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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-779話 姫巫女降し 55-

「ま、正直な話。エスカリオテ帝国は何を狙ってるんだ?」

 音沙汰がないのが不気味という話だ。

 新生ブルーメル・イス帝国の政治的一新によって、帝国本土の半分は混乱なく治世下に治まっている。地方領主たちの反乱という流れになるか、とも考えられたがそれらは取り越し苦労に終わった。

 それだけ反動が大きかったのだ。

 摂政の苛烈さによる――。


 いずれは、帝国の命運を誰かに託すという考えがあったのではないかと、摂政への評価が改められている。が、その検証が行われるのは、彼の死後100年くらい後の話である。

 それだけ、素直に貴族たちがイングヴルムの下に降ったからだ。

 ただ、そのイングヴルムは暗愚であるのが頂けない。

「狙う必要がないのだとしたら?」

 “遠見の鏡”ごしのラインベルク。

 遠距離通信を可能にする便利な魔法のアイテムだが、実際に向こう側の鏡の前にラインベルクが居るのかと問われると、虚像は妄想で、変身される声は幻聴ではないかと思われる節がある。

 ただ、そこを疑うともう、魔法さえも何でも信じにくくなるものだ。

「狙わない? 何をだ」


「何もかもでは?」

 今一、ピンとこない。

「暗愚であることを知った我々でさえ将来を悲観せざるえません。これが、国民や臣下に漏れれば、いや、極大に解釈されれば単純ではないでしょうが、国は国としての未来さきを失うのではないでしょうか。いや、第二の摂政さえも市民は望むでしょう! たとえそれが悪人でも、暗愚によって滅亡するよりかはマシであると、人は考えないでしょうか?」

 


 交信を終えた伯爵のもとにガラハット卿が立つ。

 戸口にあって、中に入るの憚るような雰囲気さえある。

「如何した貴殿と私の中であろう?」

 戦死した北方の備えにあった将軍も含めれば、彼らは生まれも育ちも違ってはいても、同じ釜の飯を食らって大将軍職に上り詰めた、帝国屈指のたたき上げである。決して身分に胡坐をかいたものとは、ひとつも、ふたつも頭の上にある存在だ。

 帝国の至宝とさえ呼んでもいい。

「なあ、おれは正直、どうしたらいいと思う?」


「なんだ藪から棒に」


「幼帝の為、幼年学校進学を進めたところのなのだが。あの摂政の手によって雌犬ペットにさせられていた乳母がだな――『帝国皇帝に剣など不要』と申してきた。確かにあの方しか今は、心身的な後見人は居ない。自分の乳で育てていたという自負もあろう」


「まあ要するに貴殿は、幼帝の代わりに()()のような人物が必要なのだな?」

 帝国史上に置いて、その存在は1例しかない。

 病床に伏した皇帝に変わり、妃である方が代役として1年間献身的に補佐したという話だ。

 ラブロマンス的な戯曲にもなって、国民の多くも親しんでいる物語だ。


 さて、そうなると。

 その代役が必要になる――皇籍にあって幼帝の安全が確かでなければ意味がない。



 エスカリオテの建設中の王宮に密偵が現れる。

 新生帝国の情報はすべてこういう形で、エスカリオテ王に届く手はずになっている。

 国内の整備はあらかた整った――あとはいつ開戦しても、新生帝国に後れを成すことはない。

 そういう意味では充実した、数か月であった。


 ライバル国はとんだ災難に見舞われていると言ったところだった。

「また、あの伯爵か...方々で動き回っているようだが、今更、遅いということを知れ」

 貴族たちの懐柔も終わっている。


 今、このタイミングで戦争がはじまると、エスカリオテの動員兵力は10万をゆうに超えることになる。新生帝国は代わりに骨抜きにされて、兵も集まらないという状況だ。

 これが彼らの誇る成果である。

「さて、どんな秘策を...」

 紐解いた手が止まる。

 短い文章だが、それだけで十分だった――殿下、復籍す――だ。


 その紙を丸めて暖炉の中に放り込んだ。

 火を点けると熱くなるのでゴミ箱変わりだが、何となく投げたくなったのだ。

 この皇籍の復活した殿下というのは、末妹のリフルしかいない。

 彼女以外に皇籍を失った女性は居ないし、父王が可愛がっていた娘もいない。

 いや、そもそもで帝国中の人気をさらう人物としては、彼女は別格である。


 エスカリオテ王の家臣の中にも、リフルが王位を継ぐのならばという声はなくもない。

 聞かなかったことだと思って対処したことはある。

「だが、」

 看過できないと思った。

 敵味方と、関係なければ今でも可愛い妹である。

 そのリフルを害しようなどと考えは微塵にもわかないのだが、こと、継嗣問題ならば話は別だ。

 都合のいい事だろう理解している。

 わがままだが、こうなることはどこかで避けたいと思っていた。

「誰か、あるか?」


「は、お傍に」

 密偵とは違う配下が背後にある。

 こちらも黒装束の軽業師のような恰好をしていた。

 表情が分からないよう、フードを深くかぶっている。

「例えば、どの程度の警戒ならば暗殺は可能だ?」


「いかなる場所にでも」


「それは、朱の海に浮かぶ白亜の王城でもか?」


「御意」

 男とのやり取りはたんぱくに進む。

 これが実行されれば戦争になる。

 失敗しても、しなくても戦争は確実だ。

「狙う相手によるリスクは?」


「ありますが、刺し違えてでもと決死なので届かずとも、致命傷は与えて見せます」


「ああ、届かないか...では依頼する! リフルの命を獲れ!!」


「御意」

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