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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-730話 姫巫女降し ⑩-

 その夜半過ぎ頃だ、高い城壁に囲まれた“バトゥワ”に火の手が上がった。

 斥候が大半を占める捜索大隊1000人も同市に向けて進発したが、深手を負った兵士を背に載せた馬が戻ってくるまで、一体何が起きているのかという事情を知ることは出来なかった。

 が、マルは隊の中に忍ばせた()()()()を通して、一部始終を観察していた。



「で、どうだった」

 居室に戻ってきたラインベルクをマルは見上げている。

 ベッドの端に座り、居眠りかと思わせるような雰囲気の中で、やや片目だけを覚醒させたからだ。

「どうってことは無い。挟撃だれたよ...相手は、タイミングを知っていた」

 仕掛けるタイミングと、わざと怪我人を放つタイミングをだ。

「それはつまり...」


「こちら側の意図はすべて筒抜けという事と。こちら側にスパイの存在を裏付けたことになる。これは状況証拠でも分かるよね、もともとそういう可能性を棄ててないから、斥候隊にスライムを送り込んだ。ただし、この状況で何人がボクたちと同じ考えに至るだろう?」

 その通りだ。

 先ず、スパイを抱え込んでいる陣営は初めから発覚してもいい罠を用意している。

 つまりは、罪を擦り付けるスケープゴートを用意しているという意味だが、それ以外でならラインベルク=宰相のサイドは気づいて()()と、思われているに違いない事だ。

 マルの目下、怖いと思っているのは、ラインベルクにこの状況に首を突っ込ませない事にある。

 知っていて斥候隊を行かせた罪も浮上するし、ネタの仕込みなど罪状を押し付けられるに違いない。


《何だかんだで、厄介なことに巻き込まれる体質みたいだしなあ》

 両目を見開いたマルは、少しだけ閉じていた膝を開く。

 見下ろしているラインベルクの気を引くためだ。

 人前では、大きな胸の肉欲に溺れたい等と嘯いているが、ラインベルクという男は真正のロリコンである。その証拠に、マルに宛がわれた部屋への侵入は二人の大人な女性を煙に巻いて足茂なく通ってくる有様だ。

 マル本人が風呂で居ない時などは、勝手にベッドでうつ伏せに寝ている始末だ。

 これは、もうヤバい奴でしかない。

 で、そのヤバい男の目線を分かった上で膝を開く――喉が鳴る音が聞こえた。

「暑いよね...蒸れませんか?」

 と、唐突に違う話題を振った。

 蒸れませんかを“濡れませんか”に聞き間違えるよう仕向け――

 彼が飛び込んできたところを、足で踏みつけた。

「あれ? ちょっと...マルちゃん、いえマルさん...な、なぜかな?」

 踏みつけられた男は目を細くしながら、困惑気味だ。

 誘ってきたからと、思っているに違いない。

「カルス殿には言葉を並び立てるよりも、分かって貰えそうなシチュエーションというのが分かってきたのでこういう対処になりました。ま、ボク的には毎度、こんな方法を取りたいわけじゃありません。気づいてないフリして選択前の下着を嗅いでたり、盗んだり、覗いてきたり、添い寝しようとしたりとか...気持ち悪いんで止めてください! リフル姐さんと師匠エセクターに言い付けますよ!!! で!」


「は、はい」

 涙目のラインベルクがある。

 幼女の足で踏まれるという行為も、彼にとっては嬉しい事だ。

 このまま、鞭でも打たれると――。

「この件は他言無用! 斥候が死地に向かったこと、内部にスパイがいる可能性も()()()()ていで対応してください。宰相閣下から問われても、()()()()()()と、通しておいてください」


「え?」

 他言無用は、当初、この女王様プレイの事かと勘違いしていた。

 ラインベルクの目が細くなりかけて、一寸で見開かれた。

「何故だ、宰相は」


「ええ、今は味方みたいな立ち位置ですが、ボクから見たら王宮のすべてが敵にしか見えません。師匠から事情を聴いた上でも、ハイ、そうですかと...納得できませんでした。各皇子との力の差は歴然ですが、現帝国の半分を掌握している宰相に負い目があるとすれば、後継で立てている末子の素性くらいです。で、仮説が立ちます――末子の皇子は()()()()()です」

 リフルとの歳の差を考えると、確かにマルの言葉に重みがある。

 彼女が溺愛された()であり、皇位継承権があったのは確かなことだ。今現在、皇籍から廃されていても、王に立てられた者がツルの一声で復籍させれば、正真正銘の皇女に戻るのだ。いや、新皇帝誕生だ。

 他の皇子たちは、リフルの復籍は認めても、皇位継承権一位なんて世迷言は認めないだろう。

 例えば、遺言があってもだ。

 そして、その遺言が真正のものだとしても、各皇子らは実権掌握の為にリフルの復籍も認めない。


 故に、ラインベルクは縁あってエセクターの施した召喚術によって、この地に召喚ばれたのだ。

 制御しやすい駒のひとつでだろう。

「だが...」


「反論したくなる気持ちは分かりますがね、先ずは冷静に考えてみてください。この先もずっと、良きパートナーとして彼は手を貸してくれるでしょうか?」

 幼女の足の下で幸せな時間を過ごす、カルス・ヴァン・ラインベルクは、いきり立つキノコを床に押さえつけながら、静かに萌える心のなかで考え込む。

 雑念は、マルの手によって天井から吊るされる事や、木馬の上で後ろ手に縛りあげられ張り手を貰うなどが錯綜していた。その隙間のほんの小さなところで――冷静なラインベルクが会議を開いていた。

《大概だが雑念が多すぎる》

 カルス理性が呟いた。

 小さな領域だし、渦巻く雑念の部屋に圧し潰されそうな雰囲気だ。

《まあ、幼女に踏まれ()()は、気がついていないようだが見上げてみろ!》

 カルス全員が上目使いに天井を見上げた。

 細目だったラインベルクも踏んでいるマルを見上げた――生白っぽい足がみえて、太腿の奥が見えそうで見えない雰囲気があった。

《コレだ、コレ! この薄らぼんやりした先に()()()世界が》


《真正の変態だな、カルス煩悩?!》


《なんとでも言え、理性には分からんか...》

 煩悩はロマンだと言った。

 煩悩が感性を抱き込むと()()が膨らむ図式になっている。

 小さな領域の主人は“理性”である。

《俺もマルに言われるまで、信じ難い事だと思っていたことがある》


《なんでしょう?》

 カルス感性が問う。

 眠そうだ。

 煩悩が膨らませる妄想の部屋を、無数に作らされているから猶更だ。

《俺たちの...いや、カルス・ヴァン・ラインベルクという男は安泰かという事だ》

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