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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-723話 姫巫女降し ③-

 “はち蜜と熊手亭”には、いつも表向きの食堂が大繁盛している。

 味がいいという評判以外にも、店で給仕している()()が可愛いという評判で、客の足が絶えないのだというのだ。

 一目見たさの客が、リピーターになるという始末だ。

「何か、魅了チャームでも使ってるのか?!」

 マルは自らの分身を3体つくると、交代制で給仕に専念させている。

 これでお小遣いを稼ぐ方法にでた。

「え? そんなの使わないよ。これはボクの純粋な魅力!」

 と、突き放す。

 まあ、実際に体力の回復と環境把握を兼ねた、マルの作戦は、副次的効果も加えの一挙両得として成功を収めていた。

 獲得した“お小遣い”は、新しく仕入れた()()()()というお財布にしまってある。



「随分の賑わいになったな?」

 この帝国の宰相が宿の一室に入ってくる。

 随伴する騎士のひとりも無く宰相という身分の彼があるのは、腹心だからだろう。

「御付きの騎士はまた、食堂ですか?」

 奥から、平服のラインベルクが出てくる。

 何事もなければ、普段から甲冑というのは護衛か、衛士くらいのものだ。

「茶か、白湯...の一杯もなしか?」

 もとより、其処まで長居をする気があるのかと、探り合いなところがある。

「まあ、ボクにはどなたか知りませんが、主人が粗相を働きまして申し訳ございません」

 と、更に右隣の部屋からマルが茶を淹れ、給仕しに現れた。

 食堂で働いている分身とちがって、本体である。

「ふむ、バカな主人と違って、臣下の者たちのデキは格別だな...オイ!」

 小馬鹿にしているようで、そんな下卑たものは感じられない。

 彼と過ごしてきた年月の中で、この帝国の重鎮が、心を開いて接しているという雰囲気だ。


「ドメル子爵領は、視てきたか?」


「いや、未だだ。先にリフルが行って兵を集めると...そういう事だが」

 皇女リフルにとっても、その方が効率がいい。

 皇籍のはく奪の後は、母の縁者であるドメル子爵が父母替わりであるし、其処は彼女の故郷でもある。領主の孫娘からの号令である方が、集めやすいと考えた。

 ラインベルクがというより、リフルの意見だ。

「そうか、新領主...いや、どういう形でもいいが、時期を見て()()が前に立たねば兵は付いてこないぞ?! 分かってるか...騎士いや子爵殿」

 宰相に懸けられた言葉の意味は深い。

 爵位を得て、領地も獲得して領民を得る。

 各地には領主ごとに法があって、国に奉仕する為に義務が生じる。


 帝国貴族には、軍役があった。

 領地の価値に応じた兵役の義務は、国庫へ納められる年2回の納税義務よりも、重く辛いものだ。

 働き手の男たちが年単位で奪われるからだ。

 これは、生産力に直結する痛みであった。


 だが、この政策によって帝国は、国内の反乱を未然に防いでいる。

 領国が大きな皇子たちにとっても同じことで、国法の下では身分の上下に関係なく、富豊かな土地から容赦なく人手を奪う力があった。それでも、帝国では今、内紛必死の御家騒動が起きているのだ。

「ところで、だが」


「あん?」


「この可愛い娘は何だ?」

 よもや“()()”か――と、宰相が疑いの眼差しをラインベルクへ向ける。

 その目はいつかの、リフルと同じような殺意に満ちていた。

「いやいや、こ、コイツは...だな」


「申し遅れました。ボクはマルです! この部隊の軍師をしています」

 と、拝礼する。

 魅了魔法チャームによって、場の空気が瞬間的に180度反転した。

 が、結果的にマルの愛想を振りまく行為のそれが、チャームという魔法であったことがバレる訳だ。



 兵を集めている理由は近々、討伐という名の戦争があるとラインベルクは答えた。

 マルの身分は、これはこれで“()()”という形に定着する。

 情勢の師であるエセクターは、修道女として参戦。

 部隊の治癒士である。


 リフルも皇女でありながら、腰に剣を帯びて参じるという。

「えっと、何で?!」

 マルの言葉せりふをリフル本人がつき返した。

「ま、それはラインベルク様よりも私が強いからです」

 マルは主人カルスを見る。

 本人も否定せず、軽く頷いて見せた。

「そんな理由?!」


「ええ、不服?」


「いや」


「それに、あなたが如何ほどに魔法への才があるのだとしても、こんな乳の小さき小娘も参戦するんですから、むしろ今、この状況で心配されるのは、あなたの方ですよマル・コメ...」

 あっさりと言い返された。

 そして、小馬鹿にされた気分だがいずれも棘が無い。

 小ぶりだと言われて揉まれもしたが、嫌な気分になれなかったのだ。

「あ、ちょ...」

 揉まれるなんて、久しぶりな気がする――遠い眼で空を見る。

「なあ、リフル...規模は?」

 我に返るとともに、部屋にピリッとした気が走る。

 流石に浮かれている場合ではないという雰囲気になった。

「100だ。農兵では無く、じい様の命で動く、騎士と戦士を搔き集めて100とした。親族ゆえに勝手は効く。私がお前を婿にする形でまとめた兵の手配ゆえ、そのつもりでお前は振舞えばいい」

 マルの口は開いたままだ。

 婿にするという話は聞いてもいないし、宰相からも帝国から新たに100の兵が貸与される。

 そういう話で決着がついていた。

「はは、マルの奴が置いてかれてるな」

 軍議として開いている訳ではないが、エセクターとマル、リフルが揃っている。

 マルの髪をくしゃくしゃに搔き乱しながら――

「裏でこそこそとやり繰りするのは今まで通りだが、この先は表舞台でも武功ってのを稼ぐ必要があるってな、宰相に言われちまってな...俺たちが守らなきゃらねえのは、身分は末の皇子で生まれてまもねえから、力がねえ。それにリフル、こいつも皇女だから守る対象のひとつだ」


「うん」


「で、だ。こっち側には帝国宰相さまがいるんだが、これだけじゃあ武の力が足りないって事で...俺がいるって寸法だ。ま、如何ほどに力に成れるかは...俺自身もちっとも分らんがな」

 ラインベルクは嗤った。

 豪将のような嗤い方ではないが、頼もしく見えた。

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