はるくんの母の日
26HEROES
「祈くん、コレ…あげる。」
高校1年の母の日、晴光にカーネーションを貰った。もう毎年のことであるから何も考えずに受け取れるが、最初は戸惑ったものだ。
「はるくんありがとうな。」
「えへへ、僕の方こそいつもありがとう。」
晴光には母親がいない。いるのは厳しい父親だけだった。小学生の頃から私は晴光にとっての母代わりなのだ。特に何をするでもなく、精神的に支えているのかもしれない。
「なぁはるくん、どうしてはるくんは私を母のように扱うんだ?」
「すごく似ているからだよ。」
「へぇ、じゃあちょっと写真が見てみたいな。」
「いや、顔が似てるとかじゃないんだよ。どこか、なんだかよくわからないんだけど、似てるんだよ…。」
小学生の頃はなけなしのお小遣いでカーネーションを一輪買って私にくれていた。私の家で父と母がやっている花屋で買ったものだというのが少しおもしろいのだが。
中学生になればお小遣いが増えたのか三輪に、そして今日は5輪に。
「来年はバイトで稼いだお金でレストランにも連れていくつもりだからね。」
「あぁ、楽しみにしているよ。」
昔は与えられることが良いことかわからなかったが、今は全てを受け入れる方が良いのだとわかる。晴光がそうしたいのだから、そうさせてあげなくては。
しかしこの年の冬、図書館で水野花奈に出会った。どうしてか彼女といる時間は楽しく、晴光を蔑ろにしてしまいがちになってしまった。
わざとではないのだが、晴光は怒ってしまった。
だからといって何をするでもなく、花奈といる時間もただずっと私のそばにいるだけだった。
母親を取られたと思って嫉妬するなんて、本当に子供のようだ。
真剣な瞳で母さんと呼ばれ、99本のカーネーションを貰うまで、そう甘く考えていた。