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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-724話 姫巫女降し ④-

 マルはローブを購入した。

 そして仮面もだ。

 要らないのに杖も買わされた――リフル曰く。

 この世界の魔法使いは皆、男性の聖職で女人禁制。

 教会から布告された絶対の掟なんだという。

「え?! それ理不尽な...」


「いや、抜け道は在ってだな、女神信仰。こいつは例外が認められているが、あくまでもその場しのぎの逃げ口上だ。火炎球以外の魔法も使用の行使が著しく制限されている。...意味は全く分からないが」

 リフルの限界。

 マルの視線をエセクターへ向ける。

 彼女も首を横に振った。

「私に聞いてどうする」


「え、でも...」


「こっちに棲んでるからといって、人間のルールに干渉する気はない。だが、こっちの奴らは生真面目にも詠唱詩片を呟きながら、術の発動まで持ち込むから...自然に何かできるんなら、見てない時にこっそりやれ」

 という攻略法を教える。

 杖を持つのも邪魔だが、見られないように自然体でというのは相当に難易度が高い。

 マーケットで売られている()()()()なるアイテムは、その出どころがすべて“教会”であるという。魔法使いの臨時採用で暴利を稼ぎ、魔法道具でもとなると、随分に阿漕な商売をしていると言えた。


 これらのせいで、マルは、結果的に靴が買えなかった。

「好きなのがあったら言え、私が買ってやる」

 リフルは懐から財布を引っ張り出してみせた。

 豊満な胸の谷間から出た財布は温かそうだった。

 なぜか少し羨ましいと、マルは思った。



「お! かわいい靴を買って貰えたな!!」

 事情を把握している点で恐ろしいラインベルクに、抱えられるマルはやや戸惑いを隠せない。

 ふたりの女性が見ている前で、マルを子猫でも扱うように抱えた。

 ぱっと見は小動物扱いだが、別の角度から見れば“お姫様抱っこ”である。

 誰もが憧れる、アレだ。

「は、はずかしい!!」

 と、マルはラインベルクの鳩尾を殴りつけ、その場を離れる。

「俺にも娘が出来たらと、練習のつもりだったが...いや、失敗失敗。さて、ふたりの顔が怖いんで、ラサが調査してくれた事項だけを簡単に話す」

 ピリッとした空気になる。

 この宿屋が騎士団宿舎から、元奴隷らによる盗賊の“火蜥蜴団サラマンダー”を率いているという話だ。

 マルとの面会は未だ、一度もない。

「宰相のやっこさんも、茶を濁したわけじゃないが、北域で大変な事が起きたって話だ。ラサの調べでは、蛮族が南下を始めたらしい。既に北方の名だたる街が落ち、屯田制で築かれた防衛ラインは、5合目まで遣られたって話だった」

 ラインベルク本人も自分の口からこの()()を伝え聞かせていても先ず、ピンとこない節があった。それは、少し前まで部外者だったマルも同じである。

 が、この国で生まれたリフルの顔色は別だ。

 また、同じく長い事、帝国に棲んでいたエセクターも、顔面蒼白という雰囲気になっている。

 ふたりの息がぴったりを察すれば、酷いことが起きていると間接的に窺いしれた。

「元皇女のお前の方が、事情を話せるか?」

 リフルは事の重要性を知っているが、国が危ういという事実だけだ。軍事的な話は知らない。

 代わりにエセクターが席を立つ。

「私が話す。元より宮廷魔法士のひとりで二百年ほど、中枢にあったからあの地域の仕掛けには詳しい。ただ、蛮族と言っていいものか...それがな、問題だ」



 北域鎮台府が置かれている山城は、人智を越えた力で組まれている。

 魔人であるガーゴイル族のエセクターが築城に携わっているならば、当代の魔法使いたちは面食らってその秘術を目に焼き付けただろう。が、それが世に出ていないところに着目する――これは国家機密であるから秘密を知る者すべて、いや発案者だけを残して闇に葬ったことになる。

 平和ボケしている人々からしたら、人道に背くなどと口にしただろう。

 だが、結局は、その平和を得るがための布石なのだ。


 常在戦場の世界では、老若男女の区別なくまた、大人であろうとも、子でもやはり関係なく命を失う世界である。

 こうした世界では、生きるのが過酷だ。

 エセクター曰く、かつての統一王朝は北にも南、東西に兵を送り、見えるすべての大地を領土として生き残るための布石とした。自国民が理不尽に命を奪われまいとした機能的処置だと。しかし、逆にすればブルーメルが他国に戦争を吹っ掛けるもので、彼らが理不尽に命を奪っている罪悪感を忘れる為の良い訳だったと。

 北の蛮族は確かにある――守り難くて放棄した地の元何某王国の生き残りとか、市民として認められなかった人々が、帝国を襲いだしたという。皮肉というより自業自得とラインベルクは受け止めた。

「でも、その人たちじゃないと?」

 馬上のマルは、ラインベルクと同じ馬にある。

 小さい子的扱いなので、ラインベルクが抱えるような形で馬首との間にあった。

「武器を持った農民程度か、或いは盗賊・野盗のような類が国軍相手に適うはずもない。まして精鋭の屯田兵を相手に次々と防衛ラインを食っている速度、これも加味すると...」


「すると?」


「す...」


「いや、其処までは分からん」

 注目させておいて、突き放すエセクターの技のひとつ、肩透かし。

 他方の落馬が目立った。

 どうやら、ラインベルクの問答を聞いていたと見える。

「おお! 今回はかなり落ちたな」


「お前が、変なトコで“肩透かし”なんかするからだろ!!」

 ラインベルクは本気ではないが、落馬したら危ないんだぞと強調していた。

「そしたら、私が優しくヌイてやるよ...いや、癒してやるか...」

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