-753話 姫巫女降し ㉛-
あきれた。
馬鹿正直に第一皇子を暗殺したら、手渡された給金は“金貨10枚”だった。
兄の命が金貨10、涙も出なかったが悔しくはあった。
いや、それよりも皇族の命を図れる奴が、いることにぞっとした。
だからそいつの目には、いくら暗愚で能無しで、底なしのお人よしのバカ兄上は、高く見積もって“金貨10枚”って奮発したに違いない。
違いないとか他人事みたいだけど、やっぱり悔しい。
悔しさ、ついでに長兄さま...優しかったのになあ。
◆
「宰相にとって、ボクたちラインベルク派はもう用済みのようです」
残念ですが――マルの言葉には、その悲しみというのがない。
まだ、何かやる気でわざと、そういう雰囲気の話を持ち出してきた。
「ここからが先ず問題点1となります」
リフルは上体をやや起こしただけで、卓上と体を支えているのは大きなバストと肘だけだ。
力を抜けば、また巨乳を潰して突っ伏すだけになる。
「問題点って?」
「リフル姐さまの拉致です!」
エセクターも仰向けから戻ってくる。
「なんだって?!」
「あ、いや...なんで?」
「ま、多分、宰相側の動きが物語っていたので、ここから邪推します」
ふたりの喉が鳴る。
それぞれふたりの傍にはゆりかごがある。
寝かしつけた子があるのだ。
リフルは男女の双子、親指を吸っている仕草が可愛い。
エセクター家の長女は、数か月でもう見た目が3、4歳にも見える。
悪魔曰く――『成長が早いって前に言ったじゃねえか!』と、キレられた。
「リフル姐さまが次代の皇帝なのだと思います。いや、厳密にはその旦那様が、ですね...女性なので。そうすると、宰相が足しげなくラインベルクの下に通っていたことも、何となくですが頷けるんです。伝令で済むのに...ね」
「だが、もう...こいつは双子を生んで」
「宰相自身が皇帝になるのなら、別段、それはどうでもいい事じゃないでしょうか。リフルさんを寝取られたと思っているタイプでも無さそうですし。目的のために必要なのは彼女の身柄、そこで誰の子を産んでいようとも、関係ないわけです。あとは、牢屋でも開かずの部屋にでも、幽閉してしまえば揺るぎようのない権力の掌握が可能になります」
マルの考えは、スライムの表皮よりも冷たい。
冷水に腰までつかったような雰囲気だ。
「じゃ、じゃあ、」
「こいつのおっぱい、揉まなくてもいいってことか?!」
卓上にあるゴム毬のような巨乳をエセクターは、さしていた。
しかも、両手でその大きさと、柔らかさを必死に表現している。
持ち主でも赤面しそうな仕草だ。
「下の方は、な、こいつがビッチなせいもあって緩くて、まあ...ガバガバかもしれんが...おっぱいは別だぞ、こいつの着る服がいつも、はち切れるんじゃないかって心配なほどの緊張してるし。糞、あたしもなあ、もっと欲しいんだよ...ガキに吸われて搾んじまったしなあ」
「あ、リフル姐さまを抱くかは...また、別の話じゃないですかね? だって、子供の命を盾にされたら...母親としては拒む理由はないじゃないですか。目的はあくまでも身柄の拘束で、恐らくは未亡人になった後に皇籍の復活、後に遺言の発表と結婚って流れじゃないかなあ...うん」
「ま、マルもずいぶん、怖い事...言うもんだね」
お子様スライムかと思ってたら――という言葉が聞こえた。
宿屋兼食堂の“はみちつと熊手亭”にある3匹のマル1号~3号は、お子様スライムだ。
ステータスの称号欄にも、そう書かれてある。
マルのステータスには、検索でも鑑定でも拝見することは叶わないが、種族名スライム・ロードと書かれてあり、称号には神の片翼と刻まれていた。
二つ名は紅玉姫だ。
「でも、多分、そんな感じで迫られるよね」
「じゃ、マルの推測を素にもう少し邪推すると...リフルに子がいるか居ないかで、選択肢が変わってたかもってこと?」
エセクターは、隣に突っ伏しているリフルの脇乳を触る。
やわらかい...
「うーん。そんなに大きな違いはないと思うけど、ラインベルクに長期休暇と栄養ドリンクをしこたま援助して、結果的には子を作るよう促した可能性はあるよね。守りたいものが旦那では弱いし、長く手元に置いておくにはやはり難しい。それとは逆に、子供を盾にすれば...洗脳して、宰相に逆らえないようにすることも可能だし...やっぱり最初からリフル姐さまには選択肢がなかったとみてよさそう」
「そっかあ、私はコマか...」
「で、今からそれを逆手に取る。まだ小さな勢力だけど、別に帝国内部にこだわる必要はない...と、ボクは思ってる!」
「何ソレ? あたしらは今、帝都にいますよ...大丈夫マルちゃん、師匠の私が性欲処理手伝ってあげようか?」
下っ腹を押さえ、マルがたじろぐ。
2号の受けた屈辱が、本体に蘇った瞬間である。
「間に合ってないけど、間に合ってます...ってそういう話じゃなくて、四方には兵権を持った方々がいますし、ボクの知己の方が、カルス殿と接触できた頃です。軍事面では宰相といえど手は出せません...故に勝機があるのですよ!」
大胆不敵な笑みだが、腰は引けている。
マルが股下を押さえながら、後ずさりしているからだが――リフルの死んだ魚の目より、師匠のジト目が怖い。
「どうしたのかなあ?」
「いや、と、トイ...」
「ああ、いいよ、あたしが手伝ってあげるから...」
「いえいえ、お、お構い...なく...」
「もう、この子ったら。大丈夫、あたしは指1本、いや2本しか使わないし...」




