-65話 前哨戦 ④-
前方位からの剣戟が天使を襲う。
その切っ先は12本分。
光属性の最上位級神速の剣技で登録された“ネメシス・アーク”は、その名のとおり真円を描いて、対象者を襲う天罰だ。
1撃当たりが垂直兜割りの重攻撃に相当し、それぞれが回避不可能な速度で打ち込まれる。
ただし、この場でラージュだけが瞳術だけでカーマイケルの現在位置を捉えている。
12本の剣戟が見せる攻撃外にある彼の姿を。
天使の直上に彼はあった。
浮遊魔法を通じて、全身をバネのように低姿勢に保ったまま、神名解放された魔剣に魔力を注ぎ込む。地上では、彼の幻影がネメシス・アーク最後の一撃を放ち終えた瞬間に剣技発動――超神速重突撃――“メテオバースト・ストライク”。
十分に削られた天使のHPバーが、彼の特攻で一気に消滅したのをラージュは見ていた。
目が覚めるような剣技だった。
というか、最期の技は彼女の知らない技だ。
そして、彼女は思い知らされる『私はまだ未熟だ』と。
「見事な技だった」
カーマイケルに賛辞を贈る。
男性に見下ろされるのも悪くないと思い始めた。
カーマイケルは、ラージュに手を差し伸べて、
「先ほどは、蹴り飛ばして申し訳ない」
「気にするな! 私は今、すごくお前を気に入ったところだ」
ラージュが胸の内を曝け出している。
素直なところが彼女の長所だ。
「そ、そういうことなら」
「私は、お前に惚れてしまった! 結婚前提は重かろう、ど、どうだろうか...私を弟子にして」
もじもじし始めたのを見て、
「断る!」
即答、じわっと涙目になるラージュ。
「私は弟子を取れるほど磨いてはいないが、剣友として共に道を歩む同士であることを望む!」
カーマイケルが言える精一杯の返事だ。
傭兵団の総長代理もまだ、中途半端である。
「共に道を?...」
この界隈には、勘違いを起こす奴が多い。
「ふむ、それらば私はお前と歩む道を...だな、行くぞ!」
「まあ、いいか...」
「敵は倒した、皆と合流して次へ」
ラージュがカーマイケルの背に寄り添っている。
どうした具合でもと声を掛ける前に『うむ、頼れる殿方の背中とはこれほどの広いもの』と、額を背の鎧に当てて『暫し待つのだ...暫く、このままで』としおらしく呟いた。
「ああ。気負い過ぎなんだ、バカが」
◆
第一の門が突破されたことは、それぞれの門守護者に報告されている。
勿論、天上宮の主にもだ。
守護者は、6対の腕を持つ、2対の翼がある天使だ。
彼らは中位三使のエクスシア。
魔を退け、魔を討滅するために存在するが、今は天上宮に通じる回廊と門を守る番人だ。
第二の門を通過してきたのは、天使の群れだ。
マルが人形師で作成したゴーレムの天使だったが、見た目はよく模倣できた方だ。
続いて、本物の天使が仲間を襲う。
これが奇妙奇天烈な方法で篭絡した――バルドー・アナトミアが命ずる! 我が言葉と瞳力で軍門に下るがよい――といったアクションはなかなか反則的な効果はあったが、彼の所作はあり得ない。
ローブの肩口を爆ぜさせ、裾からすね毛の生えた汚い足を覗かせ、ウインクするのだ。
これで吐かない奴はいない。
マルが涙目で失神する。
ラージュがい怒り狂う。
グエンもカブトムシと共に死んだ。いや、昏睡だ。
だが、対象が天使だった彼らには効果覿面だったらしい。
目の色変えて、ゲートの向こうにある仲間を襲いだしたのだ。
「これが最終兵器なんじゃないか?」
意識混濁の狭間にあるカーマイケルの一言。
辛うじて精神支配を免れた、ベックは――。
「最終兵器祖父とか爺なんて呼びたかねえぞ?!」
「呼んでるじゃねえか」
戦闘復帰までに1時間を要した。




