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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 女王エリザベータの帰還
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-44話 魔王が育てた御子-

 胎盤と共に魔王に託された御子は、女の子だった。

 エリザベータにとっても母である女王は、彼女の怒りによって誅滅され、最愛の弟の遺骸をその手に取り返したと、風の噂で知った。天上の化物たちのおぞましい骨肉の争いなど、生物である時点でどこも似たことしかしない。

 悪魔のささやきなどというが、囁く程度で動いてくれるならどんなに楽なことか――魔王は静かに笑っていた。

 胎盤から零れ落ちた女の子は、魔界のゆっくり動く時間の中ですくすくと成長した。

 12歳になる頃には、魔王軍の名だたる将軍さえ彼女の剣技に舌を巻く。

 髪の色は銀、端整な顔立ちで凛々しく麗しい。細身の身体に修練を重ねて得た筋力、その上にうっすらと乗る乳房と臀部の肉は、アスリートのような雰囲気があった。

 およそ、人の世界の女の子よりかは男の子にちかく見え、異装で歩けば間違われることは間違いない。

 魔王は200年の長き時を掛けて育てた御子を、いつからか後継者の一人として、目を掛けるほどに愛するようになっていた。将軍たちもそんな雰囲気で彼女と接している。

 まだ、人の世でほんの200年程度の人外の子である身だが。

 魔力と剣技においては、年老いた魔王に継ぐ子へ成長した。



憤怒ラージュよ、そろそろお前の母のことを話しておこう」

 魔王は、暖炉の前で本を抱えて読む少女の背中越しから、声を掛けた。

「え? ち、ちちう...」


「お前の母は、奇麗な女王ひとであったよ。金色に輝く髪は、その一本一本がまるで金糸のような輝きを放ち、光の象徴だった。ワレのような異界に住まう者とは釣り合いなど取れぬ、それでも彼女は分け隔てなく愛してくれたのだ――」

 少女が振り返ると、魔王は背中を向けていた。

 大きいと思っていた魔王、育ての父の背中が小さく見えた瞬間だ。

「お前の中に母の姿を見る事が出来る。髪の色は違うが、目や鼻、唇などはよく似たものだ。お前は女王ははよりも美しくなるだろう。15か16にでもなれば、我が王国の貴族たちから求婚の誘いも集まるだろう。しかし、その前にお前には、果たさなければならない事がある」

 彼女の記憶はそこで終わる。

 いや、夢だろうか。


 路銀を使い果たした女剣士は、大樹のうろに身体を押し込んで寝ていた。

 少し疲れたから転寝うたたねをするつもりだったが、昔を思い出すようなほど寝たのは久しぶりだった。聞き取れなかった魔王の言葉は、母を殺した者の名を教えよう――というものだった。

 天上の魔王を討った勇者の御伽噺おとぎばなしには、魔界にだけ続きが残っている。

 女王エリザベータを討滅するのは、彼女の息子だった。

 しかし、彼は土壇場で人類ヒト側に反逆したというお話だ。

 魔王曰く『お前はこの後、3年を人の世界で棲むがよい。母の仇を討つもよいし、人と関わって生きるも良い――長期休暇バカンスというご褒美だと思えば面白かろう? 魔界に長く居過ぎた故、人の仮姿スキンを用意した。衣と思うて袖を通すがよいぞ』と、彼女に与えられたのが、国境くにさかいで石化されていた少女の肉体だった。

 栗色の長髪に、ふくよかで肉付きのいい身体だ。

 羨ましいほどの乳房の成長具合と尻の肉は、12歳のラージュには少し毒だった。

 困った魔王は、仮姿スキンの時間を巻き戻す。

 12歳には12歳の方が精神的に安定するだろうと。


「父上、元気にしておられるだろうか」

 15歳になって、漸く休暇を終える頃合を見計らったように彼女の下へ騎士が来た。

 人の世界に降り立つ為に犠牲になった、少女の仮姿スキンには本当に申し訳ないと思った。

 魔王から“何かあったら”と渡されたのは剣士としての鎧。

「父も私の成長を見余り過ぎだ。剣を握って常に修練を重ねても、こればかりは――」

 と、胸元を窮屈そうに視線を落とす。

 いや、非常に窮屈なのだ。

 まさか、3年で乳房ここだけ急成長するとは思わない。

「帰ったら、父の言われた通りに求婚が絶えないのだろうな...」

 ラージュの溜息は、その煩わしい求婚捌きに向けられる。

 母を殺した女王への関心は些細な事だ。


 洞を抜け出し、身なりを整え街へ出る。

 先ずは鎧の調整を施せる魔界の住人を見つけることになりそうだ。

 胸と尻のあたりの肉付きは、12の自分でも想像は出来なかった。

「せめて、この乳だけはもう、成長しないで欲しいな」

 独り言ちている。



 第二王都とも呼ばれる街には、魔王が派遣している魔族の鍛冶屋がいる。

 魔獣や魔人と比べると、人の世界で長く潜伏するには都合のいい連中だ。とくに手仕事をもって巣を張ると、何世代にもわたって情報収集に努めてくれる忠誠の高さなどが際立つ種族だった。

 特に魔王は、そういう魔族を好んで使っていた。

 次の魔王が彼らを重用するかは分からないが、ラージュが継ぐのならば彼らの地位は安泰なのだが。

 さて、彼女は魔族の少女に手を引かれるまま、路地から路地へ流れていく。

 第二王都の貧民街まで来ると、少女は扉を3回、コツコツと叩いてみせた。

「おや、これはお嬢様ですかい! 汚いところへお越しくださり痛み入ります」

 と、一家の長がラージュの手を取り、甲へ挨拶のキスを贈る。

 魔王の愛娘というのは、どの魔族も知る事実である。

「済まぬが、私の鎧を調整して欲しい... 胸が窮屈で叶わないのだ」

 家長の目配せで奥から婦人たちが現れ、彼女を試着室へ導く。

 婦人たちは手際よく、ラージュの身包みを剥ぐとそのまま、身体の採寸を行った。

「お手を上へ、脇を失礼します...」

 と、手際よく図るものだから彼女もつい言いそびれ――

「済まぬ、匂うであろう風呂もろくに入っておらぬ故」

 恐縮した少女に婦人がくすくす微笑む。

「やっぱり異装をされてても、女の子ですね...湯殿の準備は出来てます。採寸後はそちらへ行きましょう」

 頬を真っ赤にしている少女を布で包み、婦人たちは湯殿へ。

 調整を頼まれた家長は、鎧と魔王を前に対峙していた。

「あれはワレの次を継ぐ!」

 言葉は少ないが、意図は理解できた。

 鍛冶場の家長も小さく頷き、調整に必要な素材を受け取った。

「あれの好みのデザインで打ち直してやってくれ」

 と、残して魔王は店を出ていった。


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