-51話 黒い剣士と魔王の娘 ②-
黒衣の剣士が2対の翼で宙を飛び、自分の力で吹き飛んだ教会を見下ろしていると、その眼下から煌めく何かを感知能力のひとつで捉えた。それをいとも容易く掴み取ると、逆刃付の鏃がついた矢であった。
教会の一部を吹き飛ばした折、その周辺で場所替えをしていた猟師の師弟のうち、生理中の娘が飛んできた瓦礫に当たり重症となった。彼はその娘を背負って町中に潜伏して様子を伺っていた。
幸い、彼女の傷は利き腕とは逆の肩を抉られただけで済んでいるいるが、もう弓を引くことは難しい。
機械式石弓を使えばいいのだけども、それでも不自由さが彼女を苦しませるだろうと予想がつく。
それを案じもしたが、仇めいたものを討たなければ、どうにも収まりがつかなった。というあたりが本音だ。師は、教会より西へ走って都で二番目に高い時計塔に登った。
ここから見える眺めは、馬車の影に隠れる傭兵団は死角に入り、彼には見えない。
が、背中を向けている2対の翼をもった化け物がようく見えた。
「こいつのせいで」
という殺気が放った矢に乗ってしまって気が付かれた。
「そこか!」
抜刀している二本のうち、右手の禍々しいオーラを放つ片手剣が空間を裂いた。
剣技のスキルか、魔法の類かを判別する間もなく、時計塔の真ん中より上部がすぱっと切り落とされている。師は、慌てて落下する時計塔より飛び降りて数十メートル下の屋根へ避難した。
「こんな離れた距離を、奴は化け物か!?」
◆
これらのやり取りを地上から見ている傭兵団は、呆気にとらわれていた。
「次元が違いすぎる」
「風属性の変異だ。演出だけでもっとよく観察しろ」
と、魔王の娘・憤怒が『やれやれ、相手のオーバーアクションにいちいち反応するな』と指摘している。
「2対の翼も殆ど飾りだ。現にホバリングする鳥を見たことは無いか? その場に留まり続けるには、滑空や風に乗る以上に翼で浮力を得るために絶えず、動かさないと行けない。と、考えれば自ずと飛行魔術で宙に浮いてると答えがでるだろう?」
彼女は、腕を組み黒衣の剣士を見上げていた。
ただ、癇に障る奴だと付け足している。
「何が気に入りませんか?」
「何もかもだが、ひとつ挙げるなら、二刀流としているあの長剣だ」
指さすブロード・ソードは黒曜石のような濃い紫の剣と、青白っぽいひと振りを握っていた。
鞘はなく、腰ではなく背中に背負うような、雰囲気で収納するのだとも思える。
「私は、女だが片手剣を自在に扱えるまでに辛苦の努力を積み重ねてきた。今でもまだ、動きに甘さが残る。恐らく癖と未熟さで一生試行錯誤を繰り返すだろう」
歯ぎしりみたいな音が聞こえそうな険しい表情で、彼女は眉間に皺を寄せて瞼を閉じる。
不甲斐ないみたいなことも呟いていた。
こと、剣技において彼女は、真剣に向き合ってきたのだろう。
魔王軍の将軍たちを任す実力は、絶え間ぬ努力の結果なのだ。
「だが、あれが化け物と呼ばれるのは我慢ならんな」
やや大人げない発言だと、ラージュ自身が気が付いている。
およそ自分の方が強いことは自明だ。
飛行魔術で演出ばかりに凝った剣士など眼中にはない。
人間たちを差し置いて倒してしまっても、いいものだろうかと考えていた。
「お前たちは、魔法城壁を使う事が出来るか?」
ラージュは、あの剣士を地上に降ろす方法を告げた。




