昔の月
1999HEROESと26HEROES
「あー、榊に会いたいぃー!!」
「現昔、うるさいよ。」
「叫んだっていいだろ!あーもう、あーもう!!!」
最後のレコーディングが終わったその帰り道。現昔がいつにも増してうるさかった。
榊とは。端的に言うと神様である。前世で彼は榊が神様だとは知らずに自分の子供のように育てていた。
「現月、今日は飲み明かそうぜ。寂しくてとても眠れる気がしないんだよ。」
「お前、ほんとあまちゃんだよな。結婚でもしてくれたら俺だって楽なのに。」
「仕方ないだろ!もう女は信用ならないんだよ!榊がいてくれたらそれだけでいい!」
「あーうるせ。」
ケラケラと笑ってやると頬を膨らませて怒る。俺の右腕を何回も叩くから、頭を1発叩き返した。
「とかなんとか言ってさ、お前は榊にいつ会えるかわかってるんだろ?」
「まぁな。今の世界が終わって、次の世界に移ったら会えると思う。」
「遠いな。」
「いやいや、今は4月で、この世界が終わるのは7月だぜ?もう少しだよ。」
俺も、前世で榊に力を貰った。現昔の時に纏わる力に対して、俺は平和に纏わる力を得た。
現昔は未来予知、俺は果実探し。
最初は木の実が見つかるだけの力なのかと思っていたが、今となっては誰が誰の運命の人かがわかる力だと気づいている。
現昔はかつて予知した未来を書に起こした。だが、その情報量は計り知れず、現昔は筆を止められなくなった。墨が尽きても予知は止まらず、現昔は自らの血で文字を書いた。その当時には無い言葉も全て書き記した。当時の妻と息子はそんな気が狂った現昔を捨てて出ていった。
現昔を最後まで見守っていたのが榊だった。自分のせいでこんなことになって申し訳ないと謝り続けていたという。
現昔は榊を自分の子供のように愛していた。
でも俺にはわかる。
榊は現昔に家族としてではない愛を向けていたこと。
そして、現昔の運命の人というのは、榊だということも。
月界で彼は大きくなっただろうか。
現昔が会いたがっていると伝えたら喜ぶだろうか。
「なぁ、現月。」
「ん?」
「生まれ変わっても親友でいような。」
「…わかってるくせに。」
手頃な居酒屋の戸を開くと、威勢の良い店員の声が響いた。