-48話 勇者とその一行 ③-
荷馬車に居た8名がタワーシールドを担いで勇者の下へ駆け寄った。
中隊と同じように盾の陣を敷き、亀の甲羅のような形で勇者たちを守りに入る。
「そんなに戦力割いて大丈夫なのですか?」
勇者に心配された傭兵たちは失笑している。
「なにか?」
「ちょっと、勇者さまが心配されて」
耳長いエルフ娘の口を、分厚い皮手袋で遮った。
「先刻より、このパーティは大所帯じゃないですか。それぞれ個別なんて誰も考えちゃいませんよ」
勇者の肩を叩きながら。
「じゃ、守りはこっちで引き受けますから、目の前の敵を蹴散らしましょう!」
分隊長は、後方の中隊長から『4人だけでも、教会へ飛び込ませろ』と指示されていた。
魔女と前衛のパーティを分けてしまった事は、計算違いだったが、クラスアップを4人が無事果たせれば勝利条件に到達すると前向きに考えた。いや、異性への耐性が無かった魔女が、隊長の背中に隠れてしまった方が誤算だ。
これでクラスアップ条件が5人揃ってとなると――隊長の眉間に皺が寄る。
「あれ、隊長...険しい表情ですね?」
魔法使いのひとりが訝し気に覗いてきた。
「顔がちかい! 彼女のことだ」
背中に隠れている魔女を指している。
褐色の肌、黒いストレート・ロングの奇麗な髪、色白のエルフ同様、横に突き出した耳長い特徴をもったダークエルフ。瞳の色は碧で、瞳は大きい、身体は妙齢な雰囲気を漂わせるものの言動で実齢より、幼さを感じさせる。
会話すると、初心な十代という感じだろうか。
中隊長の背後霊は、30をちょっと越した感じだ。
クラン仲間からは、中身の餡子出てきちゃいますよって揶揄われるほど、素で生きているタイプ。
魔女に勢いでキスしたことを実は、物凄く猛省している最中だった。
「心の声は漏れ出ないように」
なんて、盾構えてる仲間に脇腹を突かれた。
「お前らなあ...」
中隊長がくくっ...笑った。
「指示をお願いします! 斥候の奴らも準備できているようです」
◆
集団戦は、日々の訓練の量と質で勝敗が決する。
その上、魂の咆哮みたいな非科学的な力が加味すると、“テルモピュライの戦い”のような数十万 vs 数百なんて戦いだって凌げる。まあ、死力を尽くして全滅なんて局地的な結果を考えだしたら、キリがないのだが。集団戦の醍醐味は、守って守って、守った上で削ぐ力を正面に集中させるという事だ。
王国騎士団は、初手で横陣を敷いてきた。
斥候の見立てでは、横2枚の縦列横陣だと分かっている。
屋根上の弓兵を処理した後、中隊長は魔法使いらに前衛パーティ突破の火力支援を命じた。
「勇者殿の陣、紡錘へ変化!」
斥候からの物見が逐次入る。
「っ、分隊長も楽しんでるな」
「騎士団、横陣より左右に分裂! 囲い込む様子です」
それは、読んでいた展開だ。
紡錘で突破されれば、後方で守り固める2枚目の横陣で足止めを行う。突破された1枚目が後ろに回り込んで包囲すれば、方円の陣が完成する訳だが、それは早計だ。
分隊と同じ戦力は、既に放っている。
1枚目の彼らよりも早く傭兵団の遊撃部隊が背後を襲う。
「いや、存外...俺も楽しんでいるか」
ひゅっ風を鳴く音色が聞こえた。
中隊長の肩鎧が粉々に消し飛んでいる。
軌道がそれたのは、彼を庇うために飛び出した魔法使いだ。
「た、たいちょう...よそ、見...しすぎ」
彼の身体もまた、砕け散るクリスタルのように弾け飛ぶ。
退場でどっかの教会へ飛んだ。
「盾の陣! 魔女を守るんだ!!」
彼は、自らも盾を持ってその陣の一部となった。
「どこから撃ってきやがった?!」
「こちらからでは...あっ」
斥候の声が次々と消える。
「勇者殿、一行が教会に入りました!!」
残るひとりが状況を伝え、消息を絶つ。
遊撃隊も幾らか数を減らして、中隊長の下へ戻ってきた。
「隊長、狙撃手がいるようです」
盾の陣の中に飛び込んできた彼の背中に矢が刺さっている。
「済みません、さ、先に...り、だつ...」
と、遺すと彼も退場していった。
「あ...」
「心配されないでください。魔女殿は私が必ず守り抜く!」




