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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 女王エリザベータの帰還
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-59話 ちょ、背後霊さん? ③-

 マルの笑顔はいろんな悩みを癒す効果がある。

 メグミ(仮称)さんは、やや気恥ずかしそうに口を尖らせて大きな体を精一杯に小さく縮こませていた。

 マルに見つかったのは仕方ない。

 彼女は特別だ。

 少なくとも、この世界において彼女ほど規格外な事は無い。

「誰だっけなー」


「貴方はどこから来たの?」

 正直、こんなことを聞くつもりは無かった。

 でも、何故か口を吐いて出た言葉がこれだったのだ。

「どこって、どこ?」


「ほ、ほら、転向コンバートしてきたって話だから、どんなところから来たのかなーって」

 と、やや苦しい言い訳だったが、話をマルの昔語りに逸らしてみた。

 マル自身が『それは、身バレさせる行為じゃないの?』と言ってくる可能性を大いに持っていたが、そこまで彼女の気が回っていなかった証でもある。

 そもそも、風呂場で――いや、まさか素っ裸で湯煙で恥ずかしい部分は隠せているけど、こんな姿を見られるとは思わなかった。体型、ことバストサイズやヒップサイズ、下っ腹に脇腹の肉の付き方は、リアル・メグミ(仮称)さんのトレース後のサイズであるから素である。

 ゲームソースとして数値化された模倣だと言い逃れはできるけども、これは生の自分なのだ。

 気になる横のツマめる肉も、よく再現されてある。

 決して、ベックには見られたくない姿だ。


 いや、もっともベックが(湯煙に覆われた)彼女を見れば、一発でアカウント凍結となるだろう。


 それがハラスメント・ペナルティの現実だ。

 同性でも、ハラスメントですって宣言すれば、例外なく凍結を押し付け合う事が出来る。

 ただし、乱用を防ぐ為に弁護士の介入などが起こり得る。

 面倒なのでここ数か月は、静かな世界である。


「んー。雰囲気は似てるし、いや、状態もあんまし変わんないかも?」

 メグミ(仮称)さんの前にあったマルは、膝を屈してそれを抱え込むように丸くなってしゃがんでいた。

 いつしか、彼女は綴じていた膝を大きく割って、胡坐をかきながらややヒンヤリするタイルの上に座り込んでいる。両ひざを掴んで腕を伸ばし、仰け反りながら天上を仰ぐ。時折、左右に揺れながら、口を尖らせぶつぶつ。

 股にある神秘の谷間は、隠すことなく開け広げ、ピンク色の乳首はメグミ(仮称)さんの直視に耐えている。

「似てるんだけど、似てないところもある。でも、ボクのいたところは、戦争してたんだよね... 戦う理由なんてあったのかさえ分からない戦争をさ」

 マルは、少し暗い表情になった。

 マルの出自は、貴族だ。彼女自身も率いる一族があって、多くの従属する家臣がある。

 それでも家柄を抜きにして友とか、親友といった雰囲気の仲間がいた。

 その彼らも漏れなく、戦争という竈にくべられた薪のようなものだった。


 マルは、人並み以上に優れた魔法使いで、圧倒的な火力と戦力で魔王軍の一角に席が用意された。

 いや、どう言い繕っても単なる兵器だ。

 仕方なく戦ったが、そこから解放されてもマルの手は血に染まっている。

 罪悪感は常に持っている。できれば、どこかで清算できればとさえ考えていた。



 汚部屋に通されたマルの髪は、濡れてぺしゃんこになっている。

 メグミ(仮称)さんは、白くてもふもふのタオルをベッドの下から引きずり出すと、

「ほら、ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ?」

 マルの髪をくしゃくしゃにさせながら、タオルでくるんでいる。

 当のされている本人は、目を細めながらメグミさんに抱き着いた。

「ああ、お姉さんの匂い...スキー!」

 首元にマルの鼻息があたる。

 マルの腕がメグミさんの背中に回ると、ぎゅーって締め付けられ――鯖折っぽい状態になった。

「あ、あれ?」

 メグミさんの掠れてきこえる声。

「え、えーっと...な、な...」


「もう、こんなエロい肉もってたなんて」


「あ...あぁ...ま、マルさ...」

 息苦しい。

 締め付けが半端ない。

 ルーカスのアバターなら、マルの筋力で圧迫死なんて起こりえない。

 メグミ(仮称)さんのアバターは道行く普通のNPCと同じステ振りのわりと貧弱な身体だ。

 もっとも、リアルで素のメグミさんはもっと非力で、ベックが握ってきた手には感動も覚えたが、後半は単に痛かっただけなので、泣いてしまったというオチがある。

 そんな一般NPCなメグミ(仮称)さんは、本当に死にそうだった。


 これで、退出ベイルアウトしたらどこへ行くのだろう。

 と、脳裏をよぎる。


「人の部屋で致すとか...もう、かわいいなー、ねえ! ルーカスお姉ちゃんって呼んでいい?!」


「は?」


「んふっ」

 マルの紅い瞳が鋭く光った瞬間だった。  

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