-60話 勇者と魔人 ①-
儀式は、大賢者バルドー・アナトミアが執行した。
助手には末妹のエイジスが嫌々で付き合っているようで、一刻も早く中隊長とラブラブしたくて落ち着きがなかった。
傭兵団を中心にここら辺がだいぶ、大所帯になった。
ザボンの騎士からの応援は、マルを筆頭になぜか魔法使いが多い。
ルーカスは、ベックに置手紙を残して初心者支援プログラムに戻ったという話だ。
ただ、マルの近くに180cmを越える長身で相当、根暗なイメージの魔法使いがひとり追加されている。
「あ、あの...マルちゃん」
「ん?」
「これ、バレないよね???」
厚手のローブを必死に閉じるような皺が寄っている。
「あれ? 真に受けて本当に...着なかったの?」
ローブの重さは革鎧1個分もある。
色こそはマルと同じ浅葱色だが、マルのローブより2枚分重く頑丈に作られた特注品だ。
魔法の物理攻撃軽減などの加護を受け、魔力の一時的増量なども付与されてある。
が、それよりもメグミさんにとっての重大問題は、ブラジャーとショーツだけの下着姿しか身に付けていないという点であるのだ。マルは悪魔のような微笑で『このローブのエンチャント発動条件は、中身が下着姿であることなんだよね!』なんて、語って彼女に信じ込ませている点だ。
ちょっとした悪戯だった。
つむじ風とか、疾風などの魔法が発動しても、メグミさんに合わせて仕立てたローブは打ち消す能力を有する。
いや、おそらく非力な彼女を本気で守る前提の仕立てならば、ローブそのものに魔法城壁そのものを魔術式紋様で織り込んでいると考えれば自然なのかもしれない。
マルが注文して、マルの好みで仕立てたのならば。
そして彼女と同じ色のローブである意味を考えればだ。
――儀式が難航するとは思ってもみなかった。
と、言うのが大方の見立てだ。
なかなかに魔人の子が抵抗を見せている。
束縛の魔法で身体の身動きを封じられているとは言え、2対の翼をもつ少年である。
天使でいえばそこそこの強敵と同じステータスを有している。
まあ、それでも魔王の娘ラージュには刃が立たなかったという訳だ。
「勇者の魂が見えぬ!」
「が、消えたわけでもなさそうだが」
大賢者の手探りがまだ、続きそうな雰囲気だけなんとなくその場の皆に理解できた。
「で、ボクが用意したゴーレムはいつ使うの?」
スライムナイトの2体が台車に載せて運んできた少年の姿に絶句する。
見事な竿がぶら下がっていたからだ。
「ま、マルぅ?」
ベック・パパの悲しい声が響く。
「あ、え?」
「い、いつ...と、いや男の子のアレ...知っちゃったのかな?」
言及するのは其処か!?と、ローブを着こんでいるメグミ(仮称)さんは拳を握っていた。
ここで何時もは鉄拳制裁する。
「やっべ、な、何...この竿!!」
大興奮なグエンの喉が鳴った。
「あ、これ耳長いエルフさんからの注文で...え?」
◆
170ミリの巨砲。
体型は、好みもあるだろうけど駆逐艦サイズで、主砲だけが戦艦というバランスの悪い火力に耳長いエルフは、顔を真っ赤にして『いいじゃん、希望を言っても! どうせ、...あたしは、おっきなお〇ん〇んが欲しかったのー!!』って開き直って部屋を飛び出していった。
この宣言の後、男性陣の中で革命が起きた。
どうにも、少数派だったと思しき巨砲派という派閥が新たに起きて、彼らの自信に満ちた雰囲気が宿屋に蔓延したのである。
耳長いエルフにも女性陣からの温かい手が差し伸べられ、『私もビックベンじゃないと満足できないのよ』とか『バナナは大きくないと、モンキーバナナに需要あるのかしら?』なんて声が寄せられた。
「で、メグミさんはどっち?」
マルが問うてきた。
「どっちって?」
「勿論、エッフェル塔か通天閣かって話で」
マルの背中に悪寒が走る。
振り向きたくない。
いや、その場を静かに逃げ出したくなるような雰囲気がある。
「ねえ、マルちゃん...どこで覚えてきたかな?」
メグミさんもその場を逃れようと、歩き出す一歩というところでベックは、彼女の腕を掴んだ。
「ちょっと待て」
「あ...はい」
「俺は保護者として...」
「来たぞー!!!」
バルドーの咆哮だ。
黒衣の剣士から引き抜かれた魂は、神々しいというか光の塊のまま、ゴーレムの肉体に放り込まれている。抜け殻みたいな剣士には、不正アクセスでGMコールを受けた少年が入っている。彼は、クラスアップする前の剣士に戻ったステを見て、酷い悪態を吐き始めた。
ゴーレムの肉体を得た少年勇者は、精緻に作られた肉塊に感嘆している。
ただ、モノを見た大賢者もその点にはやはり舌を巻いた。
人形師というスキルを持つ、マルの能力を改めて実感した。
いや、匠というそれ自体がスキルじゃなくて、冠であり称号にちかい。
彼女の腕は、超一流だという事だ。
「その身体には、空きのスキル枠を3個用意してある。勇者特有のスキルもあるだろうから、熟練度レベルも200あるから好きに振ってイイよ」
ベックの小言をその身に受けながら、彼女は少年に告げた。
「魔法少女よ、そもそもこの身体のスキルは?」
「戦闘用に5、防御、補助、支援に3ずつだから? 20くらい枠を作った。で、NPCレベルは120を少し超えるかなー?」
ベックからは『余所見をするな、お父さんは怒ってるんだぞ!!』と言われ、顔を無理やり向けさせられた。
マルの能面みたいな表情は、心を閉ざした証。
今、ベックの小言が別の世界線にある。そんな感情を染み出させている。
「NPCレベル120だと?」
「チートにもほどがある」
魔人と化した黒衣の剣士が呟いた。
「ああ、全くだ――ま、お前さんの行為も十分似たものだがな?」
大賢者が黒衣の剣士に言い放った、冷めた言葉だ。




