表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
848/2521

-789話 姫巫女降し 64-

 丘陵の標高はせいぜい4~50m。

 登るのには難儀しないが、ところどころに掘割を切っておいてあって、それが鬱蒼と茂った木々によって隠されてある。正面から登ろうとすると、削り出された垂直の壁に行く手を阻まれる。回り込むと、上り坂だった道が実は下り坂になって行き止まりになる。

 要するに張りぼての城なのに、守備にステータスを全振りしたようないやらしさがあった。

 城主はこれまでの戦人生としつきを、この築城の為に費やしたといっても過言ではない。


 これが抜けられるのであれば、あとは帝国の砦など障害物でも何でもないだろう。

 という自負がある。

 だから、守備兵は10名でよいのだ。

「とは、やせ我慢も大概だな」

 城主のボヤキ。

 本音でいえば、すでに千は超えている敵兵の数の前に、1日、二日と持ち堪えたとしても国家同士の戦いに大した影響を与えないだろうと、過小評価のきらいがある。

 戦争の本質は数の暴力だ。

 どちらか一方に数的優位に勝、質があったとしても、結局のところは数である。

 例えば、一人の魔王に数百、数千を超える勇者を充てるようなものだ。

 どんなに化け物な魔王でも、さすがに天敵と対峙するなら日を跨いで相対したい――それが数の暴力だということだ。


 10人で守る城を前にした5千の軍は、無理を強いて城をおとす必要はない。

 無視しても痛手にもならないからだ。

「どう出ますかね?」

 10人のひとりが望楼に上がってきた。

 老将と似たような皺の刻み方をしている――いい歳だということだ。

 彼にも3人の息子と孫がある。


 荘園の若い衆は、隣の男爵領へと非難させた。

 若い世代が死ぬ番ではないからだ。

 城の中の兵士は皆、ジジイばかりである。

「儂なら、礼を尽くして使者を送るだろう...礼を尽くすのであればな」



「先ずは、魔法士の射程圏まで軍を進める故、千人、前へ進め!!」

 “シルヴァーン”城塞から人の群れが波となって押し寄せ始まる。

 デモンズレイクの城主の一世一代の花道もあったもんじゃない。

 使者でも来れば、恫喝の一つでもして見せて、城兵に()()()()()()()()()なんてパフォーマンスを見せるつもりだった。

 そういう死に花も咲かせてもらえないのは、少し寂しいと感じている。

《バカが、ああいう連中は圧倒的な兵力の前で焼かれて死んでしまえ》

 というのが、先遣隊の将の考えだ。


 四皇子も、そういう意味では老将に似た性格だった。

 敵前逃亡するのも、大きく啖呵を切って見せて身近な部下とともに颯爽と逃亡したのだ。

 彼に声を掛けなかったのも許しがたき所業だと思っている。


 後日談だが――四皇子は、コモディニ王国の端で捕縛された。

 その折、かの者に声を掛けなかった理由として――「あいつ、面白くないじゃん...花の咲かせ方を知らないやつだし」――と言っていたという。


 デデデーン、デデデーン...

 銅鑼のだ。

 千人隊を動かしていることがわかる。

 急ごしらえの軍隊だから、まだ、故国の音色を用いて人を誘導しているところがあった。

 だから目をつむっていても、敵兵の動きがわかる。



 密林の中に兵が入る。

 当然、セオリー通りに正面突破を図った。

 森に入るまでに気が付かなかった絶壁が、部隊の行方を阻む。

 戦闘が詰まると、途端に後方までの動きがもっさりとなった――“シルヴァーン”城塞の望楼から見ていると歯がゆく感じる点だ。

 銅鑼の音が、後退を告げるのだから怒りのボルテージはMAXになる。

「どうした?!」

 望楼から下階の兵を怒鳴っている。

 望楼は、城の中にもうふたつある。

 将軍とは正反対の位置のでは、明後日しか見えない。

 もう一つは工事中だ。

「伝令は来てません」

 としか、返しようがない。

「使えん奴らだ!」

 諸兵を苛立たせるセリフだ。

 怒りと不満のボルテージを、双方で貯めていく。


「伝令!」


「よい、どうした?!」


「丘陵内は迷路にござり、寄せ手の兵に負傷者多数!!」

 と言って、早駆けの兵が馬の首を戦場に向けると、その場を離れていった。

 寄せ手の兵が()()と聞きかじった将軍は、望楼で吠えていた。

 なんの意味の遠吠えか意味不明だが、とにかく吠えている。

「全軍っ! 総攻撃だ!!!」

 皆が思う。

 こいつ、伝令の話を聞いていたのか?と。



 開戦の12日前のころだ。

 シャフル州の領主館に集められた兵は、精悍な面持ちでシヴァ将軍と対峙している。

 その数は2千だ。

 とは言っても、遠征地で何度も死線を掻い潜ってきた、戦争屋だとすれば、その力量は数以上に勝るものがあるはずだ。できうることならば、纏まった1万などの兵を与えて動かしたいものだが、まだその気ではないと、彼女は部下に申し伝えた後だ。

 そこで、こうやって無言でにらみ合っている。

「で...」

 口を開いたのはシヴァ将軍。

 堪えきれなかった模様。

 ちょっと笑いを堪えてる雰囲気がある。

「帰参したら...」


「ああ、私の財布でな」

 一礼を済ませると、馬に跨って走り出している。

 不思議に思ったマルは、戸口からシヴァの背に問いかける――「何を約束したの?」


「飯だよ。生きて帰れなくても、帰ってきたら皆で飯を食おうと...そういう繋がりなんだ。酒を飲んで酔いつぶれて、動けなくなるまで食って、騒いで、笑いながら見送るそういう葬儀の仕方さ」

 ちょっと悲しくなった。

 が、シヴァは振り返りながら。

「そういうわけで、今夜から生活を切り詰める! あいつら容赦なく飲みやがるから、財布がもたねえんだわ」

 目端に涙を浮かべていた。

 きれいな話が台無しである。

 シャフル州から2千の騎馬兵がデモンズレイク城に向けて送られた。

 そして、その彼らは開戦の前日には、密林の中に布陣し終えていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ