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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-714話 大魔法大戦 ㉖-

「いきなり歯を立てる奴があるか!」

 青年は前屈みに丸くなっている。

 剥ぎ取られたズボン、裏返しになったトランクス。

 大いに荒らされて折れたり、踏みつけられた草場。

 何が起きたかは想像に難くない。


 青年は、仲間である“熾天使”に襲われたのである。

 ローブを纏った異形の者にだ。

 一見すれば、同性の老人のように見えるが、ローブの裾から尻尾が見え隠れして、艶のある四肢を持つ。

 三対六枚の翼を持ち、二対四本の腕がある。

 ま、明らかに人ではないし、天使にも見えない。

 ただ、キノコ好きという趣味がある。



 “熾天使”は明らかに拗ねている。

 深々と被ったフードの奥から青白い瞳が光って見える。

 三角にひきつった雰囲気で見えている。

「俺は魔力を使い果たして精も根も...あれ?」

 と、前屈みにあった青年は、股間のキノコを隠しながらも、襲われる以前の感じていた疲労感が晴れている事に気がつく。菊門を突く二本の指で拡張させられ、親指は竿と門の間を押された。きゅっと痺れるような違和感から、身体をのけ反らせて跳ねる海老が如く――キノコは傘を広げる前に“熾天使”の口腔へ消えたわけだ。

 が、何故か酷い眠気がある。

 それは予想以上に吸われたからだが、多幸感に近い優しい誘いを感じる。

「暫く、寝てろ」

 フードから声が漏れ出る。

 “熾天使”は見た目が同性の初老みたいだと皆は言う。

 ただ、総長である青年キルトは首を横に振り、紅い縁のメガネを掛けた人見知りの激しい()()の女の子だと、皆に伝えたことがある。当然、イリュージョンマスターである幻術士の言葉など真に受ける者はなく、信じられてはいない。

 “熾天使”も、総長がひとりでいる時以外は、見掛けることもないから存在さえも忘れがちになっていた。単に「あと、誰か居たよな?」的な覚えられ方だ。


「いや、まだ...こ、こんな...」

 股間を抑えたまま、彼は爆睡する。

 窮屈な寝方だが、これでも精一杯な抵抗である。

 仰向けにぶっ倒れたものならば、フードの賢人の好き勝手にされかねない。

 いや肉体的にもどこまで吸われるものか――「歯を立てるなよ!」――寝言だ。

「歯じゃない、犬歯が当たっただけだ...だが、犬歯をカリ首に這わせるように刺激すると、もっと硬くなるとハウツー本に書いてあった...から、実践しただけなのに...そ、そんなに私のは痛いのか?!」

 親指の腹で徐に、口の中の犬歯を押す。

 尖っているというほどではない。

 先は少し丸くなっていて、外側に張り出している。

 これでも少しは削って怪我をしないように努めていおいた――「未だ、足りないのか」



 都には大きな月が見える。

 その空に乾いた大きな音が響いた。

 六皇子の左頬を、槍使いが叩いた音だ――それは、突然の出来事。雌ゴリラの治療で皆が躍起になっている中、ハティと六皇子が睨み合っている一寸で生じた出来事だ。槍使いの中で何か癇に障ったものがあったのだろう。

 ハティも目が点になる出来事だが、槍使いの空いている腕を掴むと、自らの素へ引き寄せていた。

「何という無謀なことをする!」

 保護者のような、しかりつけ方だ。

 六皇子が手練れの剣客であれば、自動迎撃スキルで槍使いの身体は無事ではない。

 頬を打たれた男に反撃の意思が無かったことが幸いだった。

「だって...」

 ハティの太い腕に巻きつけられて、やや安堵した己を感じた。

 狼面で眼帯を身につけた将軍の顔を見る――頬を涙がつたう――「悔しくないですか?」


「それは、君の感情じゃない」

 ドレッドヘアの女性に視線を落とす。

 彼女の想いである。

 槍使いが代弁するように動いただけだ。

「まいったな...妹巫女...みたいなのが居るんだな」

 六皇子は叩かれた頬に、指を這わせてひとりごちる。

 突然の事で、耳元で囁く機会を失った。

 これは痛恨の極みだ。

「今の一撃に反応が出来ない時点で、お前の戦士としての実力は理解できた。大人しく逃げるか、抵抗を止めて神妙になるべきではないか?」

 ハティは、皇子に自首を薦めた。

 が、咄嗟に槍使いの身体を庇うように、覆いかぶさってきた。

 脂がのった、やや強面で紳士なハティらしからぬ行動に、槍使いは頬を朱に染める。

「っちぃ、勘のいい奴!!」

 六皇子の姿が、ハティの肩越しから彼の背後に見えた。

 振り返れば、対峙しているのが蜃気楼めいた影であることが分かる。

《幻術?!》

「キルト君のように、思考から対象の行動を制限させ、環境に影響するような高度なものじゃあない。が、俺が使えないとは一言も言ってないよな?!」

 下種な笑い声が聞こえる。

 目の前には、苦悶の表情に顔を歪ませている将軍があり、青緑色の瞳が優しく槍使いに注がれていた。

「大事ないな...」

 と、声も優しく心地よい。

「将軍っ!!」

 剣士は、ヨネとマルの護衛に回り、ふたりの元へは、駆け付けることが出来ない。

 今、この場を動けば、視界を奪われて治療中のふたり何れかに害が及ぶ。

「ふ、ふふ...案ずるな。未だ...ひとり頼りになる者が居るだろう...」

 頑丈な体でも、鎧の隙間から突き立てられた刃から、身を守ることは敵わない。

 槍使いを凶刃から守るために、ハティのパッシブスキルは無効化した。

 その注意をすべて己に集める為だ。

 槍使いは、護られながら周囲に目を配って状況の確認に徹する。


 オールラウンドマスターな魔法使いマルは、治癒士ヨネのサポートに回っている。流石に、背負っている姫巫女を放り出してしまうことは無いと考えれば、彼女も含めて迎撃スキルがアクティブに作動中な筈だ。

 もしも、槍使いがあの輪から飛び出していなければ、マルによる()()()に守られていたかもしれない。

 剣士君はオマケであろう。

《ん?》

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