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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
802/2521

-743話 マルが起きないんですけど-

 話は、ちょっとまともな()()()()に遡る。

 現実という言葉が適切ではないとしたら、マルが昏睡するきっかけとなった頃に戻ると言ったところか。彼女の頭を膝上に置き、物凄く心配そうにメグミさんは覗き込んでいる。

 また、その隣には必死に祈るよう、右手を握っているヨネの姿があった。

「どうだ、未だ起きぬか...」

 傷の癒えたハティは胡坐をかいてその場にある。

 エサ子も心配で、マルの左手を硬く握っていた。

「どうして応えないんだろう」

 普段、勇ましいまでの自信家な、メグミさんのトーンが弱弱しく聞こえた。

 自信をもって物事に取り組めるのは、その後ろに必ずマルが居るからだ。

 妹だと皆には言ってあるが、マルも認めるエサ子の(())ライバルである。

「唸る訳でもなく、苦しむわけでもなく...ただ、ただ、寝ているような、そんな雰囲気?!」

 メグミさんの頭の上にあるクロネコも、マルを覗き込んでいる。

 必死に落ちないよう、しがみつきながらだ。



 マルが意識を失ってもう、数時間。

 背に朝日を背負っている状態だ。

 幻覚で昏倒させられた人らも意識不明の重体だが、マルほどではない。

 助けられる者は、スカーたちの尽力で何とか混乱を食い止めることはできている。


 帝都と北天は、主のいない空白状態だ。

 少なくとも黄天王国は被害甚大と言っていいだろう。

「マル殿が起きないのは由々しき問題だが、もっと不味いのは病巣を取り除いた後の国だ。“月の城”の連中は、もはや力は無い――と、言いたいが...」

 国外に持ち出された兵の存在は大きい。

 彼らが自分たちの帰るべき()()()()()()()と、知ったらどういう行動に出るか予想ができないと告げる。

 頭の上からクロネコを引っ張り出す。

 おなかの匂いを嗅ぎながら、

「あんたはどうするの?」

 と、さり気なくつぶやく。

 クロネコとは心のバイパスがつながっている。

 メグミさんが獣化したときに偶然、つながった絆である。

 もしも、姫巫女が人の姿に戻れたとしても、このつながりが断ち切れることはないだろう。

《さあ、どうでしょうか。少なくとも私の中の聖女さまは、マルさんのことを“先生”と呼んで心配なさっている様子ですし、私がこうして他者の体を介して魂ごと抜かれたのも、聖女さまのつながりのせいです》


「そういうことじゃないよ。もしも、元の――」

 と、目を向ける躯の少女。

 体ばかりが大きく成長した、赤子同然の女の子に目を向けた。

 半裸なのはそういう状態で、マルが担いできたからだ。

《そりゃ、戻りたいにきまってます! 私の体ですし...でも、戻っても結構、いろいろ見られてますし...》

 と、歯切れの悪い対応だ。

 もっとも、体の隅々を見たであろう者たちはもう、この国にはいない。

《それって、レイプ犯はいないから安心して、普段の生活に戻れと言ってるの?!》

 怒りの琴線に触れたようだ。

 激しい憎悪がメグミさんに流れ込んできている。

 母違いとは言え、()である男が自分を襲ってきたことを、水に流せることはできない。

 また、10年ちかく暗示をかけてきた男にしてもそうだ。

「うん、酷いことを聞いたかもしれないけど」


《あ、いえ...私もわかってます。聖女だの巫女だのと言ってますが、王女ですからそこで転がっている抜け殻では子も産めず期待できないことも...ですが、犬猫と違って()()()がありますから、例え未だ処女だとかそういうのだとしても、みじめな姿を晒してたのは間違いなく...ですし...ちょっとご、ごめんなさい...》

 クロネコの心が遠のく気配を感じる。

 姫巫女は奥に入り込んで大声をあげて泣いた。

 代わりに出てきたのは、聖女の欠片だ。

《あの子も苦労してるんだよ》

 と、彼女は告げる。

 他人事なのは、欠片だからだ。

「でも、立て直すには」


《わかってると思うけど、あの体との繋がりは断ち消えている。仮に反魂の術式を開発した本人が戻ってきても、元に戻せるかなんてわからないとは思うんだけどね》

 メグミさんは、ネコの股下も嗅いでいる。

《もしもし...そこはちょっと恥ずかしく》


「メスじゃないよね? どこに隠してるの???」


《あ、いやほら...ちょっと、本気で探らないでよ》

 借り物の体の詳細な部位までは把握していない。

 暖かくなったら、急に体の芯からぞわぞわと湧き上がる衝動を自制心で乗り切った後だ。

 今更、オスとかメスとかなんて考えたくない。

 が、ふと、今しがた頭の片隅を何かの影がよぎっていった。

「ほら、()()()()啼く白色、三毛、黒、ブチのまんまる顔の子たちが、ママー、ママーって乳を強請る光景を浮かべてごらんなさいな。ああ、かわいいねえ~ かわいいよね~ ほら、ヨチヨチ歩いて目の前で転ぶのよ、どうよ、かわいいでしょ」

 手足を伸ばしてだら~んと、担がれているクロネコは瞼を閉じる。

 瞼の裏に子猫たちを抱える自分自身がある。

 見上げると、別のコウモリネコが鼻を重ねてくる――どうやら、子猫の父親らしいオスだ。


 そして、覚醒。

《私、メスでした!!》


「それ、わかってるからもう、いいよ」

 クロネコへの揶揄いはとうに終わったようだ。

 “鑑定”スキルでドラゴンの幼生であることまでバレている。

「帰りたいけど、帰れないって...いや、帰っても汚れてるじゃ、ねえ」


《帰れるなら、帰りたいですよ!》

 聖女を押しのけて、王女が戻ってきた。

 クロネコの瞳の奥にふたりの少女の姿が見える。

 見えたような気がしたと言い換える。

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