-761話 北天の明日へ ②-
「で、国盗りは未だやる気か?」
“熾天使”の面が歪む。
歪とかそういう方向のではなく、楽し気な雰囲気にだ。
「いや、気力は戻ってきそうにないな、ゲームでないなら少しは、派手な何かができる雰囲気があったにはあった。けど、今となっては、死にそうになって少し気が変わった感じかな」
まともな意見だが、死んでいった者には足を向けられそうにない発言だ。
この世界なら、化けて出るなんてのも可能なのだから。
「ふむ殊勝だが、面白みには欠けるな」
「では...」
「ちょっと待ってください!」
はい、どうぞ――めいた雰囲気になる。
セイが二人のやり取りを止めたのは、リーダーが他に居るような雰囲気だったからだ。
「ああ、セイさんにはいってなかったか...彼女は、俺の師匠なんだ」
「なんの?」
「うーん...魔法の...」
微笑んでいるような、お面に変わっていた。
いつの間に取り換えているのか。
◇
山小屋の間取りは、そう2DKくらい。
風呂は外のドラム缶を使用する。
トイレも、外の別の小屋に縦穴を掘った汲み取り式を使うよう言われた。
「それ、匂いこもりませんか?」
「魔法使いを舐めてかかると、精力1回分を持っていかれるぞ!」
と、キルト少年は言う。
セイには意味が通じなかったようだが、何となくで分かった。
「対策もばっちりと?」
「匂い消しという薬草を放り込んである。何年も隠棲いするわけじゃないから、仮住まいとして用意しただけだ。ま、2、3か月でもしたら拠点を移そう。どこがいい?」
それなら、じっくり考えようって話にはなる。
それが、次の目標設定なのだ。
“月の城”は壊滅した、見事にというかあっさりとだ。
“熾天使”という賢者が居ようと、居まいと関係なかったかもしれないが。彼女自身は、そういう意味では居た方がよかっただろと、セイの想い人にぐいぐいねじ込んでくる。
「ああ、そうですね。たぶん師匠が居れば...」
仲がいい。
セイは、自分が嫉妬していることに気が付いた。
「ふ、まあ、セイさんもいますし、心機一転で何から始めましょうかね」
少年の瞳にやる気が戻ってきたようだ。
◆
黄天の王宮に入ると、そこは血の海だった。
皇太子の姿は見えないが、国王だった人の躯はある。
とりあえずは、掃除から始まりその後、化けて出てこないように入念に荼毘に伏した。幽霊はありえそうだが、結界でもある神殿付きの王宮にそれが出ることは稀だ。それよりも、躯を残しておくとゾンビに成り兼ねないので、こちらを始末する必要性に駆り立てられた。
一同が、再び大広間に揃う。
今回は、魔王ウナ・クールも参加しての大きな会議となった。
「先ずは魔王軍が察知した情報をお伝えします」
クラゲの怪しい魔人が、取り出した昆布の表面を読みだした。
あれがメモか何かだと察しがついた人間は、あまり存在しない。
「地中海には今現在も、二つの勢力で覇権を賭けた空しい戦いを強いております」
「え? 二つ? 三つではなく二つなの???」
ん?んん??という風に皆の頭に疑問符が浮かんだ。
声に出してきたメグミさんよりも、訝しむ者は多い。
「あー、えっと...それは、アレでしょ、ほら、」
多分何かわかって気の利いたことを言いたかったエサ子は――「ごめんなさい、先をどうぞ」とあきらめた。
道を譲る彼女は珍しい。
大人になったねえなんて、他の子たちから揶揄われている。
「一つは、“南欧諸国大連合”という大きな枠組みが形成されました。成立からまだ、ひと月ちょっとくらいしか経過していない状況ですが、まあ、我々の予想をはるかに超えた機能的な同盟であると思われます...皇帝ラインベルクの手腕は見事のようです」
「ってことは、帝国が敵対していた国々と共通の敵の下で手を組んだってこと?」
「いえ、実質的には停戦までを視野に入れた、終戦交渉がメインです。あちらは今、保有する帝国本来の領土以外、すべての所有権放棄までが条件だと言っておりましたよ」
と、クラゲの魔人が告げた。
魔王からも咳払いをする素振りが見えたが、無視されている。
「いや、これは未だ交渉段階で、衛星国などの扱いとか、ほら...いろいろあるし。未だ、ほん決まりでもないし」
クラゲの退出を促す。
幼女、ウナ・クールの傍へ行くのはメグミさんだ。
彼女の背後に回ると、耳元で囁くように――「そういう状況の話はもっと前に伝えてよ」――まないたの身体を服の上から摩り上げる。
「や、ちょ...め、メグミさん...やぁあ」
「メグミさん? お姉ちゃんでしょ、ウナちゃんは、未だわかってないようだね」
「は、はいお姉ちゃん」
顔を真っ赤にして、湯気まで上がる息遣いの子になっている。
「給仕のお姉さん方いますぅ~??」
メグミさんが手を挙げて問う。
メイドさんたちが走ってきた。
「ごめん、この子粗相したみたで退場、よろしく」
場を仕切る。
魔人のクラゲは無表情だが、彼女からの合図を受けると口を開きはじめた。
《魔王さえも、その手の中か?! マル殿がブックメイカーだと思っていたが...》
そのやり取りを見ていた、ハティは更に警戒心を強めた。
「じゃ、残りが...この北天から切り離された、残党たちって事か」
強いの?という流れの話に変わる。
北天の立て直しにどれほどの興味があったかは今となっては不明だ。
が、彼女の気分は、残党の方に向けられている。
妹であるマル、恋人にもなりえたマルの実が心配しすぎて、気を紛らわす意味で八つ当たりの相手を探している。彼女は今、そんな雰囲気にあった。
「ちょ、ちょっといいかな...えっと、メグミお姉さま」
年齢からすれば、槍遣い(女の子)とメグミさん(仮2)では2、3歳程度の差しかない。
本人がお姉さんと、呼ぶ分には間違いでもないが、この場合はウナ・クールとのやり取りを見て、気に障らない程度の距離感の為にあえて呼んだ。
「で、巫女さんとこの王宮はどうするのかな?」




