失いただの人間に成り下がった男は、一縷の希望にすがるように謎の声に自分に残った能力を尋ねた。


「それは……既に実感したんじゃないの?」


「……実感した?」


謎の声の言葉に、自分の今までの行動を思い出す男。と言ってもこの草原で下着一枚で意識を取り戻し男の行動と言えば、熊型の魔物に首を切り落とされたぐらいであった。


「ッ!」


何かを理解する男。


「分かったようだな旦那……そうあんたの肉体に残された能力の一つは、不死……そしてもう一つは不老だ……」


首を刎ねられたはずなのに自分は生きている。あれはやはり夢では無く事実であったことを理解した男は、自分に残された力の一つが不死であることを自覚する。


「……」


しかし自分の肉体が不老不死であることを自覚した男であったが、その表情が晴れることは無かった。


「ん? どうした旦那、不老不死なんて人間にとっては夢の能力じゃないか」


「……力がなければ……この世界じゃ生きていけない……」


 自分が飛ばされた異世界は、剣と魔法の力が渦巻きそして魔物がはびこり絶えず争いが続く世界であった。もし今男が居るこの世界がその異世界と同じような状況にあるのならすぐに戦えるだけの力が必要となる。だが不正チートという能力のお蔭で鍛える必要が無かった男は、これから自分が強くなる方法すら分からない。例え不老不死という能力があったとしても戦うことが出来なければそこに待つのは死。だが男は死ねない体故に生き返っては殺されるという地獄のようなループが繰り返されることになる。それは絶望でしか無かった。


「ちなみに俺の役目は、死んだ旦那の体を安全な場所まで持っていくことだ、いくら不死身でも肉体を喰われて跡形も無くなったら復活出来ないからな」


ゲームの主人公が死亡した時、勝手に教会に戻るシステムのような事を口にする謎の声。


「……」


「さて、力が無きゃ生きていけないこの世界で、旦那はどう生きていくのかい?……」


《グゥオオオオオオ!》


謎の声の言葉の直後、自分の背後から響いた何かの雄叫びに背筋が凍る男。


「……それじゃ健闘を祈ってるぜ旦那、二週目、ハードモード……行ってみようか」


謎の声の言葉がスタートボタンというように、不老不死以外の力を失った男の異世界転移二週目の物語はこうして始まったのだった。



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