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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-772話 姫巫女降し ㊽-

 幼帝イングヴルムが擁立されてひと月。

 状況はめまぐるしく動いていた――幼帝はなんだかんだで4歳を少し回った頃だ。

 少なくとも成人として認められるまでに10年は必要だ。

 その間は間違いなく傀儡で、後見人たる摂政の力は増すばかりである。



 とにかく、今は時間が惜しい。

 4歳といえども自覚はある――転生者としての自覚だ。

 かの体の中には、55歳の童貞、引きこもりニートのおっさんが封入されていた。

 彼の最新ぜんせの記憶は、ニートのくせにネット通販では手に入らない、特典のフィギア欲しさに家を飛び出してバス停へ向かう途中、暴走した乗用車に刎ねられ即死した。買い物する前だったから、むさいおっさん独りの死亡記事で済んでいる。

 これが、買い物を終えていたと思うと――赤面で死んでも死にきれなかったと思われる。

 新作ADVゲーム『乙女の黄金水は万能です?』という。


 死ねる...買ってたら、ちり芥になって死ねる。

 そう4歳の体の中のおっさんは呟いていた。



 幼年王の視線に気が付いたのは、侍女のひとりだ。

 沐浴の前、着替えを取りに薄着で部屋を出た際、幼年王の表情が歪んだのを目撃した。

 その顔つきは、悪魔憑きにもひけをとらないような、醜さであったことが鮮明に残っている。

「沐浴の間は常に視線を感じてなりません」

 侍女、使用人たちの間でももちきりの()()()()話は、尾ひれがついている。

 幼年王は、実は先帝の血統ではないのかもしれない、という他愛もない噂だ。

 ただし、彼が皇帝でなければ一笑に付される噂であったが、時はすでに残酷で仕方ない。

 噂の出どころに関係なく、摂政は手すきの侍女も含めて斬首とした。


 この時代の侍女といえば、下級とはいえ貴族の令嬢たちが宮殿に上がってきた者たちである。

 帝国の正統性の為に参加した、貴族たちに対するひどい仕打ちであった。

「私の行動こういが酷いと申すか?!」

 乳母と揉める摂政をベッドの上から幼年王が見ている――《さすがに4歳に持って、乳母とは言え30手前の“おっぱい”を強請るのは強引かなあ...だが、あの摂政め...また、俺の女に手を出すつもりかよ》――と、毒づくように覗いていた。

 こういう得体のしれない視線は、刺すような痛みがある。

 幼年王にとっては意味もなく見ていたつもりだったが、摂政にはそれが“()()”であることを知っていた。


 そして、思わず振り返っている。

「ん?! いないか...」

 壁裏に滑り込むようにしてニアミスを回避していた。

《やべえよ、あの男...ただの文官じゃねえ》


「ああ、ただの文官ではない!」

 部屋の戸口に摂政が立つ。

 その傍に膝を山折りにして座り込んでいる少年を見ていた。


 見上げることもできなければ、声を出すこともできないほどの威圧感がある。

 中身は55歳だが、なりは4歳だから、小便を豪快に漏らしても許されるはずだ――が、上から見てくる化け物は微動だにせず。

「何者だ、キサマ?!」

 と、声を投げていた。



 幼帝イングヴルムの使者は、帝都に迫ると、朱に染まった湖の南の街へ向かうよう指示してきた。

 朱の都“カラグラ”市、商人ギルドが牛耳っている()()()()である。

 ここに帝国の手は届かない。

 一応、自治領の体裁はもっているが、教会の保護領域という建前がある。

 金で買った権利ではあるが、それでも帝国摂政でさえ容易に手が出せない都市なのだ。

「とうとう、こんなトコに通されちゃったよ」

 ラインベルクはマントに鎧程度だが、付き人として、エセクター伯爵は深々とローブを着込み、魔術士然としている。

 ラウルは兵を500ほど率いていた。

 焼け石に水だと分かってはいるが、やっぱり一人で向かわせるのは騎士としての矜持が許さなかったといった。

 当のラインベルクは、苦笑しながら『俺は、頼もしい友がいる』と、讃えたという。


「自由都市っても、そんな仰々しい形で押し入ったら、どんなに盆暗な帝国斥候兵でも気が付くと思いますけど? よっぽど旦那方は危険な火遊びがしたいんですね」

 と、声を掛けてきたのがマスター・ラサの遣いである。

 盗賊であり、商人でもある男だ。


 彼の手招きで、街の最深部へと誘われた。

 物々しくなるのは、街の警備状況だ――「こいつらは騎士崩れだ」

 と、ラインベルクの耳元で、伯爵が呟いた。

「見る目がありますね...ラサの兄貴からは聞いてませんが、そこの御仁はちょっと怖い感じがしますね...まあ、こっちの人も怖いんであいこって事で、よろしくお願いしますよ...」

 明るくなった広場に数人の人影がある。

 伯爵はそうそうに身構えていた。


「ちょっと待った、こっちはやり合う気はねえ...」

 オオカミの毛皮を頭から被っている男たちのようだ。

 一見すると、ただの狩猟民族のように見えなくもない――薄く叩いた伸ばした金属を何層にも重ねた鎧で身を包み、腰に提げた手斧だけで戦場を渡り歩くという戦闘民族“シャフティ”族である。定住地を持たないことでも有名なので、()()()()とも呼ばれている。

 だが、彼らを前にして流浪の民という()()()で呼ぶことは禁句だ。

 命が惜しくなければだが。

「だが、...」


「ああ、いかにも“シャフティ”だが...こっちはこっちで依頼を受けてここにいる。んーまあ、冒険者のその辺のと一緒だと思って聞いてくれ!」

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