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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-708話 大魔法大戦 ⑳-

 禁中城の大掃除はあらかた終わった。

 皇太子とその兵の眼下には、縄を掛けられた黄天王と、その重臣たちがある。

 自分たちの保身の為に、月の城という賢者たちに貢物として、自分たちの娘を贈ったとする事例のある貴族たちばかりが捕縛されている。

 “金左衛”指揮使長もその一党に組みし、列する貴族のひとりだった。

 結果的に今の地位も、その見返りで就任しているようなものだ。

 塔の中を歩いて下りて来た、マルはいくつか用意された部屋で“心が壊れた”少女たちをみてきた。

 傷を癒すことは可能だが、心ほどデリケートなものはない。

 ゴブリンに襲われたと思って――というのが、せめてもの慰めでしかなかった。


 出来うるならば、新生北天としての法に則って、暴挙に手を貸した者たちを裁くべきだと皇太子は、参加したすべての将兵に告げた。

「...余は、私刑...それを避けたいのが本音だ」

 と、苦虫を嚙み潰したように苦悶を浮かべた。

 即位する気はあるが、まだ王都内は混乱の極みの中にある。

 その縛徒の中から、かつて黄天の王だと称した父親が、皇太子の方へ声を発する。

「ならば、縄を解くが良い!」

 皇太子は、父王が何を言っているのか意味不明だった。

 が、皇子の前に将兵が武器を手にして前を塞ぐ。

「何のつもりだ」

 ――当然という当たり前のように皇太子が尋ねた。が、それと同時に、前進する彼を引き留める手が多くなる。しまいには肩や腕、腰にまで腕を伸ばして静止させようと十数名の兵士たちが、皇太子のただ一歩を封じている。

 いや、どこからそんな力が湧くのか、一歩では無く半歩踏み込まれた。

「私刑は嫌だと申されたばかりで、殿下は今、その手に持つ獲物を下ろしてください」

 振り上げている大剣と、皇子の腕ではかなりのギャップがある。

 これが無意識のうちに発揮される、キャパシティロック解除のバカちからという類のものだ。

 我に返るというのもまた変な話だが、大剣の重さに腕と肩の筋肉が悲鳴を上げ沈黙し、真後ろへ亜脱臼すると共に剣がすっぽ抜けていた。

 脱臼すれば痛みで喚き散らしそうなものだが、皇子は瞬きを繰り返しながら、伸び切った腕をぶらぶらと振って遊んでいた。

「殿下?!」

 大丈夫かと心配になったが、

「なんだこれは...余の腕が、ぶらぶらしておるぞ?」

 動じていない訳では無く、心ここにあらずと評価したほうが良い。

 もっとも、こうなった腕も自分のものではない雰囲気だ。


「殿下に一体何が?」

 宮殿に飛び込んできた治癒士らが意識のある将帥や、兵士以外の蛮行を目にして悲鳴を上げる。

 よくよく宮殿を見渡してみた――この場で息をしているのは、ごく僅かな者たちしか居ない。当の将帥たちも、手足の一部が欠損している状態にあり、皇太子以外は、出血死も疑われるほどの血の海の中にあった。治癒士の手解きが必要なのは、皇太子だけだろう。

 それでも動けたのは不思議の一言に片づけられる。

「ごふっ...う、あぁあ...お、お先に...」

 むくろたちが守ろうとしたのは、大勢に刺殺された黄天王の亡骸だ。

 瀕死だった彼らの眼には、縄を掛けられた王の姿で、皇太子の異常さを引き留める為に動いたという美談だが――その実態は、王城のすべてを皆殺しに駆け巡ってから、骸を引きずって広場に集まり、己たち自身で再び死闘を繰り広げたというものだ。

 意識は偽りの戦争犯罪者を断罪するというストーリーであった。

 深いため息を吐く皇太子の視線が、腰の抜けた治癒士の方へ動く――「父上、こんなところにありましたか?!」――だ。



 鋭く突き出された拳を、ハティは台頭していた剣の鞘で叩き崩している。

 上体が前のめりで崩されても、片膝を突かされ頬を叩かれても、雌ゴリラの瞳から闘志が消えることはない。むしろ、一筋縄ではいかぬ相手と対峙できることに感動しているようなフシがあった。

「ヨネ殿の状態は?!」

 ハティが空の後方にある3人に問う。

 気付け薬とする“マンティコアのおしっこ”は、獣人化して超回復中の雌ゴリラまで覚醒する恐れがあって、エサ子の奥の手は悪手だと怒られたばかりである。しゅんと肩を落としたエサ子は、しゃがみ込んで股下で“の字”を書いては消してを繰り替え始めていた。

 落ち込むと、こういうふうに他人ひとの気を引こうとする悪癖がでる。

 酷い時は、ひとりエッチをしてみせて、ワザと怒られることをするのだ。

 槍使い(お姉ちゃん)は――「エサちゃん、バイ菌がここに憑くと痛い事になるから、障っちゃダメ! 消毒をして...お姉ちゃんが手解きしてあげるから」――と、剣士を驚かせている。


「おい、お前ら!!」

 やや怒気が強い、ハティのトーンが脳天に響いた。

 別に殴られたわけでは無いのに、痺れるような抜け方をした。

「いや、まだ少しオドオドしてる」


「これ、必要なの?!」

 槍使いが逆に問う。

 ハティの撃ち込みは、彼自身が細心の注意を払っていても、手加減が手加減じゃない痛みを伴う。単に叩かれた、払い除けられただけでも腱がびりびりと痺れる痙攣と痛みを伴う。大げさではないが、握力をゼロにまで喪失するような感覚になるのだ。

 これを手抜き無しで受ければ骨は、粉々になる。

「必要かどうかは、個別に判断しろ!」

 この教えも、言い方はどうあっても戦闘ながれは、状況の変化によって常に留まることはない。と、頭の片隅に置いておけば、僅かな変化でも見逃すことはないし、考えずに過ごすこともないと悟らせた。

 フレズベルグは、戦い方を――。

 ハティは、生き残り方を――不詳の弟子に伝えたところだ。


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