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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 “世界”と帝国の章 革命前夜
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-834話 ウォルフ・スノー攻防戦 8 -

 帝国のウォルフ・スノー攻略指揮所は、帝国本土にはない。

 確かに帝国領も国境線で紛争地域化してはいるが、これは国境線上にある監視城から、常備兵を展開しているだけで本格的な侵攻戦には至っていない。南からの圧力によって、皇帝軍と魔王軍のいずれもが帝都侵攻に回す兵力を損なわしている状況だ。

 強化兵の攻撃はそういうところでも活躍していた。

 さて、司令部は“ブルノ”城に置かれてあった。

 指揮官は、ハイエルフの武人ふたりだ。


 これが実に厄介な話だが、女帝からは「程よい分担で速やかに乱を終結させ、妾を満足させるのだ。いや、功を競って二人のどちらかが多くの戦果を得たならば、褒美をくれてやらんでもない」

 ルイトガルトは340歳の年頃である。

 婆と揶揄されるような年齢ではない。

 しいて言うと。


 ハイエルフの中で一番、若いエルフであるとも言えた。

 一族の最長老であれば2千歳となるし、生きるしかばねみたいになっている。

 いや、魔法で満たされた変な水溜りに座り込んで「これぞ聖女の魔力せいすいなり!」とかボケたことを言っていた。ルイトガルトは知らないが、その泉の奥には聖女像があって――頭を右後方へ俯き加減に向けながら、小股を開いたまましゃがみこんで致しているような、ポーズから魔力の泉が池に注がれている状況なのだ。

 これを昔ら、聖女さまの聖水といってあがめている。

 決して、()()()()とは言ってはいけない。

 そうすると、いろいろ面倒なことになる。


 そう、いろいろだ。



 武功を競って良いというのは一見、発破をかけたような言葉であるが。

 それは同一階級の日ごろから何事も、張り合うのが趣味のようなふたりに、献じてはいけない言葉だ。

 何が厄介であるかといえば、その武功争いが、配下の兵にまで浸透するからだ。


 陸戦におけるハイエルフの将は、グレイズ伯爵が指揮を執っている。

 主戦場は、バルカシュ領の奪還であったが10数万の強化兵受け入れ戦場が無くなり、途方に暮れていたところ、白羽の矢が立ちウォルフ・スノーへと派遣されてきたクチであった。久しぶりの出兵だったこともあって、少し勇み足だったのではと落ち込んでいたところだった。

 しかも、各地に転戦する中で、他のエルフたちの「誰だコイツ?」的な態度にキレかけたところもあった。


 また、もうひとり空戦の将としてブルーム伯は、グレイズの従弟であり元恋人で、士官学校の同期かつ同世代のライバルでもあるという複雑な関係を持つ。男色に走ってるところでは異端ではあるが、両人ともに両刀であると公言している。

 ただ、ちょっとブルーム伯は嫉妬深い処が強い。

 帝国新鋭の“強化兵”というおもちゃを手に入れたことによる、不満がの如実に態度となってグレイズ伯の不敬を買っているようなのだ。


 ちょっと仲が悪くてどうしようもない。

 そのうえ、連日の制空権の失態が拍車をかけていると言われ始めている。

「なあ、ブルームよ...そろそろ、そちらの指揮権も我に預けよ、そしてこの城の防備に全力を傾けてはどうか?」

 ブルーム伯は、飲みかけの珈琲カップの動きが、ぴたりと止まった。

 ややぷるぷると、震えだすと――「未だだ、こ、これも作戦の、作戦の内である!!」

 苦し紛れという印象は否めない。


 ただ、出まかせという訳でもない。

 何か用意しているという話もなくはなかったからだ。

 “()()”から手配しているものがある――およそ戦線打開の一助みたいなものであろうと予測はできる。

「まあ、せいぜい頑張れよ」


「お、お前こそ...魔王軍を複数で相手して問題はないのだろうなあ?」

 これは苦し紛れの仕返しというやつだ。

「ふ、そんな事か...俺に()()()を捧げたひよっこの癖に、泣くのだけは一人前というのか? そんなことを心配しているよりも自分の立場をよーく考えておけ。今計画していることが破綻すれば、お前の立場は危うくなのだぞ?!」

 心配しての忠告だ。

 “本国”から輸送される()()に一縷の望みはあるだろう。


 しかし、それは同時に、誰かに大きな貸しを作ったことを意味する。

 ハイエルフの貸し借りは、親族でさえ躊躇するのだから、同族の他人は信用さえできない。

「心配は無用だ!」


「それならばよいが」

 心配はない――貸しの相手は彼の父である。



 メグミさんが振るう魔法剣の一撃は、冷酷の一言に尽きる。

 百、いや或いは1千にも上る兵が、敵意むき出しに襲い掛かってくるソレを、横へ薙ぎ払う一閃でミンチに変える。その行為に眉根の1ミリさえも表情を変えることはない。

「一応、わが帝国兵なので...投降の勧告び掛けををお願いしたいのだが?」

 と、ラインベルクの青ざめた顔にも真顔で相対する。

 いま彼女自身も、感情をOFFにして戦っている最中なのだ。


 腕を振るったら、人間がミンチになったのを内心、泣きながら後悔している。

 そう、彼女は「ごめんなさい、ごめんなさい」と誤りだ推していた。

 その反動が感情OFFである。

「ヨネ殿おぉ!!」

 純白のローブに“赤十字”の腕章をはめたヨネがある。

 マルから、それが()()()の証だからと、教わったまま突っ立ているので、ラインベルクに掛けられた言葉は入ってきていない。


 で、そのマルはノーパンの上に短パンを履いた状態で茶をすすっている。

「お姉ちゃん、がんばれ~」

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