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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-735話 姫巫女降し ⑮-

 子爵軍は帝都に戻らず、子爵領に入る。

 今後の拠点は、この地と定めたのだ。

 領地を獲得したので、()()()()()という事だが、そう簡単に表舞台から、お暇は出来ないようだ。


 その実、帝都にある“はち蜜と熊手亭”の旧騎士団兵舎は“火蜥蜴団のねぐら”へと移管しても、食堂兼宿屋の最高経営責任者は、カルス・ヴァン・ラインベルクとはっきり明記されてある。

 この食堂で事件が起きれば、いつでもラインベルクを呼び出せることが出来る訳だ。

 まあ、便宜上の話だが。

 騎士団兵舎の頃から、人の出入りは多かった。

 特段、ガラの悪い連中が出入りする訳ではないが、元奴隷市民っぽい連中の姿は目撃された。


 人の売り買いなど道徳的には問題があるだろう。

 しかし、時代によっては正当化された頃もあった――ブルーメルという古代王国も例外ではない。

 文化レベルは、紀元前2世紀前後だ。

 ま、この場合どこがモデルか?という疑問は残るだろう。

 が、アナウンスは無い。


 看板娘マル(分身3体)も引き続き、給仕でアルバイトだ。

 子爵領との連絡が主な任務となる。

「完全に自由じゃ...ないんですねえ~」

 給仕マル1号の言。

「当たり前でしょ! ボクにとっても情報収集は大事なの! わかるよね?」


「ええ、まあ...あ、はい...」

 気乗りしないのは、別行動できるという、ぬか喜びの落胆が大きかったからだろう。

 マルが3匹の思念を読み取らなくても分かる――ただいま“ないわ~”“それはないわ~”の連呼中だ。3匹の大合唱はあれだ、田んぼからそれと無く聞こえてきた蛙のゲロゲロロ~っていうのに似ていた。

 何処か遠くで聞く分には、夏だねえ~なんて言えるのだろう。



「ひとまずは腰を据えていられると思う」

 楽観が取り柄のラインベルクが、鎧を脱ぎながら皆に伝えた。

 まあ確かに一段落はついた事は確かだ。

 蛮族討伐というイベントを越えて、ゴブリンたちは散り散りになった。

 少なくとも残党狩りくらいは、別の誰かに手柄を譲るとして休息は重要だ。

「逞しくなったね...」


「ああ、そうかな?」

 ラインベルクも“まんざらでもない?”みたいにポーズをとってみる。

「いや、その...竿が...」

 いきり立つ流々とした棍棒。

 やや短いのは内緒だ――マルの視界にそれを捉えていると、何やらチカチカする。視界がうすらぼんやりぐにゅぐにゃと曲がって見えた。

「あれがオスの匂いだ!」

 エセクターは、嫌な微笑みを浮かべながらマルに抱き着いてきた。

「はは~ん、あんたもメスだって自覚できたんだねえ」


「してますよ...そ、それぐらい...分身で増やせるけど」

 分身したら、株分けみたいに“名”を与える。

 今後、それが族名となってスライム・ロードという種が、増えていくことになる。

 ただし子孫たちに種の保存とか、種の繁栄という意識が薄くなると――勝手に途絶えるらしい。

「で、どうよ...あの美味しそうなソーセージ!」


「ストレートに言いますね」


「こう、鼻孔の奥を刺激してくれる匂い。しかも、あの理想的な勃ち姿は彫刻のような粗末なものとは段ちだろ? くぅー溜まらねえ。いっけねえ、リフルの奴も狙ってたんだ...」

 と、レクチャー半ばで放り捨てられた気分。

 マルの目でもう一度、ラインベルクの身体いや裸体を見直す。

 肩の筋肉はまだ薄いが、毎朝の素振り30回は一応の成果が出ている――多分、剣は得意な魔法で補えば、冒険者の上くらいは大成するだろう。

 胸筋、申し訳ないほどの平たさだ――もっと腕立て伏せが必要な気がする。

 腹筋、わりと普通いや、凄く普通。

 普通意外に何を見るべきか、強いて苦言を添えるならばだ、腰にかかる脇腹が弛んできているくらいだろうか。

 臀部、そそり立つモノと非対称に小尻だ。

 締まって見えるのはギャップのせいだろうか――と、もう一度全体像を見たら、裸族ポーズを決めてやがった。ちん...なんとかを隠しもせずに、マルへ堂々のアピールタイムである。


「成敗!」


 手元で投げやすそうな花瓶を竿に向かって投げていた。

 師匠のエセクターから、折れたらどうすんだ?!と、しかられもしたしリフルからは、お姉さんが重要性を分からせてあげようかと、怖い眼付きで凄まれもした。

 ラインベルクの命より、タネが重要なのだと言われ、やや彼に同情する余地が生まれる。

 あくまでも余地だ。



 ドメル子爵領ギューレ。

 付近にラダの大森林と雄大な高地が広がる。

 領都の名は、ラインベルクの名に響きが似た“カレアス”という。


 人口1万2千人前後、周辺の村を足しても2万にさえ届かない。

 皇帝の寵愛を受けていたという理由で兵役は免除され、特産品のチーズが王宮に納められていた。が、チーズを使った料理などは終ぞ見たことは無かった。

「そのからくりは簡単じゃぜ」

 と、老子爵がひっひひと嗤っている。

 まあ、親父殿と呼ぶべきか迷っている。

「その辺は、テキトーでいいじゃぜ...呼びやすかったら“じじい”でも“じいちゃん”でもよか」

 気さく過ぎる。

 ラインベルクにも涙...。

「まあ、チーズじゃろ...あれはな表向きは宮廷に卸して居るが、陛下の死後も買い上げてくださっておるのじゃぜ。この領地は火避けと分かっての配慮じゃ...帝国にとっては要石。2万も満たない人口で兵を1割でも引っこ抜いたら、立ち行かぬこともじゃぜ」


「集められて100が限界か?」

 リフルの率いた士族の数が限界だという事だ。

 老子爵の若い時に、この地へ封じられた。

 帝国の拡大路線の最初の頃だから、恐らくは最前線だった筈だ。

 領地としては小さく、豊かだが高地が大半を占める。

 高地を平面的に捉えた場合で、収穫量計算でもされて居たら、とんでもない枷が懸けられたら大変な事になっていただろう。

 そうされなかったのは――

「100で限界じゃぜ。だがな、儂が若い時分に率いて居った兵がまるまる残っておる。主人の儂の方は、命脈を繋ぎ切れんかったのにじゃぜ。故に、カルス殿...この子爵領を頼みますじゃぜ」

 老子爵が頭を下げていた。

 ラインベルクは直ぐさまその行為を止めさせた。

 打算だけでこの家を選んだところはある。

 リフルの実家なら意に従わせるのも容易だと思っていた。

 が、そういう考えは何処かに置き忘れていた。

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