-45話 新品・勇者爆誕-
勇者と繋がってた不正アクセス者は撤去され、彼のAIは無事本体と再接合された。
不正アクセス者は、勇者から引き剥がされるまで『黒い二刀流の剣士になって、無双するんだ!』と叫んでいた。NPCにだけ告知された不正アクセス問題――不信に思われた方はお気軽に“GMコール”をお願いします――と周知される。
不正アクセス者は、初犯という事でアカウントの1か月停止処分と、ペナルティでステータス洗浄された。
これはNPC側から細やかながらの反発を招いたのだが、公式はNPCへの不正介入を問題化して対処すると宣言し、彼らの怒りを鎮めている。
ただ、まあ。
膨大な固有IDをひとつひとつ洗い出した上で、NPCとそれ以外を選別するのは不可能だと思っていた。
が、それをしたとなると、運営側も看過できない。今回は偶々だと思いたいのが正直なところだ。仮にNPCの固有IDハックをして、データの書き換えまで行われたらと、考えると恐ろしい。
普段は動かない公式が、静かに動き出した瞬間だった。
◆
生まれたて新品の勇者は、第二王都のど真ん中にぽつんと立っていた。
一応、過去の記憶は少し残っている。
封印という感覚にちかい、何か束縛を受けていた気もするが、彼は往来激しい道の真ん中で両腕の掌をグー・パーしながら自分の身体の状態を計っている。
「うらああああ! あぶねえぞぉ、こらーどけや! 唐変木!!」
背中からガラガラ音が――振り返ると、2匹の馬に引かれた荷馬車だ。
新品・勇者、はじめての事故に遭う。
2匹の馬の前足で地面に叩きつけられ、引かれた荷馬車に手足が引き千切られた挙句にズタボロになって首がコロコロと石畳みを転がった。これは往来のNPCだけじゃなく、冒険者も夢見の悪い光景を目撃してしまった。
ゲーム的には、野獣のエサとしてのボディパーツというアイテムになる。
非安全圏ではよく見かける死体だが、街中でまた、不慮の事故で死体化するNPCは少ないだろう。
ちょうど、女剣士も婦人たちと、着流せる服を買いに表通りを歩いていた最中の出来事だった。
「う゛...これはグロい」
女剣士の仮姿の影が、死にかけの勇者の目に飛び込んできた。
薄れゆく意識と途切れるAIを前に『かわいい女の子発見!』という、とても甘酸っぱくも切ない感情を憶えて逝った瞬間だ。
実際は、転がる首を見て女剣士は眉間に皺を寄せ、『食事前に見たくないものを見せられた』とご立腹であったことも確かだ。
「お嬢様、お口直しに可愛らしいペットなどを愛でるのはいかがでしょうか?」
と、婦人は機転を利かせて彼女の手を引いた。
女剣士は、『ほほう! 私の目に適う子がおるのか?』と目を輝かせてその場を後にしている。
暫くすると、真っ白なフードとローブを纏った賢者が現れる。
肉塊となった勇者を見下ろし、溜息を吐いた。
「何度もシミュレートし直しても、こいつはここで肉塊になる。ただ、死に方が毎回違うだけと...」
「だが、再びこいつが表舞台に上がり反逆児として、敵対せねばクライマックスは興ざめだろうな」
脇の路地から、似た格好の賢者が現れる。
「不正アクセス者でもよいから、道に戻すか?」
「黒い剣士で二刀流になりたいといった、あのガキにか?」
やや不遜で小生意気な少年だったと記憶している。
少なくとも、こちらの思惑通り動く気配はない。
「とは言え、あの娘との邂逅はなさそうだ」
「だが、細身の剣使い...あ、レイピアの女剣士をパートナーに所望するんじゃないか? あの手合いというのは...」
肩を竦め、重苦しい息をひとつ吐く。
「いや、褒美としてくれてやると鼻面に提げてやればよい」
「存外、お前も悪魔だな」
「いやいや、お互い様だろう?」
◆
第三王都の宿屋にて目覚めた少年は、清々しい朝を隣で寝ている少女と迎えた。
昨晩は、町一番という屋敷から、公使の娘という彼女をかっさらって激しい夜を一緒に過ごした。結果、彼女はまだ、彼の安宿の部屋にいるのだ。
掛けたシーツに黒く固まった血の跡を残し、彼女の寝顔を少年は満足げに見下ろしている。
「童貞よ、さらば! さあ美女が俺を待ってるぜ!!」
新品・勇者爆誕の幕開けだ。




